不滅の欠片：現実の極限

第14章 謎の知られざる少女

マリは黙ってクジョを見つめてた。

クジョも一言も発せず、ズルズルと紅茶を飲んでた。

マリは目を離さない。

クジョは彼女の視線に耐えきれず、ついにキレた：

「もうお前の目が俺に穴開けてるの感じるよ。何か悪いことしたなら言えよ、姉ちゃん？」

「最後に体重計に乗ったのいつだっけ？」

「『いつ』って何だよ？1ヶ月前だよ。何が言いたいんだ？俺がデブだってか？」

「デブじゃないよ、兄ちゃん。超デブだよ！どうやって動いてんの？ケツ、どうやって拭いてんの？」

「もういいよ、マリ！分かったから！俺バカじゃないよ！」

「バカじゃないのは分かってる。ただデブなだけ。」

クジョは怒りでテーブルから勢いよく立ち上がろうとしたけど、立てなかった。マリはクスクス笑いながら飛び退く。ステファンとシロはその様子を見て笑いを堪えきれなかった。クジョは恨みがましい目で二人を睨み、重い足取りで立ち上がって、ドアをバタンと閉めて部屋を出た。

みんな黙り込んだ。

ステファンがマリに振り返って言う：

「姉ちゃん、やりすぎじゃね？謝りに行こうか？」

「いや、今はまだだよ。帰ってきたらでいい。その時、パイでも焼いてやるよ。痩せるモチベーション湧くか見てみたいし。」

「30キロくらい落とした方がいいよな、あいつには。」ステファンが言う。「でもこんなやり方じゃあいつ、傷つくだけだと思うぜ。」

マリは申し訳なさそうに目を伏せる：

「うん、そうだね。もうしないよ。」

ステファンが笑って：

「まあ、俺はクジョじゃないけど、今パイがあったら断らねえな。」

シロが付け加える：

「俺ならオートミールクッキー食いたい。」

マリも笑って提案する：

「じゃあ、みんなで店行って、夜の食材買いに行こうか。」

その頃、クジョはヘッドホンをして街を歩いてた。考え事に没頭してた。周りは人が行き交って、みんな急いでどこかへ向かってた。

「なんであいつらそんな扱いすんだよ？ちょっと太っただけじゃん。それで俺をいじめる必要あんのか？シロまで笑ってたし！今頃あいつら、俺抜きで何してんだろ？俺のこと笑ってんのかな？くそ、ムカつくぜ！」

突然、誰かがクジョの腕にぶつかった。振り返ると、肩までの髪と前髪が整った栗色の髪の女の子が歩道に座ってた。散らばった書類を集めながら、ブツブツ言ってる：

「くそっ…」

クジョが近づいて手伝おうとする：

「ごめん！手伝うよ！」

女の子はデカいデブを見上げて、目に恐怖が浮かぶ。

「い、いや、いいです、大丈夫です！」

急いで書類をかき集めて、ヒールの音を鳴らしながら逃げ出した。クジョは立ち尽くして、変な気分になる。胸がチクッとした。ゆっくりヘッドホンを耳に戻して、また歩き出す。気づかないうちに頬に涙が伝った。自分でも理由が分からなかった。

時間：23:21

マリが時計を心配そうに見て言う：

「なんか帰ってくるの遅いね。」

ステファンが頷く：

「うん、かなり遊びすぎだな。」

シロが提案する：

「俺が探しに行こうか？」

マリが首を振る：

「分からない。今、電話かけてみる！」

番号を押す。単調な電子音声が答える：

「現在、お客様はお繋ぎできません。後ほどおかけ直しください。」

ステファンががっかりして：

「うわ、まずいな。どうすんだ？」

シロが希望を込めてまた言う：

「俺が探しに行こうか？」

ステファンがニヤッとして：

「お前、どこで探すつもりだよ？暗闇でもあいつ見えねえよ！」

マリがキッと睨む：

「ステファン、運試しすんなよ！」

「分かった分かった、ただ空気軽くしようとしただけだよ。」ステファンが言い訳する。

その頃、クジョは電話に出ないで、公園を歩いてた。Type O Negativeの曲が頭の中で流れて、神経を落ち着かせてた。突然、メロディーを突き破る変な音。叫び声！

クジョがヘッドホンを外して周りを見る。街灯の下で、二人組の男が女の子に絡んでた。

「叫ぶなよ、美人さん！ちょっと遊んで終わりだからさ！」

「離してください！手をどけて！」

「お前、分かってねえみたいだな？」一人がナイフを出す。「はっきり言っただろ、遊んで終わりだ。また叫んだらその可愛い顔、切り刻むぞ。線入れたくねえだろ？」

女の子が震えながら頷く。

クジョはニヤッと笑って思う：「やっとだ。誰かの顔殴りてえ気分だったんだ。」音楽を止めて、体重の割に静かかつ素早く三人に向かう。女の子はクジョに気づくけど、彼はジェスチャーで黙れと伝える。

「何ジロジロ見てんだよ？」一人が怒鳴る。

一。

クジョがナイフ持ってる男の頭を蹴る。そいつは吹っ飛んで気絶。

二。

もう一人が呆然と仲間を見てると、クジョがそいつの喉をつかんで自分の目の高さに持ち上げる。

三。

冷たい怒りを込めた声でクジョが言う：

「この公園でもどこでも、またお前を見かけたら殺す。分かったか？分かったら2回瞬きしろ。」

顔が真っ赤で目が飛び出た男が、2回瞬きする。

「よし、いい子だ。」

頭突きで顔を殴る。男は鼻が折れて血を流しながら倒れ、意識を失う。

女の子は呆然とクジョを見る。木と街灯を背景にした彼の巨大なシルエットは熊みたいで怖かった。暗闇で白目だけが光ってた。

「大丈夫ですか、お嬢さん？」クジョが聞く。

「え？あ、はい、ありがとうございます。」

よく見ると、クジョは彼女を認識する——今日ぶつかったあの栗色の髪の子だ。メガネはなくて、近くに落ちてて壊れてた。彼女の茶色の目がクジョをじっと見てた。

「俺、見えますか？」

「あまり。メガネ探していただけませんか？これないとほとんど見えないんです。」

「壊れてますよ…」

「くそっ。」

「立てるよう手伝いますよ！」

「はい、ありがとう。」

「名前は何ですか？」

「ヒナタです。あなたは？」

「クジョ。よろしくね。」

「うん、こちらこそ。」

時間：02:23

クジョが静かに入り口のドアを開ける。音を立てずに靴とジャケットを脱いで、部屋に忍び込み、暗闇で服を脱いでベッドに潜る。突然、電気がパッと点く。クローゼットの前にステファン、タンスの横にシロが座ってて、スイッチの横で腕を組んで壁にもたれてるのがマリ。みんな怒りに満ちた目でクジョを睨む。彼はヤバいと悟る。

マリがゆっくりベッドに近づいて座り、スマホを取り出す。画面を点けて、213件の不在着信を見せる。

「何か言うことある？」

「マ、マ、マリ、全部説明できるよ！」

「待ってるよ…」

「ほら、最初はわざと電話に出なかったんだ…」

その言葉で、マリがスマホを握り潰して真っ二つに折る。ステファンとシロが目を丸くする。クジョは恐怖で漏らしそうになる。

マリが氷みたいな声で：

「いいよ。で、その後は？」

「そ、それで、女の子が襲われてるの聞いてさ。行って助けたんだ。電話はヘッドホンに入ってて、着信聞こえなかった。」

「続けな…」

「そんで彼女のメガネが壊れてて、家まで送ったんだ。それから帰ってきた。」

マリは黙って聞く。立ち上がってクジョに近づく。彼はボコられる覚悟をしたけど、突然マリが抱きついてきて泣き出す：

「バカヤロオオオ！お前がさらわれて肉にされちまったかと思ったよおおお！」

クジョは黙って抱き返し、虚空を見つめる。マリが離れて涙を拭きながら言う：

「今日のこと、ごめんね。もうしないよ。」

「もう怒ってねえよ、姉ちゃん。心配かけた俺も悪かった。」

二人は分かり合った目で見つめ合う。

クジョが慎重に言う：

「じゃあ、パンツ替えに行かせてくれ。」

「何で？」マリが驚く。

「俺、多分怖くて漏らした。」

ステファンが床に倒れて笑いながら転がる：

「エヘヘヘヘ、1対1だ、この野郎、エヘヘヘヘ！」

みんなで大笑いした。