第二章 氷上の踊り子編

第3話 初めての相談

 始業式から1週間が経ち、そろそろ大炭寺学園院での生活にもれてきた。昨年度の生徒会の仕事で処理しきれなかった仕事の山を押し付けた結果、私にぶんなぐられたおじいちゃんの傷も治りかけてる頃合いだ。

 生徒会の仕事も人員不足の中、たくみくんと二人でこなしていく一方、教師陣きょうしじんや用具員のおじさんからのたのごとを引き受ける日々が板にいてきた。 目安箱めやすばこの方は、私に相談するのがおそれ多い感じで未だに依頼いらいがこない状態じょうたいが続いていた。だが、そんな状態もようやく目安箱に来た1本の投書とうしょによって幕を閉じた。そう、すべてはこの相談が始まりだった…


 「あなたが目安箱に投書してくれた3年生の先輩ですね?」

「ええ。ITテクノロジー学科・ホワイトハッカー専攻せんこう3年の三枝比由みつえだひゆです。下級生のあなた達に相談するなんて変な感じだけど、話を聞いてもらえる?」

「もちろんです、三枝先輩。ねっ、麻由実まゆみちゃん。」

「うん。それで三枝先輩。相談したいことと言うのは何でしょうか?」

私がそう聞くと三枝先輩は相談内容を話始めた。

 「あなた達はフィギュアスケートのジュニア大会で2連覇を果たしたフィギュアスケーター・神楽坂かぐらざか増美ますみって聞いたことある?」

「すみません…。私はちょっと分からないです…。少し世間に疎い部分があって…。匠くんは?」

「あっ、その名前聞いたことあります。確か、ジュニア大会以外にも様々な大会やコンテストの優勝を総嘗そうなめにしたフィギュア界に突如現れた若き天才って…」

「その通り。氷上の上でパフォーマンスするその姿はまるで踊り子だ、って、言われてね。付いた異名は『氷上の踊り子』。フィギュアを始める前はダンサーをやってたとも言ってた。一時期はテレビ出演していた事もあったから、若手や同世代のフィギュアスケーターからみればあこがれの存在なんだ、あの子は。」

と、三枝先輩は自慢じまんげに語る。

 「ずいぶんと彼女のこと詳しいですね。もしかして、三枝先輩ってその彼女とお知り合い何ですか?」 

「ええ。彼女とは中学からの友人で、私も昔は彼女と同じフィギュアスケーターだったの。」

「なるほど。それで詳しいんですね。あっ、もしかして、相談したいというのはもしかして…」

「そう。まっちゃん―、神楽坂増美のことです。」

「まっちゃん?」

三枝先輩がニックネームを使ったので、私が反応した。

「私達は互いに『まっちゃん』・『みっちゃん』って呼び合ってて、つい、いつもの癖で言っちゃったな。後輩達の前だから少し恥ずかしいな…」

「そんなことないですよ!」

「そうですよ。気にしないで下さい。」

私と匠くんは咄嗟とっさにフォローする。

 「それで、その神楽坂増美さんは今どこに?」

「まっちゃんなら、学院のスポーツエリアにあるスケート場で練習中のはずだけど…」

「スケート場? (敷地面積しきちめんせき広いとは思ってたけど、そんなものまであるとは…)」

「ええ。彼女もここの生徒で今は復帰戦に向けて練習していてね。」

「復帰戦、と、いうことは、神楽坂先輩は怪我でもしたんですか?」

「…実はそのことを相談したくて相談したの。」

 一瞬不安げな顔を見せた三枝先輩は再び語り始めた。彼女―、神楽坂増美のことを。


 その内容は、1年前に交通事故で重傷を負い、もうフィギュアを続けられないかもと医師に言われ、一度はフィギュアを諦めかけたけど、頑張ってリハビリを続けた結果、トリプルアクセルが決められる程度には良くなったが、先ほど少し出てきた復帰戦を控える中、未だうまくできるか自信がないという話だった。

 「「…」」

「って、二人とも大丈夫? 言葉を失っているけど…」

「いや、だって…。トリプルアクセルが決められる程度には回復しただなんて、化け物じみてるなーと、思って…」

「確かに。」

「麻由実ちゃんは絶対分かってないでしょ…」

「あ、アハハ…。ばれた?」

(ばればれだよ…)

「まっちゃんは昔から諦めが悪くて、皮肉なことや嫌味を言われると逆に頑張っちゃうタイプだから、まあ、驚くのは分かるな…」

三枝先輩は私達の反応を見ながらそう言った。

「お話は分かりました、三枝先輩。この件、生徒会がお引き受けしましょう!」

「ほ、ほんと!? ありがとう、大炭寺さん。これからまっちゃんの様子を観に行くんでしょ? 一緒に行きたいけど、この後、美化委員会の集まりがあるから…」

「申し訳なさそうな顔しないでくださいよ。そういうことなら、俺達だけで会いに行って来ますから。」

少し落ち込む三枝先輩を匠くんが励ました後、先輩は生徒会長室を後にし、私達は神楽坂先輩が練習をしているスタート場に向かった。


 大炭寺学園院の西側にあるスポーツエリアにあるスケート場に着いた私と匠くんは、しばらくスケート場の中で神楽坂先輩をさがしていた最中さいちゅう、奥のスケートリングで練習している女子生徒の演技に魅とれていた。

「…あの人の演技えんぎ綺麗きれいだね。匠くん。」

「そうだね、麻由実ちゃん。…って、麻由実ちゃん、俺達がここに来た目的忘れてない?」

「…へ?」

「…へ? じゃ、ないよ! 俺達がここに来たのは神楽坂先輩に会いに来たからだろ?」

「そうだっけ?」

「ボケてる場合かーー!」

目的を忘れた私に匠くんがツッコんでいると、私達が練習を観ていた人が近くに寄ってきた。

 「ちょっとあなた達、さっきからうるさいんだけど。練習観ないなら、あっちに行ってもらえる?」

「あっ、すみません。おさわがせさせて。あの、俺達、神楽坂増美先輩を捜しているんですけど…」

「神楽坂増美は私だけど、何か用?」

「あなたが神楽坂先輩だったのか…。さっき練習観てましたけど、綺麗でした。」

「それはありがと。話を戻すけど、あなた達は?」

「ああ、すみません。自己紹介していませんでしたね。俺は生徒会執行部で庶務をやっている高等部2年のかく匠と言います。となりにいるのが、さっきボケてたのが同学年で生徒会長の大炭寺麻由実です。俺達は三枝先輩の相談で神楽坂先輩に会いに来ました。」

「みっちゃんが? それで私に会いに来たのか。」

「まあ、そういうことです。」

「じゃあ私のことはみっちゃんから色々いろいろ聞いているわけか。」

「三枝先輩の話じゃ、リハビリしながら復帰戦に向けて練習してるけどうまくできるか不安になってるって聞きましたけど…。」

 「ま、まあね。復帰戦は明日なのに、うまくせられるか不安でね。明日は、トリプルアクセル・アップライトスピン・トウステップからトリプルアクセルしてシットスピンっていう技の構成なんだけど、不安でね…。さっきはうまくできたんだけど、最近は練習でもうまく行かなくて、イライラしてたからみっちゃんがあなた達に私のこと、相談に行ったのかもね。」

「そうだったんですね…。誰にでもイライラするなんてこと、当たり前ですから。気にしないで下さい。」

「確かに。麻由実ちゃんの言う通りだな。」

私と匠は神楽坂先輩の話を聞いて同感した。


 「―ところで、神楽坂先輩はフィギュアを始めたんですか? 三枝先輩の話だと、昔はダンサーだったって聞きましたけど…」 

「ああ、そのことか。ちょうどいいか。休憩がてら話そっかな…」

そう言って神楽坂先輩は自分の過去を話始めた。


 「私がフィギュアを始めたのは小学3年の頃。それまではヒップホップをやってたけど、何かしっくり来なかった感じがあった。そんな時、家族でアイスショーを観に行ってね。そこで観たパフォーマンスが嫉妬しっとするほど美しくて…。私もあんなふうになりたいと思ってフィギュアを始めたんだ。でも、もう1つ、理由があった。」

 「理由、ですか? それは一体…」

「それはね、ズバリ…『お金』よ!」

「「お、お金ぇ!?」」

私と匠くんは神楽坂先輩がフィギュアを始めたもう1つ理由の理由が欲望に忠実ちゅうじつぎておどろきと同時に呆れた。

「な、なぜ、お金何ですか? 意味分かんないんですけど…」

「確かに…。そっちの方にも何か理由がありそうですね。」

「まあ、ね。」

神楽坂先輩にはまだ隠していることが多そうだ。かくいう私も人のこと、言えないけどね…


                                 To be continued…



   

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