第19話

生殺しだ。

 そう思えるくらい、切ない熱を持て余してあたしは苦しんでいる。


 もう、物足りないのだ。

 見るだけじゃない、嗅ぐだけじゃない。

 あたしをもっと見て、あたしの身体に触れて欲しい。

 そんな思いを抱えることに戸惑いながらも、もうこの思いはどうしようもないところまで膨れ上がっている。


 いっそ、あたしの匂いを嗅ぐ伯爵の顔に押し付けてしまいたい。

 セックスもしたことのないくせに、そう思ってしまう。


 だが、あたしはここにセックスしに来たのではない。

 伯爵に身体を見せるためにここにいる。


 だけど、もうしたい。したくてたまらない。

 あたしはもう伯爵に匂いを嗅ぎ回されて感じる変態女になってしまったのだ。

 鑑賞されながら密かに欲情して発散できない熱を自分で慰める変態女に。


「……っ」


 そっと指を這わせれば、もうどろどろに蜜が溢れていた。

 溢れる蜜を指に纏わせ、あたしは夢中で慰めた。


 伯爵の熱を追いかけるように燻る熱を散らそうとして。


 いやらしい音が一人きりの部屋に虚しく響かせる中、半分以上溶けたロウソクが目に入る。

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