第二話:出撃準備
伊400兵装管制室(武御雷神の矛管制室)
艦内の薄暗い通路を抜け、兵装管制室に入ると、そこには艶やかに磨かれた黒い砲身が横たわっていた。
「M-99E 荷電粒子砲、又の名を“武御雷神の矛”」
この伊400とっておきの手であり、未知の敵に対抗する唯一の決定打だった。
兵装担当の『坂田幸辰』少尉が、最終点検を進めていた。
彼は端末を操作しながら、部下に指示を飛ばす。
「粒子加速器、稼働チェック開始! 重イオンを使用したシンクロトロン異常なし! コイルの充電率、確認!」
「了解! 加速コイル、安定稼働中! 現在の蓄積エネルギーは85%、最大出力まであと3分!」
モニターには、粒子の圧縮率、電磁場の安定性、熱管理データがリアルタイムで表示されている。
橋本先任将校が腕を組みながら、確認のために声をかけた。
「砲身の冷却系統は問題ないか?」
「冷却システム問題なし。連続発射は3回までが限界ですが、通常の戦闘なら問題ありません」
「電磁コイルに異常は?」
「なし。直前のテストで最大出力まで正常に加速できることを確認済みです!」
坂田少尉は砲身を軽く叩きながら、満足げに頷いた。
「これなら、一撃で敵の装甲を焼き切れます」
その時、別のオペレーターが報告を入れる。
「荷電フィールド、安定。発射準備完了。艦長の指示があれば、いつでも撃てます」
日下艦長が通信機越しにその報告を聞き、静かに言った。
「よし、了解した」
海の底で待つ敵を、圧倒的な閃光で貫く矛である。
伊400魚雷管制室
低く鳴るアラーム音とともに、魚雷管制室は慌ただしい緊張感に包まれていた。
狭い室内では、オペレーターたちがそれぞれの端末に向かい、発射管や装填システムの最終点検を行っている。
「魚雷管制、最終チェック開始!」
管制官の『真田正孝』少尉が指示を出し、部下たちが次々と報告を上げる。
「1番から8番まで発射管、異常なし!」
「全発射管圧力安定! 射出チェック完了!」
「魚雷誘導システム、リンク正常!」
前方のパネルには、最新の高性能音響魚雷や超音速“韋駄天魚雷”のステータスが映し出されていた。
橋本先任将校が指差し確認しながら尋ねる。
「熱探知システムは問題ないか?」
真田がすぐに応じる。
「熱誘導魚雷、全弾システムチェック完了。誘導ビーコン正常!」
真田は端末を操作し、発射シミュレーションを実施した。
「電子戦妨害があっても誘導補正は可能か?」
「ジャミング耐性99.9%、手動補正により精度維持可能!」
「よし……」
橋本は頷くと、最後に発射装置を見回した。
すると、ベテラン兵曹が苦笑しながら言った。
「魚雷はスタンバイOKです! あとは艦長が撃つ決断をするだけだな」
その瞬間、艦橋からの通信が入る。
「こちら艦長――全兵装の最終チェックの報告を完了せよ」
深海の静寂を破る時が来るとき、獲物はもうすぐ目の前だ。
伊400機関室(熱核融合炉区画)
低く響く振動音が艦の奥深くまで伝わっていた。熱核融合炉が発する独特の低周波が、艦内の壁を伝い、乗員の鼓膜をわずかに揺らす。ここは伊400の心臓部。膨大なエネルギーを生み出す炉心が収められた機関室だった。
機関長の『在塚喜久』大佐は、端末を睨みながら最終チェックを進めていた。
「核融合炉、最終チェックに入る!プラズマ圧力、確認!」
部下たちが即座に応じる。
「磁場封じ込め装置、正常! 磁気コイルの温度は基準値内!」
「プラズマ圧力、安定! 現在85%、最大出力まで5分!」
「冷却システム稼働率98%!異常なし!」
炉心のメンテナンスパネルには、超高温のプラズマが磁場の中で安定している様子がリアルタイムで表示されていた。炉心の温度は1億度を超えている。
橋本先任将校が機関室に入り、在塚に声をかける。
「推進系統との連携は?」
在塚が確認しながら答える。
「問題なし。超伝導モーターとの同期率99.8%、フルパワーでの急加速も可能だ。」
「非常用エネルギーは?」
「補助バッテリー満充電。万が一、炉が停止しても3時間は持つ。だが、そんな事態にはしたくねぇな……」
日下艦長から通信が入る。
「機関部、状況はどうだ?」
在塚は自信満々に答えた。
「問題なし。いつでもフルスロットルにできるぜ、艦長!」
深海を切り裂く怪物は、今、完全に覚醒した。
CIC(戦闘指揮所)では、『徳田太助』大尉を始めとするオペレーターたちがレーダー・ソナー・兵装システムのチェックを行っていた。ディスプレイには、潜航ルート、海底地形、敵潜水艦の可能性のある接触ポイントが映し出されている。
「ソナー異常なし。全システム正常!」
「主兵装、魚雷発射管チェック完了!各シリンダー圧力問題なし!」
「電子戦システム、作動準備完了!」
各セクションからの報告が次々と飛び交い、司令塔の空気は張り詰めていた。
伊400司令塔
警告灯が低く点滅し、艦内には機械の作動音とクルーたちの報告が飛び交っていた。
すべての準備が整いつつある中、日下艦長は前方スクリーンに映し出された作戦海域の地図を睨んでいた。
橋本先任将校が静かに近づき、端末を手渡す。
「最終チェックリストです! 機関・兵装・ソナー、すべての部署が準備完了を報告しています」
日下は端末を受け取り、ざっと目を通すと、小さく息をついた。
「まるで嵐の前の静けさだな。俺たちの仕事はいつもそうだ。海の底では、音を立てた方が先に沈む。だが、今回は違う。沈没船ビスマルク、未確認の兵器、そして正体不明の敵潜水艦……。確実に何かが待ち構えている。」
「それを突き止めるのが私達の仕事ですね? 深海の闇の中で、私達だけが目を開いていられる。」
日下艦長は小さく頷き、窓の外に見える海面をじっと見つめる。外では、港の灯りがゆっくりと後方に流れていた。
「出撃命令はすでに下っている。行くしかないな? いつも通りってことだな。戦う準備はできているか? 橋本君」
橋本は端末を閉じ、ゆっくりと立ち上がると、制帽を正す。
「できていますとも! 私たちは歴戦の武勲艦伊400の乗員です! 深海の覇者として、闇の奥へ潜ります」
――全乗員、配置に着け。
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