第33話
「それでどうするの、これから。
てっきり商会の人達を連れて逃げるのかと思ったよ。
それとも僕等だけで逃げるつもりなの?」
「最初は、もし逃げれたらそれでも良いと思いましたが」
「うわっ、心が無いマリーちゃんらしい答えだね」
「野良傭兵さんを雇った時点で詰みだったのです。
私達は危ない橋を渡らされていたんですよ。
あんなに殺気立った商隊だったのに、油断しました」
そういえば、モンヤ商会を奴隷商扱いしてたなあ。
「……マリーちゃんてさあ。
強く頼まれると断れない性格なんじゃないの」
「……。
そうですか?」
「そうですよ、やっぱり気付いてなかったんだね。
気をつけた方がいいよ。
それで結局これからどうする?」
マリーが近づいて僕を抱き上げえると。
「アンカー!」
白いコートの両肩の開いてる個所から金の棒ふたつが上へと伸びる。
金を壁のトゲに絡ませると、身体が上へ引っ張り上げられて空中に放り出される。
「ひいいっ」
マリーは華麗に一回転すると壁の上に降り立った。
高所の強い風が少女のコートの裾とポニーテールを揺らす。
「子供を売る人達をこのままにしておけません」
僕は下に降ろされる。
一瞬の事だったので、高所が怖くて『ひいいっ』とか悲鳴なんてあげてませんよ?
伸びた金はマリーの右手に集まり杖になる。
「ってことは、これから盗賊共を片っ端から斬っていくんだね!」
「私は人を殺しませんよ。
急ぎましょうか、時間がありません」
「何の時間?
夜が明けるまでの時間?」
「私のお腹が減って魔力が尽きるまでの時間です」
マリースが駆けだす。
「確かにそうなったら詰んじゃうね!」
僕も駆けだした、北壁から東壁を回って南門へ。
途中、赤褐色に染まった木箱やら麻袋やらを乗り越える。
中に何が入っているか考えたくもなかった。
「ハァ、ハァ、見張りが見事に一人もいなかったね。
みんなここに集まっているのかな」
南壁にある木箱の陰に隠れて様子をうかがう。
南門の上部に忍び返しのようなトゲが長く伸びており、その先に五人が長いヒモでぶら下げられていた。
門の上や見張り台に盗賊が詰めかけ、手に手に武器や鳴り物を持って騒ぎ立てている。
トゲの上にも多数の賊がスリルを楽しむように腰掛けていた。
そして門の向こうには魔獣達の顔がずらりと並んで大口を開けている。
「ヒィィィィッ、アニキ助けてくれよぉぉ、もう一度チャンスを!」
「うるせえ、お前みたいなドジはこの盗賊団にいらねぇんだよ!」
「ヒィィ喰われる喰われるっ! ンギャアアアアッッ!!」
魔獣によって下半身が食いちぎられた下っ端盗賊はずっと叫び続けていた。
盗賊か商会の人か分からないが、他の4人も噛み千切られて叫び声を上げるたびに、盗賊のギャラリー達が興奮の声をあげた。
「盗賊の中でも色々大人の事情があるみたいだよ、マリーちゃん。
しかもみんな娯楽みたいに楽しんでる! ひどい人達だよ、もうっ!!」
「それより、あの魔獣はフェンリルに見えますか?」
「え、僕、フェンリルはパパの蔵書の挿絵でしか見たことないけど。
あれは確かにフェン、リ、ル……?」
裂けた口と長い牙、顔の周りにフサフサと長く黒い毛が生えている。
それはいい。
顔がのっぺりと長く毛が無い。
でも爪の尖ったオオカミのような前足が見える。
「なんか違う種類に見えるよ、マリーちゃん」
「高さもフェンリルの半分ぐらいですね」
「あ、そうだね、本で書かれてた高さよりずっと低く見える!
でも恐ろしい魔獣には違いないよ」
魔獣は幾重にも折り重なって全体が見える個体がいない。
森の暗闇の中から顔の波が押し寄せては退いてを繰り返している。
「南壁の状態を確認できたので、そろそろいきます」
木箱の陰から立ち上がり、壁の上辺の真ん中に立つマリー。
金の杖を薙刀に変え、刃を地面に突き立てる。
「流れに沿って斬る、流れに沿って斬る、流れに……」
無表情に呪文のように同じ言葉を繰り返し、ズブズブと得物を沈める様を見上げているのは怖かった。
顔に身体に熱風を当てられたようなヒリつく感覚、これがマリーの殺気!
「ダルマちゃん、私に掴まって!」
僕はジャンプしたが、殺気に当てられてうまく身体が動かない。
なんとかコートの下の端にしがみ付く。
「……」
マリーは前を見据えたまま動かない。
「ど、どうしたの? マリーちゃん?」
声をかけながら、コートの裾を少しずつ上がっていく。
「……!
見えました!!」
そう叫ぶと薙刀で足元の壁を、火花を散らして切り裂きながら突進する!
ひしめき合う体格の大きな大人の足の間も、減速することなく構わず突き進む!!
コートが翻って、僕は掴むのに必死だ!
「何だ、なんだ?」「お、犬でも入り込んだか?」
「痛ぇ、足を斬られたっ!」「おい、押すなよ!」
「押すな押すな、落ちる!」「おい生贄台が傾いてるぞ!」
大人達の怒号が後ろに流れて、遠くなる。
南壁の西端近くまで来ると、走りを止めて振り返る。
それから薙刀を大きく振り上げると、
「ここです!」
下に横一閃を入れた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます