11. 進撃、グラーティ要塞
これは、
倒しても倒しても湧き出てくる
幸い、城壁の扉は破壊されていたから、侵入するのは簡単だった。
暗雲の下、
「兵士たちは皆殺しか」
転がっている武具の残骸から、俺は推測する。その亡骸はきっと
「この
ハイエラールが魔法で矢を弾き返しながら
「ファイラン、俺から離れるな」
「は、はい!」
天陽の構え――ファイランは教え込まれたそれを忠実に守っていた。
シエルの初陣を思い出す。
「ハイエラール、左の一隊を潰す。矢返しを。ミシェ、援護!」
「はいはい」
「りょーかい」
俺はファイランに頷きかける。ファイランは不安そうに視線を
「奴らの武器には毒がある。かすり傷も危険だ」
「毒……」
「行くぞ」
俺はファイランの前を進む。飛びかかってくる
「ギャレス、槍!」
ミシェの警告に見上げてみれば、要塞の城壁の上に一列に並んだ四体の槍
「ファイラン、
間に合わない!?
ハイエラールの防御魔法も槍ほどの質量には通じない。
「はぁっ!」
ファイランの気合の声と共に、甲高い金属音が響いた。振り返った俺の前に槍が落ちる。
「ファイラン!」
ファイランは無傷だった。青白い顔で、手にしたガルンシュバーグを見つめている。
「み、見えた……」
その時、俺の耳が低い唸りを感知した。大質量の物が飛んでくる。
「ファイラン、斧だ! 後ろ!」
「っ!」
俺の警告は間に合わない。ファイランが体勢を整え直す前に、それがファイランに届いてしまう。両刃の戦斧、それが狙い
ファイランが身体を捻る。ガルンシュバーグが輝く。
飛来する戦斧を前に、ファイランは天陽の構えをとった。
「バカ、間に合わない!」
そんな余裕があるなら、
「はああああっ!」
ファイランの気合の声が響く。
袈裟懸けに打ち下ろされたガルンシュバーグが、戦斧の芯を
二つの武器が、激しい火花を散らす。
「ファイラン!」
戦斧の軌道は不自然だ。受け止めたファイランを押し切ろうとしている。俺はすかさず駆け寄って、その戦斧を横から一撃した。
戦斧はくるくると逆回転すると、そいつの手に戻った。
俺よりも巨大な
「ファイラン、下がっていろ」
「は、はい」
ハイエラールとミシェも要塞前広場に集結する。逆に言えば、四方八方を
「ハイエラール、策はないか」
「あのでかいのを殺せばどうにかなるんじゃないですかね」
「魔法でどうにかなるか?」
「今は温存しておきたいところです」
そう言っている間にも、ハイエラールは無数の矢を無効化していた。ミシェが悲鳴を上げる。
「こっちも槍の連中対策でいっぱいいっぱい」
「わかった」
俺がやるしかない。
「ファイランを頼む」
俺は剣を構え直す。
天陽の構えから続く斬撃法。連続斬撃のうちに
相手の手が読めない時に有効な攻撃だ。
その代わり体力の消費が激しい。
俺の打ち込みに、巨大な
歴戦の勇士か何かなのだろうか、この
速い!?
想定していたよりも遥かに速い速度で斧が落ちてくる。剣の振り戻しが間に合わない。
が、その一撃はミシェの放った光の矢に阻止された。それは
「馬鹿っ、何をしている!」
基本に忠実すぎる打ち込みは、しかし
俺はすぐに別の構え――
片目が潰れている上に、こちらは
俺は呼吸を整える。
黎明剣式・
振り下ろされてきた戦斧を
『ガァァァァ――ッ』
黎明剣式・
衝撃波が
『……ガ?』
間抜けな声の後、巨大な
その時には俺の長剣は鞘に戻っていた。
『ガブァ……ッ!?』
それとともに普通の
「とんでもない奴がいたもんだ」
「
ハイエラールが胡散臭い声を発する。
「こいつ、悪魔の力を得てましたね」
「……早く言え」
「死んだ時に悪魔が逃げたのが見えたので」
「そんなことより、ファイラン」
「は、はい」
「なんであんな危ない真似をした」
「それは……」
「いや、それはいい。それより、どうやって斧を防いだ。あんなの教えてないぞ」
「それは、その」
あの時の動きは、ファイランというよりはシエルだった。そこらの騎士では受けた剣ごと叩き割られていたであろう一撃を、ファイランは確かに防いだ。信じ
「動きがわかったというか、聞こえたというか……」
「聞こえた?」
「剣に従ったっていうか……」
「その剣は聖剣。何があろうと不思議はないでしょうけれど」
ハイエラールが抜き身のガルンシュバーグをしげしげと眺めて呟く。
「案外、シエルグリタ女王の遺志が宿っているのかもしれませんね」
――いつまでも一緒なんだからね。
シエルの声が聞こえた気がした。
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