人間完璧な妹を影から見守る魔法使いの兄
朝露颯
第一章
#1 : その魔法使いの名は
ピピピ…ピピピ
「……ん?」
重たい頭を持ち上げ無意識的に電子時計の数字の確認する。すると現在の時刻a.m07:00と表示され俺──
……ちょっと厨二病ぽかったかもしれない。
俺は寝ぼけた瞼を擦りながら大きな欠伸を繰り出し軽く背伸びして起き上がった。ハンガーに掛けられたブレザータイプ制服を手に取り着替えた。ちなみに俺は制服をきちんと着る派だ。だからえりのボタンも開けないしネクタイも緩めない。
俺は鏡で一応身だしなみを確認し部屋を出た。俺の部屋は二階の突き当たりの部屋にあり
「おはよう
「……おはよう」
──端的に挨拶を交わす。これで終わり。後は何も話さないし何も聞かない。あまりにもいつも通り過ぎて悲しくなる。これが兄妹の会話でいいのだろうかと思わずにはいられないが、他家の兄妹って皆そういうものなのだろうか?
──俺の妹、柊
それはどうしてなのか?理由は単純明快である。俺の兄貴としての
俺の容姿はパッとしない、いたってどこにでもいる普通の男子高校生だ。これといった特徴もなくただ地味。それだけ。
対して妹は兄の俺からして見ても可愛い。顔はかなり整っておりスタイルも抜群。髪は艶やかな黒髪のロングストレート。小耳に挟んだ情報によると確か胸はEカップ。高校生にしてはなかなかである。足も長くモデル体型。もはや何も言うことがないくらい洗練された容姿だ。
そして俺の学校の成績。これもまた普通だ。大体テストでは各教科60点代をキープしていることから両親からはわざとやってんの?と問われたくらいマジで平均でしかない点数ばかり取っている。
対して容姿端麗な妹は、常に学年トップの成績を納め、学力テストでは個人23位。そのあまりの優秀さから今や生徒会の副会長。次の生徒会長候補として既に名を広めているらしい。
次にブスのアホの俺の運動神経についてだが、まぁ言わずもがな普通である。100メートル短距離なら7.32で駆け抜け、マラソンならクラスメイト33人中17位を走り、速さもそこそこ体力もそこそこ、そこそこ止まりの男である。
対して容姿端麗成績優秀な妹は、スポーツも大得意だ。バスケ、バレー、サッカー、卓球、バトミントン、テニスなどの球技だけじゃなく、陸上、水泳、武道、体操、射的、スキーに至るまでありとあらゆるスポーツ面での才能も兼備している。
その上、勉学スポーツ以外にも美術や音楽の才能もあるのだからもはや兄の立つ瀬がない。あの優秀さは絶対キャリアウーマンの母と元プロパルクール選手だった父の血を引いている。まぁ何故か先に生まれたはずの長男の俺にはなんの才能もなかったが…
妹にとっちゃ、家族に俺という無能がいるということが許せないのだろう。確かに俺はブスでアホで運動音痴でおまけに不器用だからな。うん。妹が俺を嫌いのも納得できる。うん。きっとそうだ。そうに違いない。
内心悲しみに暮れながら俺は朝食を食べ終わり食器を片付けると椅子に掛けられた鞄を手に取って玄関まで行く。
「あれ?もう双葉は家を出たのか…相変わらず早いな」
妹の靴がないことに気がついた俺はそう呟いた。妹は俺を嫌っているにも関わらず仕事が忙しい母の代わりに料理を作ってくれる。本当になんて出来た妹なのだろうか?今日も朝早くから起きて俺の分まで朝ごはんを作ってもらった。だから彼女が俺を嫌っているのだとしても俺は彼女を嫌いになんてならない。彼女は性格までも
だけど人間ってのは
「……前世の
◇ ◇ ◇ ◇
学校に登校するとまだ誰もいない教室で自分の席を見つけ直ぐに俺は机に突っ伏した。ホームルームまで時間はある。けれどやることがない。俺は基本ボッチである。友人と呼べるような奴も片手で数えるぐら…ちょっと盛ったか。人差し指1本指すだけでこと足りる。
「…前髪伸びた気がする」
目にかかるくらい伸びた前髪を鬱陶しく思いつつ鞄から本を取り出して暇を潰す。何分か経った頃、クラスに人が増え始めた。
「なあなあ!聞いたか?!」
「もしかして『
「なんだ知ってんじゃんつまんね」
「そりゃニュースにもなってたんだから知らないわけないだろうよ」
「確かにな!」
──星姫、最近よく耳にする新人
「魔法少女…」
起源は何だったか、確か特撮でありがちな恐ろしい怪人達が率いる悪の組織が地球を侵略しに来たのが始まりだったような気がする。怪人達には現代兵器が効かず絶体絶命、人類滅亡の危機!って時に現れたのが魔法少女。可愛らしい見た目に相反し様々な武器を携帯し派手な魔法を撒き散らし怪物をあっという間に倒してしまう。それはまるで特撮ヒーローの物語冒頭ような展開。それで魔法少女が人気にならないわけがない。
その戦闘を映像としてアップすれば世界的にバズりちらしグッズを出せばすぐさま完売。魔法少女の数も増え今や魔法少女は売れっ子アイドルのような扱いを受けている。昔は魔法少女の扱いに納得がいかない芸能人やら頭の硬い政治家なんかが、よく魔法少女についてある意味熱く語っていたような時期もあったりしたけれどそれはもう過去の話である。現在は無償で皆を守るために命を懸けて戦っている魔法少女に誰も文句は言えない。
「もしかしたら長らく変わり映えしなかった
「そうだな!でも星姫ちゃんならランキング10位にはなれるんじゃないか?だってあの軍師にも認められたんだろ?」
「流石に魔女十傑を甘く見すぎだ」
「そうかあ?星姫ちゃんあんなに強いのに」
「あまりこんなこと言いたくないが、星姫ちゃんの実力は魔女十傑の足元にも及ばねえよ」
「そこまで言うか?」
「魔女十傑ってのは
……しかし俺は思うんだよ。そんなに強いんならさっさと親玉見つけてコロコロすればいいじゃん、と。
直接見たことはないが、ニュースでその怪人とやらを見た限りだと見てくれだけは良さそうだったが、直ぐに雑魚だと分かってしまった。
「……(アレには
怪人の姿を思い浮かべながら俺はそう吐き捨てた。この世界の人々が"怪人"と呼ぶアレらは俺にとって肉体を得たなんの目的ももたない人口の"妖魔"にすぎない。妖魔は物理攻撃は効かないってだけだから魔法は効くめちゃくちゃに効く。なんなら俺は魔力だけで殺せちゃうコロコロしちゃう。あんなに雑魚なのに何を手間取っているんだか…。
魔法少女はいくら特別で不思議な力を扱えて怪人を倒せるくらい強いのだとしても戦争を知らない時代に生まれたただの少女にすぎな──
「全員席に着けーホームルーム始めっぞー」
──と、魔法少女について色々深く考えていたら思ったよりも時間が経っていたようだ。気だるげな声の担任の男性教師が教室に入ってきたことによって俺の思考は中断された。
◆ ◆ ◆ ◆
一見ごく普通で優秀な妹とは比べ物にならないくらい無能である俺には前世の記憶というのものがある。それはこの世界とは違った世界で生きる俺であって俺ではない私の記憶。まるで日本のファンタジー小説のような世界観にて
家柄にも恵まれ容姿に恵まれ才能にも恵まれ世界に愛された人間の姿だ。その隣には
「……」
…俺はあの世界で【浮浪の賢者グラン】と呼ばれていた。ただ少し珍しい才能に恵まれたただの人間。されど生まれた時から完璧だったその人間は、とても
だから完璧な人間なんていない。それを身をもって知っているからこそ俺は身内として
俺はじっと2人を見つめる。焼き付けるように後悔するように。じっとくらいくらいくらいくらい黒い瞳で見つめ続ける。2人の内1人、前世の私が振り向いた。驚いた顔をした。そして微笑んだ。俺は呟いた。言い聞かせるように。
「……今が楽しいか?」
『?うん。楽しいよ!』
俺は聞いた。思わず。
「……その少年を信じているか?」
『もちろん××を信じているよ!』
俺は問うた。自問自答するように。
「お前は────」
キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪
「………あれ?」
下校の合図を告げる鐘が居眠りしていた俺を眠りから覚ました。ずっと寝ていたようだ。誰も起こしてくれない現実に悲しくなる。
「なんか懐かしい夢を見ていた気がするけど…」
うーんと頭を傾げてみるが思い出せない。…無理に思い出すこともないか。俺は立ち上がった。暗くなる前に帰りたい。鞄は持った。忘れ物は…なさそうだな。
「よし。じゃあ帰ろ──ッ!?」
俺は反射的に窓から飛び降りた。次の瞬間、俺の教室、今俺が立っていた場所は
「何が……」
ぶくぶくと気持ち悪い音を鳴らしながら肉の塊は変形していく。その様はグロ耐性天元突破している流石の俺でも不快感を覚える。
俺は無事に地面に着地しすぐさま目に付いた物陰に隠れた。あの肉の塊はおそらく怪人だ。怪人が出現するときってああなるんだねと俺は冷静に呑気なことを考えていた。
すると大きな音に駆けつけた先生と部活動中だった生徒がワラワラと校庭に集まってきた。怪人を見た反応は俺とは真逆の反応、その気持ちの悪さと未知の恐怖によって震え上がり一様に怪人に背を向けて一目散に逃げ出した。中には腰を抜かし気絶した奴もいる。The普通の反応だ。
「しかしこの地域に怪人とは珍しい」
しかし残念ながら普通じゃない奴もいる。どこか頭のネジが数本いってるこの男は怪人の生態に興味津々だった。
「よく見たら俺がよく知る妖魔の生態じゃないなこれ!何も
物珍しいものに興奮するようなそんな感情が湧き上がってくる。
「もっとみたいな、もっとみたい!!」
興奮が抑えられない。妖魔の生態と構造にある程度理解があるからこそ俄然興味が湧いてくる。どうやって妖魔を作ったんだろうと、どうやって感情を理解したんだろうと、肉体的には子供でも精神的には大人である俺が、まるで童心に返ったかのように興奮していた。
抑えきれない興奮の感情と好奇心によって支配された俺は少しだけあの怪人に近づこうかとそんな考えを巡らせた瞬間、
「あ?」
「──こんな所まで侵略しに来たのね怪人!」
直後、少女が舞い降りる。まるで天女のように可愛らしい少女だ。ゴシックドレスに和風を取り入れたような衣装を纏い長い艶やかな黒髪のロングストレートを揺らしていた。その周囲には、まるで少女を護るが如く星々が宙に浮かんでいた。
こんな変な格好で学校に現れ怪人に逃げも隠れずにやってきた少女は例に漏れず魔法少女であることは明白。 分かっていたから俺は魔法少女がやってくることを見越して怪人の出現を確認したと同時に物陰に隠れたのだ。内心実はどんな魔法少女が来るのかと結構楽しみにしていた。結果的に知ってはいけないことを知ってしまったわけだが。だから壱馬の脳はその事実を拒絶した。
…何故ならばその少女こそ──
「
──人間完璧な妹、柊 双葉だったのだ。
◈ ◈ ◈ ◈
俺は二重の意味で驚いていた。妹が魔法少女だったこともそうだが、あの格好に今の攻撃方法…完全に魔法少女『星姫』である。
魔法少女最強と呼び声が高いあの軍師様さえ認める才能の持ち主とのことだったが、そりゃそうだろう。だって俺の妹だぞ?人間完璧なんだぞ?そんな妹には魔法少女の才能くらいあるだろうよ。
今まで星姫に抱いていた疑問がまるでパズルのピースがはまるようにして解消されていく。最近よく不定期のバイトだとかで、よく家を出るなと思ったら魔法少女かあ。そりゃ敵はいつ来るか分からんし不定期だわな。
…グチュグチユ
肉の塊はついに変形を辞めた。敵の出現を警戒して止めたのではなく、変形が完了したから辞めたのだ。肉の塊だったものは人型へと変わり果て、魔法少女に問いかけているつもりなのだろう不協和音をその口から奏でた。
「何を言っているのかしら?分からないわ」
久しぶりに聞く妹の声。鈴を転がしたように囁かで落ち着きのある声が響く。
言葉は届いているのかいないのか、怪人は魔法少女を指さした。
あ、指はちゃんと五本あるんだね。(心底どうでもいい)
「そうね。名乗りを挙げてなかったわ」
そんな怪人の様子を見て察した妹は声高らかに怪人に言い放った。
「神秘の星々が叶える奇跡。妖精女王から星の力を賜った精霊の代行者、私は魔法少女
──フジュギュギュ!!
俺は内心複雑な気持ちになった。どうしてこんな怪人が兄である俺より妹と話しているのだろうか、と。
「じゃあ行くわよ。お覚悟なさい!」
妹は駆け出した。星を瞬いたかのように素早く移動する妹の身体能力は魔法少女化によって人外並の身体能力を得ていた。やはり妹は魔法少女なのだと再確認させられる。
「──煌めく光線、弾ける星々は流星となりて汝を襲う」
周囲に散らばる星がピカっと光り、光線となって怪人を襲った。しかし怪人は負けじと身体を器用に変形させて光線を迎え撃つ。光線は怪人と衝突しジュッ、っと何かが焼けるような音がした。よくみると怪人の腕は焼き焦げている。しかし言っちゃえばそれだけ。あの肉体は思ったよりも頑丈そうだ。
怪人はやり返しとばかりに反撃した。変形した腕を鞭のように振るい、怪人の拳が妹を襲う。
「っ…!」
俺は妹のピンチに咄嗟に駆け出そうとした。家族を守る為反射的に。でもそれは結果的に杞憂で終わった。
「──煌めく盾、護れる星々はやがて形となりて我を庇う」
怪人の振り抜いた拳は強固な盾に阻まれ魔法少女に届くことはなかった。
「はぁ…」
俺はホッと息を吐いた。動悸が激しい。もはや心臓の音しか聞こえない。こういう時ほど落ち着け、冷静になるんだ俺。彼女はもう魔法少女だ。身体も頑丈なはず。だから仮に攻撃受けたとしてもすぐには死なない。落ち着け、落ち着け……ふぅ。
落ち着いた。それでも心配が勝ってしまうあたり俺は相当重度なシスコンなのかもしれない。俺は念の為、鞄からある物を取り出して握りしめる。いつ飛び出してもいいように。
「反撃は終わりですか?なら決めさせてもらいます!……これ以上、
……妹が何か言っていたような気がするが、いかせん距離が遠すぎて聞こえなかった。
「──煌めく星々に希う、我は代行者【星姫】なり。汝は愛しき人の願いを叶える者、我は愛しき人のために願い奇跡を起こす者!今、ここに集いて瞬いて!【星詠ノ序曲】!」
詠唱を完了させた妹、いや今の姿は星姫か。星姫は長ったらしい詠唱による魔法を完了させたその瞬間、全ての星は光り輝き集まって特大のビームと化した。
威力は特大、込める魔力も特大、むしろちょっと多すぎるくらい魔力を込めたおかげが、新人魔法少女とは思えない力を感じた。おそらくこの魔法こそが軍師に才能を見出された理由の1つなのかもしれない。
しかし俺からするとあの魔法は未完成、これは彼女の成長次第で改善できるとして、問題は魔力の扱いの方。魔力はただ放出するだけ、込めるだけって言う考えはまずやめた方がいいと思う。魔力を操るんじゃなくて振り回されているようじゃ、
多分妹は気づいていないんじゃないかな?勝負はまだ
「これで一件落着ですかね」
ふぅ、と一息ついているところ悪いが、油断しないでほしいな。だって…ほらもう
──ギュギュ
「──え?な、なんで…さっき倒したのに」
倒してないからいるんじゃん。っと、慎重派の妹にしては珍しい失態だ。おそらくあの一撃で生き残った怪人に出会ってこなかったのだろう。成功経験による慢心が招いた油断。命と命を削り合うことこの場に置いては致命的すぎる過ち。
妹の表情が絶望に染まる。先程の一撃でほとんど全部の魔力を使ったのだろう。妹にはもう攻撃の意思はない。つまりは戦意喪失。そして俺はあの顔を知っている。あれは死を悟った者の顔だ。
怪人はニタニタと笑いながら腕を奮った。
「やっぱりか」
俺は鍵のネックレスを正眼に構えた。
「──【
……怪人は勝利を確信した。
このまま、このままいけば、殺れる!!
「──よそ見はダメだぜ」
後ろから放たれた
このまま運命を辿っていれば、彼女は柊双葉という人間の命は、潰えるはずだった。
彼女を除いて
……なーんて、カッコつけてみたがどうだろう?実に今の俺らしい。
「あ、あなたは…」
妹は目を見開き、とても驚いていた。まぁ、分かるよその気持ち。俺だって驚いたもん。
──その風貌は、青みがかった銀髪に異常なくらい白い肌、瞳は瞼によって固く閉ざされ瞳の色を確かめることはとても困難だ。大きくて白い魔女の帽子を被っておりまるで本物の魔女のような出で立ちの少年?らしき人物だった。
──その姿、その服装は、奇しくも
「俺か?俺は────【
俺は名乗る。それが運命であるかの如く。
────────────────────
初めましての方は初めまして、朝露颯と申します。こちらは気分次第で投稿していくつもりなので不定期です。もしかしたらバックレるかも?ぐらいの感覚で見て頂ければ幸いです。
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