第6話
車の中は、いつもと違って寂しさがあった。
そのせいか、普段なら気にならない沈黙が、今日はやけに重く感じる。
これから私は、ここから車で二時間の"北区"で暮らす。
どれほど時間が経ったころだろう。
ふとミラー越しに南雲と目が合った。
「お嬢、北区のことは聞きましたか」
「聞いたよ。お父さんの幼なじみがいるって。困ったことがあったら絶対に頼りなさいって。それと…お父さんが私の事頼むって、言ったらしくて」
「はい、ちゃんと頼ってくださいよ。
「お嬢、俺は……。あなたの傍に居れませんから」
「…うん」
そうだ。
これから、私はひとりで生きていく
「そろそろ着きますよ」
窓の外に目をやると、見慣れない景色が広がり、胸が少しだけ高鳴った。
「やっぱり北区とあそこは全然雰囲気違うね」
「そうですね。ここに比べれば向こうは殺伐としてますしね」
私が住む街は大きなショッピング施設や繁華街など都会にあるような物は片手に収まる程しか無かった
それに、向こうは荒れている。
そういえば…
昔、よく幼なじみと探検ごっこをしていた。
転んで泣きじゃくった私を、あの子は必死に笑わせようとして──
それでも泣き止まなくて、結局南雲が迎えに来て、二人まとめて連れ帰られたのだ。
そんなことを思い出して、小さく笑みがこぼれた。
「何か楽しいことでもありましたか」
「昔、
「ああ、そんなこともありましたね。」
「あの時は、2人が居なくなって焦りましたよ」
「私、南雲を困らせること大好きだったもん」
ふふん、と南雲に笑いかけると南雲はそんな私に呆れたよう、それでも優しく笑った。
「着きましたよ」
到着した建物を見た瞬間、思わず声が漏れる。
「……大きい」
「南雲、本当にここなの?凄くおおきいよ」
ひとり暮らしのはずなのに。
そんな疑問が頭を埋め尽くす。
「この家です。剛さんが"しっかり防犯対策された場所"にと、このマンションを選んでました。」
"オートロックもしっかりあります"と南雲の説明が耳をすり抜けていくほど、私はマンションに釘付けだった。
「お嬢、そろそろ帰りますね」
「な、なぐも…っ」
まだ呆気に取られてる私を置いて帰るなんて――!
「そんな顔しないでください。大丈夫です。お嬢は幸せになってください」
…うん。
でも、別の意味で泣きそうだ
「お嬢」
南雲の固い声が、耳に届く。
「私だけ幸せになんてなりたくない」
南雲や
「そんなこと言わないでください。あなたは自分の幸せを考えてください。俺は───俺たちは、必ず迎えに行きます」
南雲はふわりと、優しい笑顔を見せた。
そして、いつもより少し強い力で、頭を撫でた。
──────離愁を込めた言葉は、結局どちらも口にできなかった。
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