第2話 三ターン後に死ぬ令嬢

 そもそも、マージョリーたんを殺す展開を考えた、運営が悪い! 三ターン経過したらわかるが、あんまりだ。

 

 たしかに「主人公の強さが、何者かの犠牲によって成り立つ」といった脚本は、盛り上がるかもしれない。

 

 だが、このゲーム『コンバット・プリンセス ~ヴァルキリー戦記~』は要所要所で人が死にすぎだ。

 

 あっちのルートではヒロインが外道に純血を奪われて死に、別ルートでは、強キャラが、洗脳された恋人に刺し殺される。


 プレイヤーに、その手を汚せというのか?


 だが、問題はその後だ。


 プレイヤーに人気のキャラが、例外なく天に召されてしまう。

 その後に残ったものは、性能こそいいものの、何も感情移入できないキャラばかり。

「誰てめえ?」と思わせる、クセ強な人物ばかりとなる。

 

 これがまた、プレイヤーのやる気を削ぐ削ぐ。ギャラの都合で俳優が離脱しまくった海外ドラマしかり、ファンの人気が高いスターなキャラほど即退場するデスゲームしかり。

 

 実際、「推しが死んだから、もうやらない」という離脱者を量産した。

 

 この意見に対して、シナリオライターは、「推しが死んだくらいで離脱する@プレイヤーは軟弱」と一蹴する。

 これが拍車をかけ、結局ゲームはサ終、つまりサービス終了を迎えた。


 私は、サ終のショックで死んだのである。


 だが、私は帰ってきた! マージョリーたんの盾として!


『ご安心をマージョリーたん! このトミコ・ダテは、別の神様からあなたを救うようにつかわされた、インテリジェンスウェボンです! 大船に乗ったつもりでどーんとお任せあれ!』


「は、はあ」


 信じてくれていないようだが、マージョリーたんを守るのは、私の使命だ。だから、安心してほしい。

 

 私を復活させてくれた女神は、『人外転生』を提案されて驚いていたけど。

 とにかく私の目的は、マージョリーたんの幸せのみ! マージョリーたんさえ活躍したら、私なんて一切活躍しなくたっていいんだ。


 私の使命は、マージョリーたんの死亡ルートを回避させること! マージョリーたんの盾に転生し、この狂ったシナリオを変える!

 

 シナリオブレイクだけど、いざ仕方ない。最推しのためだもの! 正規ルートも破壊してくれる。


 第一、「人死にで盛り上げたらええんやろ」的な方向性など、三流以下の脚本だ!

 適当な采配の人死に展開など、ゴミの発想! 

「どのキャラを生かせば最良のシナリオになるか?」を考えてから、どのキャラを退場させるか判断をすべきだろうが!

  

 だから私は、死亡フラグのあるキャラをすべて助ける。

 

 人死に至上主義なこの幻想ゲーを、ぶち殺す! 徹底的にな!

 

 シナリオブレイク上等! この転生は、お天道様が与えてくれたチャンスなり!


 悲劇のヒロインの盾に転生するとは思わなんだが!


 まあいい。私とマージョリー嬢は、二人で一人! 


 とにかく私は、令嬢のおそぼにずっといたい!


 人に転生しても、どうせなにもできないだろう。お友だちになったところで、私のような凡人は足手まといさ。


 ならばいっそ、インテリジェンスウェポンとなって、全力でお守りする! 二人で協力して、生き残るんだ!


 ワイバーンが爪を地面に突き立てて、ドクロの兵隊を次々と召喚する。


 その攻撃も、マージョリーたんは防がなければならない。


「くっ、数が多すぎますわ!」


『マージョリーたん。あなたはこのゲー……コホン。陣営におけるタンクという職ですね』


 タンク……つまり、最前線で敵のヘイトを稼ぎ、攻撃を自分に集中させるのが仕事である。


 マージョリーたんの防護を受けているから、仲間の騎士や魔術師は雄々しく攻撃を続けられるのだ。


 その分、マージョリーたんの負担はデカい。


『任せて。私の操作に身を任せて!』


 マージョリーたんが、決意を示す表情になった。


「わかりました。ダテさま、参りま――」


『いえ。もっと命令口調でOK!』


「……動けぇ!」


『おおおおお!』


 私、大ハッスル! 推しをお守りするナイトとなった今の私は、世界一幸せなのでは!?


『おとなしく、マージョリーたんの養分になれやあ!』

 

 マージョリーたんを動かして、私を足に装備させた。


『イエアアアアア!』


 狂気に満ちた私は、目の前にいた敵を蹴り飛ばす!


 モンスターが、ワイバーンの顔面に激突した。


 ボスがダメージを受け、目を回す。


『よっしゃ、ゲームどおり!』


 私は、心の中でガッツポーズを取った。


「盾を装着した足で、魔物を蹴り飛ばすとか。わたくしには、考えられない戦法ですわ」


 ゲームでも、できない戦法だけどね。

   

 この世界が、『コンバット・プリンセス ~ヴァルキリー戦記~』と同じなら、やることは一つ。


 ワイバーンをマージョリーたんでブチのめし、シナリオブレイクさせるだけ!


『来ました、マージョリーたん。あれがあなたの死因です』


 お姉さん的存在である少女、イーデンちゃんだ。

 孤児院に取り残された子どもたちを、避難させていた。


 そこに、ひるみ状態から復活したワイバーンのおでましである!


 彼女をワイバーンの攻撃からかばって、マージョリーたんは天に召されてしまうのだ。

 

 まずは、そのフラグをへし折ってくれる!


『ん? ちょっと待って?』


 だが、私はちょっと躊躇した。


 シナリオブレイクは上等だが、マージョリーたんがボスを倒したら、主人公が成長しなくなるのでは?

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