第12話

 クリスと共に家へ帰る途中。


 私は周りの視線に耐えていた。


 ……さっき三人でいた時も感じていたんだけど、クリスの横を歩くと、周りからの視線がすごく辛い。

 クリスは有名だから普通に歩いているだけでも注目を集めるし、必然的に隣に立つ相手も見られるということになる。

 しかもさっきと違って、クリスがニッコニコで手を繋いでいるから余計にだ。


 隣の相手は誰だ、ってみんな興味津々だ。

 


「ね、ねえみんな見てるよ……」


 せめて手だけでも離してほしいんだけど……、


「あぁ、そうだな。ソフィアが可愛いからだろうな」

 

 「か、かわっ……!?わ、私じゃなくて……、く、クリスが有名だからだよ……っ、う、噂になっちゃうよ……?」


 「そうなって欲しいんだよ。ソフィアが私の愛する、大切な人だって、みんなに知って欲しいんだ」


 クリスが私の耳元で囁いた。


 ち、近い……っ!

 

 クリスの端正な顔が近くにあると、胸がドキドキしてしまう。


 結局手を繋いだまま王都を歩いて、家のすぐ前についた時。


「あ、あの!く、クリス様!」


 後ろから女の子の声が聞こえた。


 びっくりして反射的に手を離して振り向く。


 そこには、小さな女の子が一人真っ赤な顔で立っていた。

 他の人と違って、その目には私ではなく、クリスだけが映っていた。


「何か用かな?」


 女の子の目線に合わせるようにかがんだクリスが、王子様スマイルで尋ねた。


 そのあまりのかっこよさに女の子が息を呑んだ。


 そして一層顔を赤くしながら、辿々しく、


 「……あ、あの、私、一昨日のことで、どうしても直接お礼のお手紙を渡したくて……」


 「一昨日の……。ああ、魔王のことかな?」


 ぶんぶんぶん!と音が鳴りそうなくらい全力で女の子が頷く。


 手紙の封筒には大きく『クリス様へ』と書かれていた。

 クリスが差し出された手紙を受け取りながら聞いた。


 「怪我はなかった?」


 「は、はい!く、クリス様が守ってくれたので……」


「そうか。私も王都のみんなの役に立てて嬉しいよ……エリー」


 …………えりー? 誰?


 そう疑問に思った私だったけど、答えはすぐにわかった。


 女の子が、喜びと驚愕がないまぜになったような顔で、震えていたからだ。


「ど、ど、ど、どど、どうして私の名前を……?封筒そとに名前書いてないのに……」


 「やはりそうか、文字や封筒に見覚えがあったから、そうじゃないかと思ってね。いつも応援の手紙をくれるよね、ありがとう」


 女の子はクリスの言葉を聞くなり、カァと耳まで真っ赤にして、照れが限界になって我慢できなくなったのか……走ってどこかへ行ってしまった。





 「……行こうか、ソフィア」


 屈んでいた状態から立ち上がり、クリスが繋ごうと手を差し出す。


 だけど、私はその手を握れずにいた。


 「……ああいうことって、よくあるんだよね……」


 ……分かっていたはずだった。

 クリスは昔と違って人気者で。

 よくファンに囲まれていることも、ファンレターが山ほど家に届いているのも知っていた。


 だけど実際に、ファンの子どもを見てしまうと、今までの認識が甘かったと気づいてしまった。


 ……そんなみんなの憧れであるクリスを、私は魔道具で操って……。


 そんな気はなかったとはいえ、今更ながらに罪悪感が生まれる。


 私なんて、クリスに好きでいてもらう資格も、価値もないのに。


 「……ソフィア?」


 手を取らない私に、不思議そうに呼びかけるクリス。

 

 いけない、困らせてる。


 「えっと、もう家の前だしさ。私手汗かいちゃったから、繋がなくてもいいかなって」


 「汗なんて気にしな……」


「わ、私が気にするからダメなの!ほら早く家に入ろう……って、うわっ!?」


 私の体が突然浮いたと思ったら、クリスに抱えられていた。


 それも普通に抱えられたんじゃない。

 いわゆる、お姫様抱っこってやつで……!


 「ちょ、ちょっとクリス……!?」


 「これなら手汗は関係無いだろう?」


 ない、確かに無いけど……!


 こっちの方が色々ダメでしょ……!?

 

 私が混乱している隙にクリスは玄関を開けて家の中に入った。

 

 そして、家についたというのに私を下ろそうとしない。

 

 私をお姫様抱っこしたまま、軽々と階段を上がり、個人の部屋がある2階へと向かう。


 「ね、ねえ、いつまでこうして……?」


 私の質問に、クリスはいつもの顔で笑うだけ。


 やがて、クリスは自分の部屋に入る。


 まだ私を下ろさない。


 ……ここまでくると、鈍感な私でもどこに向かっているのかわかり始めてきた。


 クリスは一直線に目的の場所へ向かい、ようやく止まったのはーー、私の予想通り、ベッドの前だった。

 

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