第3話 弟たち

 冒険者さんたちは、あの聖騎士とかいう連中にどこかに連れて行かれてしまった。


「こんなところに住んでいるのだな」


「ああ、ちょっと待ってて」


 俺はと言うとそのまま解放されて、シルビアさんを俺達の我が家にご招待しているところだ。何でも俺達の住んでいるところを見てみたいらしい。それに自分で稼いだお金を使うって言ったのに、自分が出すって言って聞かない彼女にたくさん食料品を買ってもらった。パンパンにふくらんだ袋いっぱいの食糧品を入り口の前に置く。


「みんな! 帰ったぞ!」


 俺が小屋の奥に声をかけると三人の幼い弟たちが顔を出した。


「アル兄ちゃん、おかえりなさい!」


「すごい! ごはんがいっぱいだ!」


「あれ? エル兄は? その人だれ?」


「ああ、はいはい! エル兄は遠い所にお出かけだ。まあ……、そのうち会えるって」


 帰った時、誰か欠けている場合、仕事には出られない幼い弟たちにはこういうことに決めてある。と言っても仕事に出られる年長者は俺だけになってしまったし、冒険者さんたちもどこかに連れていかれてしまった。早く次の割のいい仕事をなんとか探さなくてはならない。


「はじめまして。私は、シルビアと言うんだ。名前は聞いているぞ、ジルくんに……、そして君がたぶんダンくん。最初にしっかり挨拶ができた君がルイくんだな?」


「おおー、せいかいだよ。お姉ちゃん」


 最年少のルイが驚いた顔をしてそう言う。


「それにしてもアルベルト。どうして君たちはこんな場所に住んでいるんだ? 君たちは教会の孤児院で暮らしているはずではないのか?」


「ああ、半年前に引っ越したんだよ。孤児院は貧乏だからって、女の子たちが残ったんだ。でも、神父さまは優しいから月に一度炊き出しで腹いっぱい食わせてくれるんだぜ」


「そ、そうなのか……。苦労してきたんだな……」


「何言ってんのさ? 迷宮の仕事は神父さまの紹介で孤児院にいるときからやってるし、そのときより飯はマシな感じだよ。いまじゃ頑張ったときは日もあるんだぜ」


 仕事を頑張ったら腹いっぱい食べられる。孤児院にいるときは仕事があってもなくても一日一食で、たいした量は無かった。


「ああ……」


「すごいだろ?」


「うん。凄いな」


 どうもシルビアさんが感心してくれているようには見えない。まあ、そんなことはいい。弟たちが今か今かと袋の中身を気にしている。


「よーし、待ってろ今から飯作るからな」


「アルベルト、私も手伝おう。で、台所はどこに?」


「台所? 見ての通りここ以外何にもないけど」


 始めは10人いた仲間たちで寝るにもぎゅうぎゅう詰めだった小屋も、エル兄がいなくなって淋しくなった。雨風さえしのげればいいだけの地面き出しだし、見たら分かると思うのだがこの人は何言ってるんだろうか。孤児院には台所はあったはずだが俺はそこに入ったことはない。


「は? なら、どうやって料理をするというのだ?」


「そんなのこの鍋に具材をぶっこんで煮込むだけだけど?」


 唯一の調理道具である大鍋をシルビアさんに見せる。そして小屋の中央にある炉を指差す。


「お、おぅ……。そ、そうだアルベルト、私が宿泊している宿の店主は料理がとても上手なのだ。食材を持ち込んでも作ってくれるはず、なあ、そうしないか?」


「ん? そうなの? こいつら腹減ってるから早いほうがいいんだけど……。なあ、お前らどうする?」


「いいよ!」


「うん!」


「美味しいもの食べれるの?」


 弟たちは『料理がとても上手』という言葉を聞き逃さなかったようだ。


「ああ、もちろんだとも。店主はお城でも働いていたことがあると言っていた。その味は私が保証しよう」


 シルビアさんの言葉に三人は目を輝かせてうなずいていた。まあ、俺は食えれば味なんてなんだっていいんだが、こいつらが言うなら。


「シルビアさん、この鍋いる?」


「いや、食材だけで問題ない……」


 俺達は袋を抱えると、弟たちを連れてシルビアさんについていくことにした。

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