告別のうた
かごのぼっち
わかれ
それは突然だった。
「俺たち、別れよう」
たった一言、それだけだった。
彼はその一言を吐き捨てて、窓の外を見た。窓の外は曇天で、今にも雨が降り出しそうだった。街ゆく人は少し早足で、外の時間が速いのか、こちらの時間がゆっくりなのか判らなくなる。
どうして? 理由を聴いても、黙りこくって教えてくれない。
時間だけが過ぎてゆく。コチコチと喫茶店の古い柱時計が時を刻む。みるみるカップの珈琲は減ってゆき、終わりの時が迫っている。
とうして? どんなに泣いたところで、ハンカチも出してくれない。
彼は最後の一口を飲み干すと、はあ、とため息をついて一言。
「じゃあ」
残酷な言葉を吐き捨てた。
どうして? 本当にこれでお別れなの?
私のこと、嫌いになったのかな? それとも、誰か好きな人が出来た? 私が混乱する中、カラン、哀しい音が鳴った。
いやだ。
いやだ。
いやだ。
私の手つかずのアイス・カフェラテ。すっかり氷は溶けてしまって、ラテブラウンと透明の二層に分かれている。元々珈琲が苦手だった私に、今となっては元カレになってしまった人が薦めてくれたカフェラテ。
少し背伸びした大人の味がして、だけど子供っぽくて、まるで私みたい。
グラスの水滴がつっ、と流れ落ちた。
それを皮切りに窓の外は雨が降り出して、まだ店の中にいる筈の私の頬を濡らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます