5

だからといって、気分が上がることはない。

クラスが違うだけ。

階が違うだけ。


それだけで何かが変わるなんてないのだ。

些細な変化ごときで、この退屈な日々は変わらないのだ。



「あ、千景!HR終わるの待ってろよ? 」


「あー…今日は無理。バイトいつもより早いから。」


「ギリギリまでは待っててくれよ。」



しょうがないなぁ。

じゃあ…。


「気が向いたら。」


「それ絶対待たないやつ!!」



バイトって言ったでしょう。

遅れたくないからね。

ほーら。

大ちゃんですら苦笑いしてんじゃん。



「んじゃあまたな、悠人。」


「またねー!」


杏も大ちゃんもユウに別れを言いながら新しい教室に向かう。


後ろでユウも寂しがっていたけれど、すぐ去年と同じクラスの友達と会ったらしく元気になっていた。

なんだかんだユウは友達多いからなぁ。



「………今年は面白そうなことになりそう。」


「何が。」


「べっつにー?」



杏は何考えてんのさ。



「千景、あんま言いたくはないけどよ。彼氏にするやつは選べよ?」


「んー。」


「悠人が過労死しかねんから。」


「あー。」



それはごもっとも。



「大丈夫。ちゃんと選んでる。ただ、本気になれないだけ…。」



私だって弄びたいわけじゃない。

真剣に付き合いたい。


本気で好きになれる人ってのは高望みだとしても…せめて、この人と少しでも長く一緒にいたいって思える人と出会いたい。



「疑ったりしてるわけじゃねぇからな?ただお前が傷付かねぇか心配なんだ。」


「ちゃんと分かってるから大丈夫。」


大ちゃんは優しい。

私の内面もちゃんと見てくれる。

……ついでに杏も。


「今失礼なこと考えたよね?」


だからなんで分かるんだ。

ついでって言ったけど、杏も優しいと思う。

見た目はちょっと…いや、そこそこ派手だと思うけど。



「あ、そうだ。今日って、始業式だけ?」


「んーん。そのあと、ちょっと自己紹介とかするからいつもよりは長いHRあると思うよ?」


よし、決まりだね。



「そう。ふぁあ。」


「ちょっと待ちなさい。まさか…。」


「サボる。」


「おいおい、初日でそれはマズいんじゃねぇの?」


私的には全く?

めんどくさいし。

眠いし。


「今日ユウに無理矢理準備急かされたから眠くて。」


「千景来ないと私だけ浮いちゃうんですけど!」


「ファイト。」


「さすがに初日でボッチはしんどいから!」


そうかな。

私は平気だけどなぁ。


「………はぁ。勘弁してよ……。」


しょうがない。

そんな分かりきったうそ泣きの真似事でも、杏の頼みだし。


「HRだけは出るよ。」


「それなら問題なし!」


「いやいや、ダメだろう!」



悪いけど大ちゃんのツッコミはスルーする。

私、本当に眠いし。


いつもなら昼前に起きるのに、今日はその数時間前よ?起こされたの。


眠いっつーの。



それに何度も言うように、始業式だろうがなんだろうが、この退屈の日々から逃げられることなんてないのだから。





だったら、余計なイベントに出なくてもいいでしょ?

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