もう、逃げられない

輝人

第1話 突然…。

俺は塾の帰り、電車を待っていた。夜の冷たい風がホームを吹き抜け、疲れた体に染みる。電車がゆっくりとホームに滑り込んできて、ドアが開くと、俺はすぐに乗り込んで座席に腰を下ろした。スマホを取り出し、なんとなく画面をスクロールする。


「ドアが閉まります」というアナウンスが流れ、車内の空気が少し動いた。ふと顔を上げると、見覚えのある人が早足で乗り込んでくるのが目に入った。長い黒髪が揺れ、息を少し弾ませながら、迷うことなく俺の隣に座る。


「……輝人?」


驚いて顔を向けると、そこにいたのは華乃だった。


俺は一瞬、言葉を失った。華乃と会うのは、中学を卒業して以来だった。制服も違うし、髪も少し伸びた気がする。それでも、変わらない穏やかな瞳が俺を見つめていた。


「久しぶりだね」


華乃が微笑む。その声に、不思議な懐かしさが込み上げる。俺は少し照れくさくなりながらも、同じように微笑んだ。


「……久しぶり」


電車がゆっくりと動き出す。俺たちの間には、再会の余韻が漂っていた。

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