第7話 沙夜の写真
夜、アパートの薄暗いリビングで、茂雄は沙夜の写真を手に持っていた。
小さな額縁に入ったその写真は、結婚式の日に撮ったものだ。沙夜は白いドレスを着て、恥ずかしそうに笑っている。隣に立つ茂雄は、スーツが似合わず、ぎこちなく肩をすくめていた。
「なぁ、沙夜。お前、どう思う?」
一輝が眠るベビーベッドの横で、茂雄は呟いた。写真の中の沙夜は、いつものように優しく笑っているように見えた。
「俺さ、一輝を野球選手にしようと思うんだ。世界一にして、ベストプレイヤー賞を取らせてやる。」
返事はない。ただ、沙夜の笑顔が、茂雄の言葉を静かに受け止めている気がした。
一輝がA⁺だとわかった日から、茂雄の心は揺れていた。喜びと不安が混じり合い、自分にできるのかと何度も自問した。だが、沙夜の写真を見るたび、逃げられない気持ちが強くなった。
「お前が命懸けで産んだ子だもんな。俺がなんとかしないと、許してくれねえよな。」
沙夜は出産の時、最後まで一輝を守ろうとした。医者が「母体の限界」と淡々と告げた時、茂雄はただ立ち尽くすしかなかった。あの無力感が、今でも胸を締め付ける。
一輝が小さく寝返りを打つ。茂雄は写真をテーブルに置き、一輝の額にそっと触れた。
「なぁ、一輝。お前ならやれるよな。俺はCランクのろくでなしだけど、お前は違う。」
その夜、茂雄は久しぶりに涙を流した。沙夜への想いと、一輝への決意が、静かに溢れ出した。
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