第7話 マテオの聖眼
「これは
「うわっ!?」
いきなりマテオさんが左の目玉を引っこ抜いたんで、俺は思わず声を上げてしまった。
「ぎ、義眼?」
「そうデアル。私は大陸西方の聖戦において大きな戦果を上げたのデアルが、相手の将軍がなかなかの強者で左目と引き換えに倒したのデアル。
「聖眼って?」
「悪魔の
「悪魔?」
「うむ。教会最大の敵デアル。この国に降り掛かっておる『災厄』も悪魔の
「ひっ!」
マテオさんが急にでかい声で笑いだしたんで驚いた。俺の様子を見てニヤリと笑うと、ポッカリ空いた左目の空洞に再び聖眼をはめ込む。ぐるりと目玉が一回転すると俺へと視線が固定された。
聖教国は神の教えを大陸全土に広めると同時に、こういった魔道具の生産をすべて管理している。その知識、技術は教会が
「とは言えこの聖眼、ただ外から見て情報を得るだけのもの。相手の心拍数、筋肉の動き、瞬きの回数、発汗などふつうの目玉よりは高性能ではあるがそれだけのこと。その多くの情報から考え、判断し、行動するのは自分であるからして、補助具でしかないのデアル」
「へ、へえ……」
「アル、お前は神を信じるか?」
「そんなの当たり前だろ」
聖騎士さまっていうのは神さまに仕える仕事だろ、どうしてそんなことをあえて聞くのか。
「どうして当たり前なのデアルか?」
どうしてって……。
「だって神父さまが言ってたし、冒険者さんたちも迷宮に入る前に神さまに幸運や無事を祈るし……」
「うむ。そうであるな。で、その神さまを見たことは?」
「はあ? そんなのあるわけないじゃん!」
「うむ。
その厳つい顔が満面の笑みになる。何を言っているのか意図が分からない。
その後、この国の置かれている状況を教えてもらう。約三年前、この国の王様の前に悪魔が現れたらしい。その悪魔が自分の支配下につけばこの世界の半分を渡そうと申し出たのである。逆らえばこの国は大きな『災厄』に見舞われるだろうと。王様はその誘惑に打ち勝ちそれを断ったらしい。その悪魔の言っていた『災厄』なのか、作物は実らなくなり、野生の動物が姿を消し魔物がいっそう凶暴になった。俺も知っているように迷宮の魔物は知恵をつけ攻略が困難になってしまった。そのため生活に使う魔道具の燃料である魔石の価格が
悪魔の話は怖いけども、その生活水準というのには実感がなかった。貧民街に住む俺達の生活は今も昔もさほど変わっていないのだろう。
「では、これで最後デアル。両手を机の上に出すのデアル。手のひらは上に向けるのデアル」
「あっ、はい!」
言われるままに差し出した両手の上にマテオさんの巨大でごつい手が重ねられた。彼は騎士なのに異常に大きくなった拳ダコが、殴り合いでも恐ろしく強いのだろうと俺に想像させた。
「うむ。これはなかなか。聖眼の見立てに間違いは無いようデアルな」
「何が? でしょうか……」
目の前の大人がとんでもない強者だと認識した俺の口調は、さっきまでとは違って自然と改まる。
「アル、お前は魔法が使える可能性があるのデアル。あくまで可能性なのデアルが」
「魔法って、火の玉がグワーッって飛んだり、怪我が一瞬で治ったりのアレ……、でしょうか」
「グワーッやら一瞬かどうかは術者の能力によるが、お前が想像しているものよりはきっと
想像は想像であり、実際に俺は魔法っていうやつを見たことはない。冒険者さんたちがそんな話をしているのを聴いたことがあるだけだ。俺の知ってる貧民街住みの冒険者には魔法を使える人はいない。
「そうですか……」
でも可能性があるって言われたらなんだか嬉しい気分になる。足もエル兄よりも遅いし、腕力だってたいしたことはない。そんなことを言われたのは初めてでなんだかこそばゆい。
「魔法は別の騎士が教えることになるから楽しみにしておくのデアル」
「えっと、マテオさんからは?」
「私が教えるのは教養と、これデアル」
マテオさんはあのゴツい右手を天に突き上げた。やっぱりボコボコにするタイプの人のようデアル。
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