第10話 教会
秋風がそよぐ様になった頃、まだ朝日が登る前に、私はある場所に向かって歩いた。森の奥に聳え立つステンドグラスの綺麗な教会だ。
鍍金のようなドアノブに手をかけて、フゥ…と一つ深呼吸をしてドアを開けた。
薄暗い教会の中の、一番前の教壇の上に砂原がだるそうに座っていた。顔を膝につけていたが、私が入って来た事に気がつき、鋭い目だけをこっちに向けて来た。
「…幽鈴…やっと来たか…」
いつもの爽やかな声ではなく、笑顔もなかった。
「砂原、千桜の封印の解き方を教えろ」
私は砂原にツカツカと近づいて聞いた。
「…ふっ。封印を解くだけじゃなくて…ちゃんと殺してくださいね」
私は黙っていた。
「千年分の情報です。少し高くつきますよ」
だるそうに体を起こして、ゆっくりと立った。
「結論から言いますと、開師人も閉師人も『師』と『人』二つの力を合わせて術を生み出す事ができます。千年前に封印した力はそれはそれはとてつも無い力の持ち主が封印したものなので…開師人の力とは言えど…足りません。どういう事かと言いますと…」
砂原は私に顔を近づけて言った。
「私の力を貴女に渡さなくては、なりません」
「どうやって…」
「…今から私の力をお渡しします。先に言っておきますが、貴女がもし私の力に耐えられなくなれば…」
砂原が私から離れて言う。
「そこで、the・end。貴女は死にます。…では、そこに立ってください」
そう言うと、教会の真ん中に赤い陣を引いた。
もう、後戻りは出来ない。
この決め事は…もう何があっても、覆す事はできない。
私は、一瞬唾を飲み込んで、胸に手を当てながら赤い陣の中にゆっくりと足を踏み入れた。
「…砂に舞う…人の欲よ…水を枯らし…我がモノと成れ」
砂原がそう唱えると、赤い陣から炎が燃え上がった。
「熱…っ」
燃えるように熱くなり、肌が焼けてしまいそうだった。
「息が…」
「息がうまく吸えないですか…?人が人に恋をすると、そんな風に息ができなくなるのです。その苦しさ…恋に似ていて素敵だとは思いませんか?」
砂原は手を広げながら、明るく諭した。
「…では、私の力を貴女に差し上げましょう…」
砂原は燃える炎の中に、戸惑いもせずに入って来て、私の顎を持ち上げて口づけをした。
「⁈」
砂原の口から、赤黒く渦巻いた水晶のような玉が私の体の中に移された。
その水晶の玉が体を通過した場所が、燃えてしまいそうなくらい熱くなって、私は喉を抑えて地面に膝を落とした。
「苦し…」
砂原がしゃがんで私を真っ直ぐに見つめる。
「そりゃあそうでしょう…千年分の私の想いです。貴女も同じくらい苦しんでくれなきゃ困ります」
そう言うと、美しい顔で微笑んだ。
炎は変わらず燃えているのに、砂原は全然苦しくなさそうで、冷たい顔で私を見下ろしていた。
「…う…うぁああああっ」
もがきながら体が倒れそうになった。
「おっと…私の大切な人、もし貴女が生きていられたら」
砂原が後ろから片手で私をキツく抱きしめた。
「雨を降らせて、蒼神市を湖に変えてください」
そう言いながら私の首にキスをした。
「幽鈴!!」
炎の中から、陽炎の様に揺れた先に宗一郎の姿が見えた。
左目は蒼く、右目は赤く光る私の目が、宗一郎の方を見る。
宗一郎が私の事を助けようと、陣を敷く。
「湖になれば…千年の扉が開きます…」
砂原はそう言うと、私の背中を押した。
宗一郎が何かを叫んでいたのか、聞こえなかった。
私は、助けてくれようとしている宗一郎の隣りを…
何も言わずに、通り過ぎたのだった。
さよならだ…宗一郎。
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