第5話 俺も言いたかった
俺は一瞬、何か言おうとした。でも、言葉がうまく出てこなかった。
華乃が「うん」と答えた瞬間から、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。会いたかったって、どういう意味だ? 久しぶりに会えたから? それとも――
無言のまま、俺たちは歩き続ける。
華乃は俺の手を離そうとしない。むしろ、さっきよりも指を絡めて、しっかりと握ってくる。その温もりが、やけに心臓に響いた。
「……深堀、びっくりした?」
華乃が、ぽつりとつぶやく。
「そりゃ……」
俺は言葉を濁した。でも、本当は「びっくり」なんかじゃ済まないくらい、心が乱されている。
「だよね……。でも、ほんとに、ずっと会いたかったの。」
俺は足を止めてしまった。
華乃も少し遅れて立ち止まり、不安そうに俺を見上げる。
「……なんで?」
そう聞くと、華乃は少し唇を噛んで、目を伏せた。
「……中学の頃から、深堀のこと、ずっと好きだったから。」
心臓が、大きく跳ねた。
「……え?」
驚きすぎて、声がうわずる。
華乃は、俺の手を握ったまま、ゆっくりと顔を上げた。
「高校も違うし、電車も違うし……もう会えないのかなって思ってた。でも……我慢できなくて。」
「だから……」
「今日、深堀に会いに来たの。」
夜の街が静まり返る。まるで、この瞬間だけ世界が俺たちのために止まっているみたいだった。
俺の心臓の音だけが、やけにうるさく響いていた。
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