第2話◇娘に【女】を見る男◇
娘は美しく成長し、出会った頃の妻を幼くしたようなアイドル顔負けの美少女に成長していた。
俺を本当の父と慕い、乾いた心を何度潤してくれたか分からない。
運動会も、文化祭も、三者面談も、二人で行った家族旅行も。
全部全部、俺の宝ものだ。
彼女のためならどんな苦しみにも耐えられる。妻がいなくても俺はやっていける。
そう思えてならなかった。
「ふんふ~ん♪ らららら~♪」
鈴の音を転がしたような美しい鼻歌が台所から聞こえてくる。
なんでも先日アイドルにスカウトされたのだそうだ。
もう少し背丈があればモデルにだってなれそうだ。
本人は芸能界には興味がないため断ったらしいが、意外と悪い気はしていないのか、料理用のお玉をマイクに見立てて小気味よいステップを踏みながら夕食の準備をしていた。
部活帰りの彼女が制服のままエプロンを着けて夕食の準備をしている姿を、俺はリビングのソファに座りながら眺めていた。
俺は彼女を娘として愛している。
だが、それとは別に……このところ俺の中にふつふつと沸き上がる熱量があった。
長く艶のある赤みがかった髪。
背が低く、肩は華奢で、あり得ないくらいくびれた細い腰。
相反するように胸部を膨らませる豊かなバスト。
カモシカのようなスラリとした脚線美が制服のミニスカートから覗いている。
アンバランスに育った肢体は男の欲望を刺激する。
理想というものを極限まで具現化したような、まるで空想上の登場人物のように完璧な美しさだった。
そう、日を追うごとに似てくるのだ。全盛期の美しかったアイツに。
大学時代に憧れ、恋い焦がれてやまなかった。
念願叶って結婚した頃にはバツイチだったアイツ。それでも構わなかった。
傷つくのが怖くて手をこまねいている間に他の男のものになってしまった彼女に、友梨佳は本当にそっくりになっていった。
彼女を見ていると、出会ったばかりの彼女と添い遂げられたら。あの時の俺がもっと勇気を出してアタックしていたら……。と。
そんなことを後悔した時期もあった。
結果をみればそれはあり得ないことが分かる。俺という男は、彼女の人生で1度たりとも眼中になかったと、離婚の際にハッキリと言われた。
しかし、友梨佳はそんな母親とは似ても似つかぬ素直で魅力的な性格をしていた。
もしも母と同じように演技しているとしたら、俺の審美眼のなさにあきれかえるしかないが。
俺は間違い無く彼女を娘として愛している。それは偽りのない事実だ。
しかし、あどけなさは残るものの、もっとも輝いていた頃の惚れ込んだ女にそっくりになっていく高校生の娘に、下腹部から沸き上がる欲望の衝動を抑えきれなくなりつつあった。
噴火しかかっている活火山のごとく上がっていく劣情のマグマがだんだんと制御できなくなっていく。
それくらい妻は惚れ込んだ相手だった。
それだけに裏切られた時のショックはデカかった。
結局、人を見てくれの良さでしか見ることのできなかった自分が、まったく成長していないことに愕然となった。
そんなアイツにそっくりな友梨佳はあまりにも美しい。そしてたまらなく愛らしい。
娘としても、女としても。
友梨佳は別れた妻が持っていなかった心の美しさを持った完璧な存在だった。
だから俺が彼女を〝女〟として意識するのに時間は掛からなかった。
これまで何度も確認してきた。彼女は娘だ。大事な大事な俺の娘。決して満たされなかった欲望のはけ口にしていい存在ではない。
そうすまいと、考えまいと、ずっとその思いを封印してきた。だが、それはある日突然崩れ去る。
堰き止めてきた理性の防波堤は、ほんのなんでもない会話で脆くも崩れ去った。
◇◇◇◇◇
「男の子に告白されちゃった」
自分の中に沸き上がってくる黒い感情を顔に出さないように食事を続けた。
「そうか。流石友梨佳はもてるねぇ」
箸で摘まんだ卵焼きを口に放り込んで、心底困ったような顔をした友梨佳が俺にそんな言葉を投げかけた。
「私には恋愛なんてまだ早いよ。お父さんがいるしねぇ」
「娘の足かせにはなりたくないが、友梨佳を誰かに盗られるのは悲しいなぁ」
「だよねぇ~。お父さんには私が必要だもん♪」
嬉しそうにそういってくれる彼女。その言葉に、俺は救われる。
しかし、それもいつまで続くか分からないのも事実だ。
「でも、ちょっと格好よかったなぁ」
「なんだ? もしかして勿体ないとか思ってるのか?」
「うーん、そうねぇ。そろそろ彼氏つくったほうがいいのかなぁ」
「そいつの事、好きなのか?」
「好き……うん、友達としては、悪くないけど、恋愛対象としてはまだ無理かな。子供っぽいもん」
「はは。友梨佳はしっかりしてるからな」
食卓での何気ない親子の会話。外から見れば仲睦まじい親子の、本当に他愛のない会話だ。
友梨佳も年頃だ。いずれ彼氏もできるだろう。
いや、もしかしたらもうできていて誤魔化しているのかもしれない。
だとしたらそれはめでたいことだ。友梨佳には幸せになってほしい。
しかし、俺の腹の底では激しい嫉妬と劣情の炎が燃えたぎっていた。
多感な時期を反抗期もなく従順に尽くしてくれる娘には、父親として心から感謝すると共に、本当に幸せになって欲しいと願っている。
しかしそれと同じくらいに、こう思うのだ。
それを俺以外の誰かが叶えてしまうのを、果たして祝福することができるだろうか、ということだ。
そしてこうも思う。
彼女が俺の知らないところで誰とも知れぬ男に股を開いて処女を散らす。
俺だけの友梨佳を奪われてしまう。
そんな悪夢のような事実を知ったら、俺は発狂してしまうかもしれない。
何度も何度も夢に見るのだ。
愛する娘を誰かに奪われる悪夢を。
世界の誰よりも愛しい娘が、どこの誰とも知らない男に跨がってヨガリ狂うのだ。
俺を簡単に見限ってどこかへ行ってしまう絶望的な光景を。
このところ毎日のように夢に見る。
次の日は違う男。その次の日はまた違う男。
挙げ句の果てには俺から妻を奪ったあの男を嬉しそうに受け入れる光景を夢に見せられ、俺はだんだん正常な思考が保てなくなっていった。
いや、始めから正常ではなかったのかもしれない。
気がつくと友梨佳の寝室の前で欲情して勃起したまま我に返ることが何度もあった。
このままでは不味い。本当に友梨佳の幸せを壊してしまう。
「好きな男はいるのか?」
その問いは、恐れから聞いた質問だった。もしも友梨佳に惚れた男がいるのなら、俺はそいつに間違いなく嫉妬するだろう。
娘として愛してる。しかし女としても、愛してる。
いや、着飾った言い方はやめよう。俺は友梨佳を独占したいのだ。この美しい娘を、誰にも触れさせたくない。
俺だけのものにしたい。心も、身体も。
身勝手で欲望まみれの、自分本位な考え方だ。ストーカーと何も変わらない狂気じみた思考だ。
友梨佳の言葉を待つ。
『お父さんが一番だよ』
そう言って欲しいと願ってやまなかった。
しかし……。
「……うん、いるよ。とっても、素敵な人……」
脳内をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
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