第5話 最初の道具
翌朝、茂雄は一輝を連れて近所の雑貨店へ向かった。
野球を始めるなら、道具が必要だ。茂雄の頭には、それくらいの知識しかなかった。工場までの道すがらにある小さな店で、ベビーカーを押しながら棚を見回す。
「野球、野球……」
スポーツコーナーにたどり着くと、色とりどりのボールやバットが並んでいた。だが、どれも子供用とはいえ、一輝にはまだ大きすぎる。
「すみません、赤ちゃん用の野球グッズってありますか?」
店員の若い女に尋ねると、彼女は一瞬目を丸くした。
「赤ちゃん用ですか? うーん、さすがにそういうのは……でも、柔らかいボールなら遊べるかもですね。」
彼女が差し出したのは、手のひらサイズのスポンジボールだった。赤と青のストライプが入っていて、確かに柔らかそうだ。
「これなら安全ですよ。お子さんが握っても大丈夫です。」
茂雄は一輝にボールを見せた。一輝は小さな手を伸ばし、ぎゅっと握る。そして、ニコッと笑った。
「よし、これだ。」
次にバットを探したが見つからず、店員が「プラスチックのおもちゃならあるかも」と裏から持ってきた。長さ30センチほどの軽いバットだ。
「これでいいか、一輝?」
一輝はボールを握ったまま、バットにも手を伸ばした。茂雄は笑った。
会計を済ませると、2000円ちょっと。給料日前で懐は寂しかったが、一輝の笑顔を見れば安いものだと思った。
帰宅後、茂雄は一輝とリビングで遊んでみた。ボールを転がすと、一輝がハイハイで追いかけ、バットを振り回す。まだ力はないが、その動きに妙なリズムがあった。
「A⁺ってのは、こんな小さい時から違うのか?」
茂雄は不思議に思いながらも、一輝が楽しそうに笑う姿に満足していた。これが、野球への第一歩だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます