第4話 鍵を開けた先に待つものは


母エリシアの部屋を後にし、俺は父ダリウスから許可を得た図書室の奥にある『禁書録』とやらを確認しに行くことにした。




今日さぁ……濃すぎだって

畳み掛けて来すぎだから。



いきなり戦場に連れて行かれ

エクリプスというこの世のものとは思えない化け物が説明なく我参上。


挙げ句、兵士が目の前で無惨に食われるのを見せつけられた後、父がイカれた爆炎かます。


とどめに、そんなものと300年に渡って戦い続けている。


——というのがヴァンガルドの定めって?



.....いや、濃!!!



出来れば今日はもういいかなと。

全部忘れて寝てしまいたいが____



まぁ性分というか何というか。

サラリーマン時代もそうだが、俺は目の前のタスクは出来るだけやってしまいたい派なんだ。


全てを知っておいたほうがいい。

鉄は暑いうちに打てって言うだろ??

中途半端に知っとくより最悪を想定しておいたほうが、心の準備ができるってもんよ。



それに、母エリシアの治癒のおかげか、さっきまでの疲れが嘘みたいに軽くなっている。

明日からもまたあのバカみたいな訓練が始まるんだ。


もしかしたら、今日エクリプスを知ってしまった以上、訓練強度はさらに上がる可能性もあるな……。



えぇ………

なら、やっぱ今日中に終わらせた方がええやろ。



そもそも毎日血まみれになってんのにその上ってなんだよ。

難易度調整壊れてんだよ。

すでにルナティックなんよ。



……はぁ、キツくない?



そんな、とりとめもない事を考えながら、図書室へと向かった。





ヴァンガルド家の図書室は、いつ来てもまるで古代の遺跡のように静かな空間だ。

天井まで届きそうなほどの書棚が並び、歴史書や記録文書が整然と収められている。

こういうの好きな人が居たらこの空間だけで飯が食えそうだ。



——そして、その最奥。



一際厳重な造りをした、鍵のかかった扉がある。俺も入ったことがないエリアだ。



「此処の奥が、禁書録が納められている場所なんだけれど——」



重厚な扉の前で、俺は立ち止まる。

目の前の鉄扉は魔法で補強されており、並の手段では開かないのがわかる。


……というか、俺は知ってんのよ。

昔、鍵開けの魔法でこじ開けようとして、地獄を見たからな。



当時、俺は此処に入りたくて

『鍵開け魔法で1発やんけ』と調子に乗って魔法を唱えた。


——その瞬間、けたたましい警報音が鳴り響き、屋敷中に響き渡ったんだ。



その数秒後――

鬼の形相のガーランド執事長が

爆速でエントリー。


『——小僧ぉぉぉおォ!!!』


馬鹿みたいに説教をされて

その後の訓練で物理的にボッコボコにされた。


どんな教育方針なんだよ。

そもそも主家に対して小僧とはなんだ。


クソジジイが。

児童虐待だこのやろー!!



うぇぇ……あの時のトラウマを思い出して思わず足がすくんだわ。


クソがよ。



……っていうか、よく考えたら。

鍵、もらってなくね?


「いや、どうせぇと?」


勢いで来たのはいいものの、ここに入る手段がないとは……。

お父様よ.....こういうのは普通、最初に鍵を渡してから行けって言うもんじゃないのか?



じゃぁ....

しゃーないな!


あれから数年、今の俺の魔法技術なら、こんなカビ臭い扉のセキュリティなんてゴミみたいなもんだ。



やってやるよ!!!

ガーランドおぉぉぉ!!!!



内心で大騒ぎしながら、鍵開けの魔法を唱えようとした――。


その時だった。




「ヴィー。やっぱりここにいた。」





突然、背後から穏やかな声がかかる。


『——ビクッ!!』


驚いて振り返ると、兄レイヴァンが微笑みながら立っていた。



「そういえば、父様が鍵を渡していないことに気づいてね。」



そう言いながら、レイヴァンは俺に銀色に輝く鍵を手渡してきた。

握った瞬間、ほんのりとした魔力の感触が伝わってくる。


「これはね、ヴァンガルド家の血筋しか使えない特別な鍵なんだ。

警報を超えて、無理に開けると頭が弾け飛ぶ呪いが降りかかるようになってる。———ん?

まさか鍵開けの魔法で開こうとしてた??」


「……は?」


........あぶねぇぇぇぇ!!!

ありがとうガーランド!!!

そしてすまねぇガーランド!!!

お前は世界一の執事だよ!!!





少し苦笑いをして鍵を受け取った俺を、レイヴァンはじっと見つめたその後、ゆっくりとした口調で言葉を続ける。



「ヴィー。今から君が目にするのはね――僕らヴァンガルドの“歴史”そのものだよ」


「僕もこれを初めて読んだ時は……そうだね……立ち直るまで少し、いやかなり時間が必要だったかな」


「でも大丈夫。

ヴィー、僕は何があっても君を守るよ。この家も、この領地も。

全部……全部だよ。

だから....どうか心を強く持ってほしいんだ。」


いや、俺とのあまりの温度差に風邪を引きそうなんだけど……??



……レイヴァンの言葉には、不思議と力が込められていた。


"英雄"というものがいるのであれば、きっとレイヴァンのような人間がそうなるのであろう。


自然を、そう信じさせるものがあった。レイヴァンなら、何とかしてくれる。


そんな気がする。



……でも。




“ただ本を読むだけ”

それだけのはずだろ?

こんな"心の準備をしろ"とか言われる程のものなん?


エクリプスを見た時の衝撃はもう身体が覚えている。勿論ショックではあった。


でもまぁそれだけだ。

そりゃスプラッター現場を生で見たら誰でも感じるだろうよ?

そんなもん。



歴史を記録した本を読む事に

こんなにも気遣ってくる事とかあるか??


——え、だんだんと不安になってきたんだけど。



「——本を見るだけそんな……。大袈裟だよ、兄様」



強がりではなく本気でそう思う。

間近でエクリプスを見るわけでもあるまいし。ただの歴史の記録如きで動じることはないだろう。


レイヴァンはそんな俺の言葉を聞いて、微笑みながら首を何度か縦に振る。


「……そうだね。ヴィーなら大丈夫かもしれないね。」



そう言うと、手を軽く振り、図書室の入り口へと向かっていった。

最後に一度だけ振り返ると、俺の目をじっと見つめ、優しく言った。


「……ヴィー。

じゃあまた明日ね。おやすみ」






レイヴァンが図書室から出ていくのを見送った後、俺はしばらく静かな空気の中に立ち尽くしていた。


手の中の鍵を見つめる。

冷たい金属の感触が、妙に現実感を持って指先に馴染む。


カチリ――


鍵穴に差し込み、ゆっくりと回すと鈍い音を立てながら錠が外れた。


まるで長年閉ざされていたものが解放されるかのように、

重々しい扉が静かに開いていく。


そこに広がっていたのは――



"いにしえの記録が眠る場所"




薄暗い室内には、無数の本や記録が並べられていた。埃を被った巻物、古びた羊皮紙、色あせた本……

そのどれもが、長い時を経てここに封じられたものなのだろう。


空気がひどく重い。

あんなものと戦ってきた歴代の当主たちだ。この場でどんな思いで筆を執ったのか、想像するだけで背筋が冷える。


「……そもそも、どれを読めばいいんだ?」



部屋の奥を見渡すと、中央の棚の下に、父ダリウスが執務室で使用するような豪華な机があることに気づいた。


その机の上には、異様な存在感を放つ一冊の分厚い本が鎮座している。



「……たぶん、これかな。」



机の上の本に手を伸ばし、表紙に刻まれた文字を読んだ。




『歴代ヴァンガルド辺境伯の手記』




ページをめくると、歴代当主たちが書き記した名前と日付が整然と並んび日記形式で記録されている。



「アドリアナ歴735年――

   フィンマックルーの手記」


最初の一文を目で追っていって——



——その瞬間、ひどく冷たいものが背筋を駆け抜ける。




歴代当主達が筆に込められた重みが、本の向こうから押し寄せてくるような………。


彼らが何を見、何を思い、何を残そうとしたのか――


そのすべてが、これから俺の目に晒されようとしていた。

そして、一頁ずつ読み進めるにつれ、俺は理解することになる。




   “逃げられない現実”を。




――そうだ、父ダリウスは言っていたはずだ。



"この地から、産まれたものは決してこの生存戦争から逃げることはできない"



その言葉の意味が、いま真の意味で心に突き刺さる。



——ちくしょう。



あぁ……


これは間違いなく、地獄だ——




ヴァンガルド家は


この地に生まれた者は....




"決して逃げられない宿命"をその身に宿している――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る