第34話

 マリーが仕上げの一閃を入れると。

 南壁の上方がバカンッと爆発するように割れて崩れていく。

 崩壊音と落下する盗賊達の悲鳴と、見張り台の怒号と歓声が入交り耳が痛い。

 震動と砂ぼこりの中で、上の支えを失った両開き戸の南門が倒れて行った。


「ひええええっ、マリーちゃん人は殺さないって言ってたよね!?」


「ハァハァハァ……私は誰も殺してませんよ」


 確かに、確かに直接人を殺してないけど。

 そういや誘拐犯にお仕置きする時も同じ事言ってたっけ。


 まず落ちた盗賊達を食べに魔獣が集まった。

 その食事にありつけなかった魔獣が崩れた南門から中へ入る。

 砦の内外は魔獣で埋まり、人は肉を引き裂かれて咀嚼された。

 魔獣の身体に付いた血が星明りに照らされてヌラヌラと光る。


「この魔獣は……フェンリルなんかじゃない!

 パパの本で見たよ、えっと、巨大芋虫のワーム!」


「ワームの亜種ですね。

 あの身体とあの足ではここまで登って来れないでしょう」


 このワームは芋虫というより蛆虫のように白っぽい短い身体だった。

 それに狼のような顔と足を持っている。


 地上にいた者、見張り台に居た者が慌てて洞窟の入り口に殺到して扉を開けた。

 身を守るために逃げたつもりが逆に魔獣を住み家に招き入れる形となる。

 ワーム達は足を身体に収納して次々と洞窟の中へ入っていく。


「マリーちゃん、ワームが洞窟の中に!

 商会の人達も食べられちゃうよ!」


「丈夫な柵で守られているから大丈夫です、多分ですが」


「もしかして全部わかっていたの!?

 あの洞窟を最初に造ったのって――」


 急にマリーが後ろに飛びのいた。

 考え事をしてコートをしっかり掴んでいなかった僕は、その場に取り残されて転がった。

 ドンドンドンッと身体の周りに三本の槍が突き刺さる。


「ひゃあああああっ!」


「身体が小さくてよかったですね。

 私だったら即死でした」


「ひいいいん、そんな事言ってないで助けてよ!」


 刺さった槍が、今度は宙に浮かび鎖を鳴らして素早く戻っていく。

 仰向けだった身体を回転させて、槍が戻った方向を見ると崩れた壁から登って来た男が見えた。

 小さな身体に八本の槍を背負った病尉遅(びょううつち)だった。


 五百年前、魔使石(マジカストーン)時代に入ってから刀や槍は飛ばして使うのが主流になる。

 魔使石製のチェーンや紐をつければ、そこへ魔力を流して思い通りに操る事ができるのだ。

 ピストルも発明されたが消費魔力が大きく真っ直ぐしか飛ばせないのを考えると、刀を飛ばす方が実用的。

 かくして、大量生産が出来て鉄をも斬れる魔使石の刃物は飛び道具となった。


「小娘ぇっ! よくもよくもよくもぉ! やってくれよったなああ!

 我が槍を特と味わええええっ!」


 僕は急いでマリーの後ろに隠れる。

 操金術師は金の杖を柳葉刀へと変えて構えてそっと呟く。


「お腹が減りました」


 超ピンチ! マリーの魔力が枯渇しようとしている!


 病尉遅(びょううつち)の背中から射出された槍は長い多節棍のように一本に繋がった。

 それを持ってビュンビュンと振り回す。


「フハハハハハッ、世界一の長さを誇る我が槍を受けれるかぁっ!

 小娘えええええっ!」


 遠くの病尉遅(びょううつち)の槍がマリーの頭を掠める!

 身体を低く構えて槍を避けるとポニーテールが数束切断された。

 髪が舞う中、こども傭兵はそのまま敵に向かって走り出した!


 男は虚を突かれた。

 万に一つも幼い少女が間合いを詰めるなんて考えてなかったのだろう。

 男の魔力が槍を止める前に、少女はスライディングして足払いを喰らわせる。

 遠心力に引っ張られて、男は壁から離れて砦の中に向かって宙を飛ぶ。

 それを見た僕は、棒を素早く回転させたら人が空を飛べる可能性について一瞬閃きそうになる!


「ぬおおおおおおっ、小娘ええええっ!」


 病尉遅(びょううつち)はそのままワームの群れの中へ落ちていき、赤い液体の花びらを散らす!


 僕が駆け寄ると、マリーは立ち上がった。


「マリーちゃんは殺してないね」


「そうです、私は殺さないです」


 皮肉のつもりだったけど、心の無い少女に通じるはずがなく。


「あ」


 マリーが突然、宙を見つめる。


「牢屋で保護作戦、失敗かもしれません」


「え!? は、はぁ?」


 どこを見て何を言い出すかわからない。

 少しは彼女の事を理解したつもりでいたが、やっぱりまだみたい。


「ヴォオオオオオオオオ、マリースゥゥゥゥ!」


 見張り台から飛び降りて、魔獣達を踏み台にして南の壁までジャンプして来た長髪の大男がいた。

 盗賊の変態ボス、ホルヘ=ヘススだ!

 靴ひもでひとつに結んだマリーの革のブーツを肩から下げている。


 見張り台に立て籠もって果敢に魔獣と戦っていた男達がいたが、主力のボスが抜けて総崩れとなり、大蛆虫に生きたまま喰いちぎられた。


「マリース、赦さん」


 低い声で唸ると、強い殺気を放ちながら投げナイフを手に構える。


 マリーは金の柳葉刀を半分に分けて、ふたつの小振りな盾に変えた。


「奇妙な金の武器、そんなオモチャで!」


 最初に動いたのはホルヘだった。

 背中の二本の大きな蛮刀が鎖を鳴らして射出されて、マリーを襲う!

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