異世界魔法少女のその後と娘
有村 光修
第1話:俺の幼馴染の娘がこんなに邪悪な笑顔をするわけがない
面倒な前置きはかっとばしてさっさと状況説明をすると、強盗である。
強盗なう、である。
なうって今時古いか?
いやそこはどうでも良い。
重要なのは今現在、俺がアルバイトしているレンタルビデオ店が強盗の被害に遭っているということだ。
具体的に言うと、レジ打ちしていた後輩の大学生の子と客の間に割り込んで来た黒づくめにホッケーマスクな男が、ナイフ片手にレジの有り金全部出せと脅してきている状況だ。突き飛ばされたオッチャンは腰を抜かしているし、店内はちびっこや親御さん(お母さん)の悲鳴が木霊している。
店は元々ファミリーレストランだった場所に入っている。テナントとしては、けっこう面積が広かったこともあり大人向けから子供向けまで何でもとりそろえているタイプの店だ。ゲームとかの中古も取り扱っている辺りでなんとなく業態を察してもらいたいが、まー今時ありがち? な、なんとなく生き残って地域に根付いているような、そうでもないような、微妙な感じの店舗になる。
土曜日ということもあってか客入りは少ない訳じゃないが、満員御礼で行列が並ぶというほどの人数でもない。ガラガラではない、というくらいの込み具合で、家族連れも、若いカップルも、ゲーム目当てな学生たちも、よく十八歳未満お断りな(えっち的な意味で)アニメを借りようとしてた頭バーコードな常連のオッチャンもいる。
いやに現実感が薄い。いや、薄いと言ってもナイフ突き付けられてるのは俺じゃないから当たり前っちゃ当たり前なんだけどな。でもまー何だ? ちょうど後輩、突き飛ばされたオッチャンが借りようとしていたディスクをスキャンするかしないかっつータイミングだった。あんまり直視しないのがマナーだからと教えているのもあって、後輩もぱぱっと済ませようとしていたようだったが、強盗の
ただ、そんな相当アレなブツを前にしても男は動揺した素振りを見せないので、常識的に考えてこっちの方がヤバイかもしれない。……いや、そうでもないか? よくわからんが、うちの女店長も「うえっ」とした顔をバックヤードでしていたことがあったくらいなので、そもそもそれが目に入っていないか、はたまた別な事情があるか。
動くな、逃げるな、連絡するな、一か所に固まれと強盗には叫ばれたので、しぶしぶ移動する。ママに抱っこされてる様な子とかはまだ良いが、抱っこされない年代の子とかは「面白そうだな」くらいのノリで集団の輪から抜け出そうとするので、とりあえず手を引いてママさんに手渡してやる。
「すみません! すみません……!」
「いや、気にせんといてくださいな」
何故か訛ってしまったが、苦笑いする俺にそのママさんは頭を下げるだけで子供のことしか見ていない。一方、抱っこされた子供(5歳くらい?)は、じーっと無表情にこっちのことを見て来る。何だー、この黒髪おかっぱ頭? ママさん美人なだけあってちびっ子ちゃんもかなり愛らしいが、何をそんなこの世の終わりみたいな顔して人の事見つめてんだ?
まーとりあえずは、全員隅っこの方に固まれたかな? 存在感を消してる店長がバックヤードにいるから、じき通報はされるだろうから、ここはとりあえず犯人を刺激しないこと。
俺だけならどうとでもなるが、お客さん巻き込むのは色々と問題ありだからなあ。
「先輩! ちょっと、先輩、お願いします……!」
「は? いやどうした
「レジの開け方、わからないっス…………!」
うんちょっと何言ってるかわからない。普通にもうレジ任せられるくらいの練度は積ませているし、さっきだって会計処理をいつも通り一人で出来るから俺もディスクの棚整理に入ってたってのに、一体どうした?
困惑してると強盗が「こっち来い!」と叫ぶものだから、肩をすくめてレジに入る。……いや後輩、とりあえずそのエ□アニメは一旦その辺においてけ、そうそう。
それでどうしたんだお前、と聞いてやると。
「ど忘れしたっス……!」
「あぁ…………、うん、そういうこともあるよねぇ……」
思わず生暖かい目で見てしまった。ま、そりゃ普通は首元でナイフちらちら突きつけられて、怒鳴り散らされてマスク越しにメンチ切られてって状況に追い込まれたら、めちゃくちゃビビって不思議じゃないし、緊張から色々考えがぶっ飛んでも不思議じゃないか……。というか手もガタガタ震えてて細かい動作出来なさそうだし、あー、どっちにしても俺呼ばれてたなこれは。
いくら二十歳といっても普通の女子一人で、色々ガンギマってそうな強盗の対処は無理か。ため息をついて仕方ないとばかりにレジに入ると、強盗の兄ちゃんが他のお客さんに吠えている。手を後ろに回して背中を向けろとかも言ってたから、不審な動きは一発でわかる。でも怒鳴ってるってことは、誰かスマホ出して通報しようとしたか?
まあいいや。そんなことは気にせずレジの操作をして……、開かないな。あーさては後輩、慌ててレジのロックボタン押したな? 会計中にやったから操作がバグったか。あー、電源入り切りして再立ち上げした方が早いな……。
鍵を刺してロック解除……、鍵どこだ? あれ? ポケットには入ってるはずなんだが、あー、うん。意外と俺も緊張しているんだろうか、中々取れない。
「おい早くしろ、ぶっ殺すぞ! こっちには時間ねぇんだよ!」
「ぴぃ!?」
「後輩、いくら何でもその叫びはどうなんだ……?」
仮にも成人女性だろとツッコミを入れたくなる。動揺のし過ぎである。もっとも俺だってレジの鍵が見つけられないから、緊張してるっちゃ緊張してんだろ。
あー、それにしたってなあ……。これで急ぐってなるとレジぶっ壊すような話になるし、自動のやつまだウチ導入できてないってのに無茶言ってくれるぜ。壊したら俺弁償しないといけないから、そういう訳にも行かないってことで、鍵、鍵……。
あった!
「よし、これで行け────」
「早くしろって言ってんだよっ!」
「────あっ」
取り出した鍵を思わず掲げようとした丁度その時、強盗のふるったナイフが俺の手の甲にぶつかり、らぬ方向に鍵が飛んで行った。あーあー ……。いや、いくら何でもこらえ性なさすぎじゃねーか? こいつ。だってほら、例の十八禁コーナーの方に飛んで行ったぞ、鍵。
流石にちょっと、どうしたもんかってことで強盗に少しキレながら聞いた。どうすんだ、色々後ろ向きながらちらちら野次馬してる連中いるけど、鍵、アンタ取ってくるか? アンタのせいだからな、俺悪くねーからな? というか俺にとってこいとか言うなよ、言うならさっきアンタが突き飛ばしたオッチャン呼んで来いってんだ、あの人なら特に何も言わず堂々と──────。
「黙って金出せ! 死ねこのオッサ────」
ぱきんっ。
「あっ」
「────ンがよォ! ……は?」
あー ……、やっちまった。
はい、というわけで強盗さん終了のお知らせ。ごく簡単に「ぱきん」と音を立てて、根元から折れたナイフ。所謂コンバットナイフっぽいから刃渡りもそれなりの長さだったが、何と言うか色々申し訳ない。いや、別に申し訳なくもないか。手元のナイフと、俺を見て目を白黒させる強盗の兄ちゃん。おう、ホッケーマスクだから顔色がどんどん青くなっていってるのが見えるが、悪いがこっちのせいじゃねーからな?
感情のまま俺に向けて刺し殺そうと振り下ろしたのが悪い。つい条件反射で「光の速度」で払いのけてしまった。そんなことが出来る俺が何なんだって話はあるが、そんな目にあわされたナイフがどんなことになるかなんて日の目を見るより明らかだ。
幸い? 後輩は足元で頭抱えてガタガタ震えてるし、お客さんの方からはあんまりまともには見えないだろう。チャンス、とばかりにとりあえずレジ越しに、混乱してる強盗の兄ちゃんの襟首掴んで、ホッケーマスクごとヘッドバット。
不意打ちで、しかも「俺がやった」一発だ。その威力が伝わった兄ちゃんは気絶。……いや流石に死んではいないとは思うが、とりあえず拘束したら回復させてやるか。
いや何か思ったより威力こもっちまったか? 泡吹いてないか? ……い、いや、別にオッサンって言われたの気にしてる訳じゃねーし、たったの二十三だからそう呼ばれる年代でもねーって怒りに震えたわけじゃねーしっ。
とりあえず少しだけ回復術をかけながら、後輩に「紐持ってこい!」と要求すると、そのタイミングで店長が奥から「五分後くらいに来るわよ~!」と叫んできた。
何だかなあ。自分で言うのもアレだが、これだから「異世界帰り」が現代に馴染もうとすると締りがねーんだよなあ……。
※ ※ ※
現場検証とか流石に今日はもう営業できないっつーことで、いったん解散となった。事情聴取はその場で簡単なものだけ、監視カメラを見る限り一応は正当防衛ということで、問題はないとか。ナイフが折れたのは「たまたま劣化してた」とか「不良品だった」とかで片づけられそうだが、まあ、その辺は何よりだ。
回復術? あー、まあアレって電子機器とかには映らないし、特別な光とか効果音が出るようなものでもないから外から見たんじゃわからないんだよな。だから、とりあえず問題なし。
お店のお客さんに「ご迷惑おかけしました」とクーポンを配って、はい解散! と言う感じだ。別に俺達が迷惑かけたわけじゃないんだが、こういうのはそうするってのがしきたりになっているらしい。客足が遠退かないよう、少しでも好印象を持ってもらおうと言う涙ぐましい努力の跡を感じる。
あの美人のママさんもしこたま頭を下げて来て……、いやまあ大事なかったからダイジョブだって苦笑いするしかなかったんだが、彼女に抱えられてるおかっぱの子が何と言うかまーた微妙な感じだ。
名状しがたいって言ったらいいのか? 独特な笑顔を浮かべている。こう、どう言ったら良いのか? にたり、というか、もっとねばねばしてそうというか、ねちゃり? とか、うーん…………、「にちゃあ」?
とにもかくにも、五歳児くらいの子が浮かべるにはあまりに邪悪(?)なその笑いに顔を引きつらせながら、彼女の母親の感謝の言葉を受け続けた。
仕事がありますので、と言って退散したママさん。女の子も当然引き連れられて行ってるのであの微妙な顔からはすぐ離れたので、俺もそれについてはすぐ忘れていた。
思い出したのは事情聴取後、おやつの時間近く。
解放されたし昼飯もまだだから、どっかで買って食べるかどうかと色々考えていると。
「…………」
「うぉ、何だおかっぱ頭!? えっ何、何でいるんだ……?」
店の入り口すぐ近くに、さっきのママさんに連れていかれた五歳児くらいの子がいた。その子はやはり名状しがたい笑みを浮かべて、俺を見上げてにやりと笑う。いや、嗤う。
なんとなく、どこかで見覚えがあるその表情の作り方……。思わず後ずさった俺に、その子は堂々と、こう宣言した。
「やあ、勇者。壮健のようだね。まあ無事とは言い難いが生きていて何よりだよ」
「…………」
威風堂々と。そう、まるで。
それは、俺と幼馴染とが異世界に召喚された原因、俺と幼馴染とが倒した「魔王の裏側に立つ黒幕」である「魔神王」のような、そんな言い回しで。
……手元に融けかけのソフトクリームみたいな見た目したアイス握ってなきゃなあと、そんな場違いなことを俺は思った。
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