第2話
この街で生きる、私の日常は、単純明快、かつ無味乾燥。
学校へ行き、帰り、作り笑いをして友人に手を振り、家に着き、眠り、そして朝起き、また学校へ行く。
くだらない、偽物と嘘だらけの毎日が、私の前には広がっている。
学校での用事を済まして、井出という名字の友人に、別れを告げ、私はまた、自転車にまたがった。
あれ、つい今しがた、自転車に跨がって、家を出たばかりなのに。
そんなことを考える。
日常が平凡すぎて、私は流されるように生きている。
その証拠に、つい先ほどの、学校での出来事なんか、何一つ心にも残っていないんだ。
あっという間に日が暮れて、またあっという間に朝が来る。
きっとこんな退屈な日々が、あと何十年も続くのだろう。
目に見えている日常。
海沿いに自転車を走らせる。
気がついてしまう。
朝と同じ道のり。
それは当たり前なのだけれど、私にとっては繰り返しの象徴でしかない、退屈な通学の道のり。
でも、なんだか、嫌いじゃなかった。
人生なんて、こんなものだろうと、割り切っている。
浜辺を見ると、夕日が海を、橙色に染めていた。
砂浜に停めてある、真っ白いワゴン車が、その色に映えている。
夕焼けを近くで見たくなり、自転車を停めて、砂浜へ駆け下りた。
靴に砂が入ったら嫌なので、ローファーと靴下は脱いで、浜辺に置いた。
そのまま砂浜に仰向けになって、橙色を眺める。
小さな、開放感。
私を縛る制服なんて、汚れてしまえばいいと思った。
この橙色の空の向こうに、じぶん全部で駆け出してみたかった。
そうっと、空に手を伸ばしてみる。
偉大な人物になんてなれなくていい。
誰かひとりでいい、誰かひとりにとっての、絶対的な存在に、私はなりたい。
作り笑いをして、取り繕って得た、信頼や称賛なんて、きっとまがいものなんだ。
私が手を下ろした、ちょうどその時、背後でワゴン車の扉が開く音がした。
振り返った。
三十代前半位の男が二人、ワゴン車から出てくる。
見ない顔だ。
海水浴客だろうか。
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