第六話:深海の戦い④

 ドォォォンッ !!

 深海を揺るがす凄まじい衝撃。

 炸裂する魚雷の爆圧が水中に伝わり、視界を遮る膨大な気泡と乱流が発生する。


「くそっ!全員、衝撃に備えろ!」


 UXX334艦内が激しく揺れ、金属の軋む音が響き渡る。

「報告しろ! 被害状況は!?」

「艦体への直撃なしですが爆圧でジャイロが狂いました! 一時的に制御不能!」

「魚雷が爆発した影響で、ソナーが乱れています! 敵影、見失いました!」

 

 ネクス艦長が眉をひそめる。

「奴は……あの潜水艦の艦長は無事なのか?」


 オペレーターが焦りながら必死にセンサーを操作する。

「……ダメです、爆発の影響でソナーが反響しすぎて敵艦を補足できません!」


「熱源もなし……敵の魚雷が命中したなら、奴も同じ状況のはず……えっ!? 艦長! 海底で爆発音と圧壊する音を一瞬だけキャッチしました」


 UXX334が静かに漂う。

 周囲は激しく乱れた水流が渦巻き、まるで深海そのものが激怒しているかのようだった。


♦♦


 魚雷が爆発する前にて、伊400司令塔内では日下がとんでもない命令を出す。

「武御雷神の矛を展開するのですか? しかも5千メートルの深海で?」


 橋本が素っ頓狂な声を上げると他の乗員も一斉に日下を見るが彼自身はいつもの如く冷静な表情をしていた。


「そうだ、射出レールを収納して武御雷神の矛を展開する。たったそれだけだ!  勿論、前部甲板を開放するから巨大な海水と圧力が艦に降りかかるが無問題だ。  武御雷神の矛を収納している区域は独立していて艦内の圧力には何の影響もない。 このまま伊400は爆発を利用して最大限で後進しながら海底に衝突する。奴は絶対、勝ったと思うだろうが油断大敵! そのまま武御雷神の矛を奴に進物してやる! 急げ、これは厳命だ!」


 伊400を覆っているプラズマシールドに触れた瞬間、魚雷は爆発する。

 その瞬間、伊400は全速力で後進して海底に激突する。

 衝突の衝撃に日下達は歯を食いしばる。


「武御雷神の矛展開だ!」

 格納ユニットが解放されていく。


「了解! 武御雷神の矛、起動します!」

 武御雷神の矛が展開開始。


 艦体前部に設置された武御雷神の矛がゆっくりと展開される。

 砲身が露出し、微細な青白い放電が周囲の水を蒸発させながら拡散していく。


「電源供給システム、リンク開始! 安全装置解除!」

「コイル加速準備完了! エネルギーチャージ開始!」

 艦内モニターに、武御雷神の矛の充電率が上昇していく様子が映し出される。


……20%……50%……70%……

「出力100%まで、あと10秒!」

「発射方向はどうするのですか? 敵影不明ですが!?」

「問題ない! 奴は必ず我が艦の正面にいる! 乱流を突き抜けて、深海の闇を焼き払え」


日下の鋭い指示に、神薙が息を呑んで頷いた。

「了解! 武御雷神の矛、発射用意完了!」

「発射!!」

ズドォォォォォォン!!!


 突如として、砲口から蒼白い閃光が迸る。

 超高エネルギー粒子が加速され、一気に放たれる瞬間、砲身全体が轟音と共に発光する


 砲口から発せられたエネルギーは、海水を圧縮しながら一直線に放たれ、進路上の水流すら吹き飛ばす。


 通常なら水圧で威力は無くなるが特殊なシールドで覆っているため、真空と同じ威力である。

 発射の余波で、伊400の船体がわずかに後退。

 しかし、その瞬間、深海の暗黒が蒼く染まり、目標へと一直線に突き進む。

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