2.気になる人
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突然だが最近気になる人がいる。
「退屈だなぁ。」
「こら。お客様いるのに変なことぼやかない。」
ベシッ。
「マスター…注文表で叩かないで。地味に痛いんだから。」
そんな私達のやりとりを常連客は微笑ましく見ている。
「仕事中だろ?どうせならもっと別のことぼやきたまえ。」
「え、怒るとこそこ?」
ぼやくのはOKなんかい。
仕事中だから怒られたのかと思ったけれど。
「お嬢!注文いいかー?」
「はいよー。あとお嬢って呼ばないで。」
純喫茶 カノン。
純喫茶にしては結構大きなお店であり、常連客も割といる。というか、新規のお客さまなんて少ない。
そしてここが私のバイト先でもある。
「お嬢ー、こっちも注文いいかな?」
「だからその呼び方やめてって。」
その中で私は常連客からお嬢と呼ばれてしまっている。もちろん自分からそう呼べと言ったわけじゃない。
すべての元凶は………。
「まぁ諦めなって。そして慣れろ。もう二年も呼ばれてるだろ。」
こいつなのだ。
カノンのマスター、荒谷士郎。
年齢より若く見られることもあるがバリバリの50歳。
おっさんだ。そして独身だ。
マスターが私のことを小さい時からお嬢呼ばわりするから、常連客も真似してしまったのだ。
「いい加減マスターもお嬢呼ばわりやめて。」
恥ずかしいったらしょうがない。
目立ちたくないのに。
「お前は夏音の娘だからお嬢さんだろ?オレがこう呼ぶのは当然だ。敬意も込めてな。」
貶してるとしか思えないんですけど。
そのニタニタ顔見せつけられて。
ちなみに夏音とは私を生んでくれた母の名前。
母とマスターはいとこ同士に当たるらしく、マスターと私は親戚でもあったりする。
「そんな性格だから独身なのよ。」
「オレはずっと夏音一筋だからいいんだよ。」
ちなみにこれは聞いてもないのにいきなり言われたことなんだけど、マスターはずっといとこである母のことが好きだったらしい。
まぁ親戚だし、付き合いたいとかは思ってなかったらしいけど。母のこと、好きすぎるでしょ。
だってようやく自分の店持ったと思ったら、店の名前を母の名前にしたんだよ?
さすがの私でも引いた。
「いい店になっただろう?」
ドヤ顔されても。
私はマスターが親戚ってのもあり、ここのオープン時からバイトしてる。だからだいたいここまでくるまでの過程を知っていたり…。
常連客もマスターの一言に共感している。
まぁ、私もいい店だとは思ってるけれど。
純喫茶だから変な客もあんま来ないし。
従業員も私とマスター、同じバイトの男子高校生の三人のみだ。
なぜ少人数かと言うと…。
ここは誰もがリラックスできるところにする。これがマスターの方針だから。
何でも従業員多いとガチャガチャするからだと。
私も多人数だとやりにくいからちょうどよかったり。制服もネクタイにベストだから執事っぽいけど学校と少し似てるし。
口に出しては言わないけれども。
チリン。
「ほら、しっかり接客!」
「はいはい…。いらっしゃいま………せ……」
私には最近、気になる人がいる。
いや、できたというべきかも。
「一人ですけど、席空いてますか?」
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