第1章:任務開始 – 沈没艦「ビスマルク」への道!

第一話:任務への第一歩

 高天原要塞司令部・第七作戦ブリーフィングルーム

 広い会議室の中央天井から青白い光を放つホログラムが浮かんでいた。


 映し出されているのは、大西洋海域海底地形図と目標地点を示す赤いマーカー。


 日下艦長と先任将校の橋本・そして技術長の吉田が列席し、前方には作戦責任者である一人の男性が立っていた。


 彼は、先日見せた笑みとは違い冷静な口調で言った。


「日下艦長を始めとする伊400の諸君には、今まで困難な任務を完璧にこなしてくれて非常に感謝している。しかし、平穏は未だ遥かに困難である。そして、これより伝えられる作戦を是非、完遂してもらいたい」


 そういうと彼は天井から映し出されているホログラムの方に体を向けて説明する。


「これより、極秘作戦「黒潮作戦」について説明する。黒潮作戦、潜水艦の隠密行動や、深海の暗黒の雰囲気を示唆するこの任務の目的は、並行世界ファイルNo.156SAで第二次大戦中に沈没した戦艦"ビスマルク"の調査及び、積載されていた特殊兵器の回収だ」


 ホログラムが切り替わり、老朽化した巨大戦艦の映像が映し出される。

 深海に眠る鋼鉄の巨躯――ビスマルクだった。

 日下が眉をひそめる。


「沈没したのは遥か昔ですよね? しかし……これは新造当時の姿に見えるのですが? 確か21世紀のビスマルクは上部構造物が完全になくて船体のみだと記憶しているのですが? かくいう私達も別世界での大西洋海底でビスマルクを見ましたが」


 日下の言葉に橋本と吉田も頷いてどう見ても何もないただの沈没船にしか見えなかったと答える。


「ふむ、日下艦長の言う通り、他の並行世界でもビスマルクの残骸は変わっていないがその世界軸だけは違うようだな?」


「それに今さら過去の遺物と言ってもいい兵器を回収する意味があるのですか?」


「通常の兵器ならその通りだ。しかし、その世界でのビスマルクに搭載されていたのは、戦局を一変させるとされる「未知の兵器」を搭載していたというが、それが何であったのかは、今もなお明らかになっていない。実戦投入前に何かの原因で沈没して、その存在すら抹消された"極秘試作兵器"だ」


一同が静まり返る。

男性はさらに言葉を続けた。


「数ヶ月前、我々はこの並行世界での海域調査中に異常な信号を探知した。当初は単なる沈没船の反応だと思われていたが、後の解析で"人工的な活動の痕跡"が確認された」


 日下が腕を組んで答える。


「つまり……沈没したはずの戦艦が、何かしらの形でまだ作動しているということですか?」


「可能性はある。そして、もっと厄介な情報がある」


 ホログラムが切り替わる。今度は、ビスマルクの周囲を航行する不審な潜水艦の影が映し出された。


「我々以外にもこのビスマルクを狙っている勢力がいる。正体不明の潜水艦が付近を徘徊し、何らかの活動を行っていることが確認されている」


「その世界の潜水艦ですかね?」

 吉田の言葉に男性は首をかしげながら答える。


「それは断定できない。だが、通常の国家軍の潜水艦と比べ、異常に高いステルス性能と深海航行能力を有していて伊400と匹敵する力を持っている可能性がある。下手をすればその秘密兵器とやらが、我々がビスマルクに到達する前に、やつらが兵器を回収する可能性もある」


 会議室に緊張が走る。

 日下は静かに息を吐き、前方のホログラムを見つめる。

「やれやれ……そんなことを聞けば黙っていられないな? 作戦の詳細を確認したい」


 男性は頷き、ホログラムの映像を拡大させた。


作戦内容

目標地点:北緯 XX°、東経 XX°、深度5000メートルの海底

任務目標:沈没戦艦ビスマルクの調査及び兵器回収


作戦行動

1.伊400は、海域へ向かい、ステルス潜航で目標地点へ接近して深海遠隔探査ド ローンを投入しながらビスマルクの船体構造を分析して可能であれば、艦内に進入し兵器の回収を試みる

2.敵対勢力の介入があれば、これを排除して兵器を回収後、速やかに撤収


「諸君、これは敵の正体も、兵器の詳細も分からない状況での作戦です。深海での任務に加え、何が待ち受けているか予測がつかない。だが、我々には時間がない、敵に先を越される前に、兵器を確保しなければならない」


「敵と交戦になった場合の対応は?」


日下の質問に、将軍は厳しい表情で答えた。


「撃滅してください! 交渉の余地はないと思った方がいいかと。それと……こちらの作戦が漏れている可能性もないとは言えません。やつらが何者であれ、兵器を手にすることは許されない」


 日下はゆっくりと頷くと橋本と吉田の方を見ると彼らも頷く。


「了解しました、全ての準備と英気を養った後、伊400は予定通り、任務を遂行します」


 男性は満足げに頷き、最後の指示を出した。


「いつものようにこの要塞の兵器庫で武器を選んでくれたまえ! 諸君の健闘を祈る」


 会議が終了し、会議室の扉が開く。


 日下は橋本・吉田と目を交わしながら、静かに呟いた。


「……まるで、棺桶のフタをこじ開けに行くような任務だな」

「同感だが……やるしかないな」


 三人は無言で歩き出した。

 深海の闇の中、彼らを待つものとは何か? 伊400の戦いが、今、始まる。

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