告別のうた

かごのぼっち

わかれ

 それは突然だった。


「俺たち、別れよう」


 たった一言、それだけだった。


 彼はその一言を吐き捨てて、窓の外を見た。窓の外は曇天で、今にも雨が降り出しそうだった。街ゆく人は少し早足で、外の時間が速いのか、こちらの時間がゆっくりなのか判らなくなる。


 どうして? 理由を聴いても、黙りこくって教えてくれない。


 時間だけが過ぎてゆく。コチコチと喫茶店の古い柱時計が時を刻む。みるみるカップの珈琲は減ってゆき、終わりの時が迫っている。


 とうして? どんなに泣いたところで、ハンカチも出してくれない。


 彼は最後の一口を飲み干すと、はあ、とため息をついて一言。


「じゃあ」


 残酷な言葉を吐き捨てた。


 どうして? 本当にこれでお別れなの?


 私のこと、嫌いになったのかな? それとも、誰か好きな人が出来た? 私が混乱する中、カラン、哀しい音が鳴った。


 いやだ。


 いやだ。


 いやだ。


 私の手つかずのアイス・カフェラテ。すっかり氷は溶けてしまって、ラテブラウンと透明の二層に分かれている。元々珈琲が苦手だった私に、今となってはになってしまった人が薦めてくれたカフェラテ。

 少し背伸びした大人の味がして、だけど子供っぽくて、まるで私みたい。


 グラスの水滴がつっ、と流れ落ちた。


 それを皮切りに窓の外は雨が降り出して、まだ店の中にいる筈の私の頬を濡らした。













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