第44話 ギヨームが語る

 そもそも彼らガーディアンは地球ではないこの星の出身であった。何をしたのかは知らないが、ほとんどおたずね者のような位置づけで、捕らえられた、氷漬けにされて宇宙の彼方かなたに追放されたらしい。その当時のこの星には超古代文明ともいうべき高度な科学が発展していたということだ。それはもう滅んでしまったのかこの星にもうその痕跡こんせきもないらしい。追放され長い年月宇宙を彷徨さまよって辿たどり着いたのが偶然にも地球であった。彼らは誰にも見つからず長い年月眠り続けることになった。あの女神イシスの原型を完成させたことで世界的な科学者となっていた俺の両親は、国連の要請で南極で発見された謎の石棺せっかんの分析に呼ばれる。そこで眠っていたガーディアンたちの封印を解いてしまったらしい。それもイシスによる分析、計算の結果だったらしい。地球外からと思われる彼ら謎の生命体の発見は世界に発表されることはなく極秘裏に研究が進められた。様々な分野の科学者が集められたが、そのリーダーは俺の両親であった。ギヨームさんいわくもう生物としては死ぬ寸前だったようだが、新たな身体を与えられることで蘇生したらしい。


「そんでよ、ちょうどもう地球がヤベえってことになっててよ、だったらいい場所があるぜっ、てこの星の位置を教えたのがエルンストだったのさ。どう地球がヤベえのかは興味なかったから忘れちまったが、その当時の世界の頭脳として活躍していたイシスも星を捨てる選択をしていたようだぜ。そんときの地球の技術でこの星にぎりぎりいけるかどうかだったみたいだが、まあけだな。そんな運に任せるしかない現実を突きつけられても意外に地球人類は落ち着いてたっていうぜ。まあ、終末世界モノの創作物が多かったからかもって、少年の母上は笑ってたな」


 それであの方舟っていう宇宙船か……。その頃の世界人口がどうだったかは分からないが、すべてを救うのは不可能なのは俺にでも分かる。それでアリエッタの言っていたくじ引きなのか。そしてくじに落選した人びとは電脳化という名の安楽死によって最期を迎えた。でもその抽選自体を拒否して地球とともに最後の日を過ごした人たちのほうが数は多かったようだ。

 

「まあ、昔はこっちで悪いことばっかしてた俺達だけどよ。少年の父上が俺達に人類の力になって欲しいって、このガーディアンっていう職を与えてくれたんだわ。もちろんイシスが暴走しておかしくなることはご両親は予測していたな。だから女神の破壊も頼まれたんだ。そうそう、この星に到着したときはほんと地獄だったぜ。第一便と二便は現地の安全確保のための軍人中心の構成だったんだが、現地民相手にこっちの兵器が通用しなくって全滅さ。俺達の最終便が着いて、結局俺達ガーディアンが主導で戦ったんだ。魔法が使えねえと無理だったってことだ。昔は地球の科学に似た魔法の文明が進んでいたんだが、何があったか知らねえが、そんなもんは無くなってて純粋な地球で言うところの『剣と魔法の世界』さ。この星にも人類に近い種がいたんだがすべて駆逐くちくされて絶滅してた。もうエルフやらドワーフやらの星になってたんだ。だがそうなりゃ、俺達の得意領域だ。だってこっちにはこの星を恐怖におとしいれた魔王さまがいるんだぜ」


「ま、魔王さま?」


「ああ、エルンストな。あいつは追放された後も改心なんてしちゃいねえ、ずっと戻ってこの星に復讐することを考えてたのさ。まあ、そんなこんなで、苦労はしたが大陸の東の地域はなんとか確保できた。もちろん魔王さまは次に向けて動くわな。で、そこに立ちふさがったのが女神イシスだ。エルンストの行動も少年のご両親は予測していたみてえで、エルンストの行動はすべて先回りされて潰された。魔王対策は準備されてたってことだ。俺達も一度はエルンストにそそのかされて女神イシスに立ち向かったんだが、俺達の情報はすべて女神は把握していてまったく歯が立たなかった。あんなの相手にどうすんだよって思ったな……。それで結局、俺は戦いから一歩引いて裏方仕事に回ったんだ」


 これでもギヨームさんはかなり端折はしょって話したと言っている。


「それじゃあ、倒すのは無理? 倒したとしても次はエル兄が……。そもそも女神さまを倒す必要なんてあるんですか?」


「それはな……。俺は帝国でも諜報活動やってたからよく分かるんだが、なあ、お嬢……」


 ここまで何も言わずにじっと黙って聞いていたシルビアさんに彼は話を振る。


「帝国にはもう自国を支える力は残ってはいないのだ。すべては女神イシスの決定により政治は動かされる。他国への侵攻も内政もすべてだ。以前は上手くいっていたのだ。国民のほとんどを占めるのが自らが生み出したミメーシスたちだからな。すべての情報は女神が把握し、分析し、最善だと思われる指示を出す。父は、皇帝であるといっても自分で決断をしたことはない。そのイシスが最近は、極端な施策を打ち出し続けて国の財政は破綻はたん、それを補うための属国への重税、それによる反乱。まあ、酷い悪循環になっているな。平民はいうまでもないが、貴族ですら生活に困窮する始末だ」


「教会は?」


「連中は利益を吸い上げることにしか興味はない。生活の基盤となる魔道具については技術も販売もすべて押さえているからな。国家という形をどこもとってはいるが、実際は程度の差はあるが教会の植民地のようなものだ。教会の総本山のある帝国ですら、その程度にしか見られてはいない。だから、私は教皇をこの手にかけた。だが、じきに新たな人間がトップに用意されるのだろうがな」


「帝国の人たちが立ち上がるということは?」


「ないな。そう大半の者が作られているようだ。女神には反抗できぬようにな」


「それじゃ、ここは女神さまにとって都合のよい世界……」


「そうだぜ、少年。あのイシスがたくらんでいるのは、さらに西。この星のもともとの住人に対する侵攻だ。見ただろあの空飛ぶ兵器。あんなものこの星全体の征服を考えてるんだろうよ。魔物を使うエルンストも魔王っぽいといえばそうだが、女神さまのほうがえげつない気もするな」


「どちらが勝っても、未来は明るくはないのかも……」


「だな」

 

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