縁に因りて〜佐倉と津田の同棲物語〜

晩夏の夢と真夜中の庭

揺籃

「帰る」


身を丸め、君は頬を赤くして言う。


「みつはるは、いつ迎えに来るの」

と、父親の名を挙げて君が聞く。

「まだ、来ないね」


「みさは?」

「まだ、来ないね」

母の名を挙げる君に応える。


君は、いやいやと駄々をこねて、布団にくるまる。


「もうしばらく、おじさんと一緒にいよう?」

そう声をかけると、君は押し黙り、もそもそと掛け布団の中に隠れてしまった。


「僕、家どこ」

膨らんだ布団が喋る。


即座に答えられない俺に、


「帰れないんだ」


呟いたきり、君は眠ってしまった。



布団をいで、その体を腕にすくい上げても、熱い体をくったりと弛緩させた君は目を覚まさない。


小さな頭を氷枕においてやる。



「おじさんと一緒じゃ、だめかい?」


聞いても、眠ったままの君は答えなかった。


部屋の隅に置かれたランドセルと黄色い帽子。

机の上には使い込まれた国語の教科書。


彼が昨日読んでいた、揺りかごの詩を思い出す。

「……木のこずえ、」


今、彼の足元はぐらついている。


君はおそらく、嵐を予感している。


「風が吹いたら……」


何もかも壊れてしまうのだ。



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