最強盾に転生して、死亡フラグだらけのクソゲーから推しの「壁役令嬢」を守ります!
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
第一章 壁役令嬢、大地に立つ ~ここはわたくしに任せて先へお行きなさい!~
第1話 サ終したゲームに転送され、最推しの装備に転生
「また全滅エンドとか!」
私は、コントローラーをぶん投げる。
今日も、マージョリーたんを救うことができなかった。
「くっそ。もう一回だ。今度こそマージョリーたんを救って……サ終!?」
さっきまで遊んでいたゲーム『コンバット・プリンセス』が、サービスを終了した。
「全方位バッドエンド」というクソシナリオだけではなく、クソ仕様が多すぎて、過疎っていたからなあ。
でもマージョリー・ジンデルたんだけは、救いたかった。
金髪碧眼、長身のナイスバディなモデル体型って見た目だけじゃない。一見悪役令嬢風だが、それは外面だけ。実は仲間思いで、自分の身を賭して民を守っていたのだ。
それがわかるのって、ホントに終盤なんだけど。
「ああ~っ。マージョリーたんは、私の癒やしだったのにぃ」
ガラステーブルに突っ伏した私は、そのまま仕事の疲労で倒れてしまった。
そのまま、永遠の眠りにつく。
どうやら私、過労死したっぽい……。
「トミコ・ダテよ、目覚めなさい」
気がつくと、私は真っ白い空間の中にいた。
眼の前には、空間以上に真っ白いシルエットが。フォルムから、女神様だとわかった。
「あなたは生まれ変わるのです」
おお、異世界転生ってやつね。
「マージョリー・ジンデルとして、第二の生を歩むのです」
「……は?」
なにをおっしゃる女神様。
「じゃあ、マージョリーたんは?」
「死にます。あなたが第二のマージョリーとなって、このゲームを幸せに導……」
「ざっけんな!」
マージョリーたんが幸せにならない世界に、なんの意味がある?
「私はゲームがハッピーエンドになることなんて望んでいない! 私の願いは、マージョリーたんの幸せのみ!」
誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなんて、なにが幸せだ?
「では、あなたは転生先に何を望むのです?」
「それはもちろん!」
私は、転生先を指定する。
目が覚めると、そこはファンタジー風の景色だった。
「ここはわたくしに任せて、先にお行きなさい!」
盾を構えながら、金髪碧眼の女性が仲間に指示を出す。
え、なに、どういうこと!?
このコって、マージョリーたんじゃないか! マジ天使! いや女神!
しかも私は、マージョリーたんを身近に感じている。
というかマージョリーたん、私を装備している。
私、盾になってるんだけど!? たしかに、この世界はしゃべる武器防具があるが。
「マージョリー、死ぬなよ!」
仲間たちも「見殺しにできるか」など意見が対立するが、リーダーの一言で意見は一致する。ここで自分たちも残ってしまえば、マージョリー嬢の意志がムダになるのだ。
『くうううう! この名言! あー、麗しのマージョリー・ジンデル様、あなたの盾に転生できるなんて、素敵!』
まあ、私はその盾に生まれ変わったんだけどね。
金髪碧眼、高慢ちきな少女が、私と一体化している! つれない態度もたまらない。それが今、私のものに!
『おっと!』
盾になった私に向かって、ウルフが噛みついてきた。
『幸せに浸っているのに! 邪魔すんなや、犬っころが!』
弓も魔法も、私の手にかかればまったく意に介さない。すべて弾き飛ばしますよーっ。
「あら?」
身体が勝手に動いて、マージョリーたんも困惑しているようだ。
私の鋼鉄ボディが、噛みついてきたウルフの牙をアゴごと砕く。
攻撃してきたはずのウルフが、逆に消滅した。
うわー、やっぱり固い! まさに要塞。悪役令嬢なんて古い。
これからはまさしく「壁役令嬢」の時代だよ!
『邪魔だっつーの。フンフン!』
マージョリーたんの腕を、私は勝手に動かさせてもらう。
「あらららら!」
盾を振り回してもらい、ウルフたちを打撃で潰す。【シールドバッシュ】というスキルだ。マージョリーたんは所持していない。私が装備にセットしている攻撃スキルである。
「なんでございましょう? ドロップアイテムの盾がしゃべりだしましたわ! しかも、ひとりでに動き出して!」
そう、私はマージョリーたんの初期装備【魔神の盾】に転生したのだ。
見た目は、姫の身体なんてすっぽりと覆ってしまうタワー型の盾である。ロボットの盾みたいだけど。
「あなた誰ですの?」
『どうも。私はあなたのインテリジェンス・アイテムです」
「インテリジェンス・アイテムって、しゃべりますのね? 【魔神の盾】は、先祖代々引き継いだアイテムでしてよ? やけに近未来的なフォルムに、変形しましたわね。何事でしょうか?」
インテリジェンス装備とは、いわゆる知能を持った装備品だ。言葉を話し、キャラにアドバイスを送ったり話し相手になったりできる。
このゲームは、キャラがそれぞれインテリジェンス・アイテムを持っている設定だ。
私の場合は、マージョリーたんの盾である。
「あなたは何者ですの? 魔神の盾とは意思疎通ができる装備と言われています。が、会話もできるなんて。そんな伝説は、どの文献にも存在しませんわよ」
『私の名前は……おっと!』
現在、絶賛攻撃を食らい中である。
ダークエルフの矢やガイコツ魔道士のファイアーボールなどが、私に飛んできた。
『しゃべってる途中だろうが死ね!』
そのことごとくを、すべて叩き落とす。お返しに、シールドバッシュを見舞う。マージョリーたんを勝手に動かさせてもらいながら。
「私のことは独立型戦闘システム・『ダテ』とお呼びください。フルネームはトミコ・ダテです!』
「人間の魂が、魔神の盾に宿りましたの?」
「あなたが私を、この世界へ呼んでくれたのです!」
クソゲー『コンバット・プリンセス ~ヴァルキリー戦記~』の世界に!
ここは『ヴァルキリー戦記シリーズ』という、シミュレーションRPGの世界だ。
男性とイチャイチャしつつ、中世風の戦場を駆け抜ける剣と魔法の世界である。
平成の据え置き機時代から時を経て、ようやくPCでも遊べるようになった。
『コンバット・プリンセス』はその新作だったのだが、あまりの破綻ップリに晴れて「クソゲー」の烙印を押されている。
極度の過労で意識を失った私は、この世界に飛ばされたっぽい。異世界転生ってヤツよ。
しかも最推しである、マージョリーたんのインテリジェンス装備品として!
「ごめんあそばせ、ダテさま。痛いのではありませんか?」
おいおい、盾を守ろうとしないでくださいまし! なんのためのシールドやねん。
『ちっとも。痛覚はないみたい』
若干モンスターの爪や削られたりしているみたいだけど、またたくまに修復が済んでいる。かがくの……いや、ファンタジーのちからってすげー。
すばらしきかな、幻想ゲーム世界は。
『だからご心配なく。あなたよりは頑丈かなって。でも気をつけて。いくらあなたの二つ名が要塞だとか壁役令嬢だとしても、避けられない運命があるから』
「そうですの? わたくしは無敵と自認しておりますが」
『そこ! そういうとこやぞマージョリー嬢!』
口論している場合ではない。令嬢には、今からボス戦が待っていた。
敵のボスが、地上に舞い降りてくる。ドシンと大地を割って現れたのは、ワイバーンだった。太い脚の攻撃もだが、火炎のブレスが厄介だ。
「ワイバーン! 相手にとって、不足はございません! このわたくしがお相手いたします!」
勇ましく、マージョリーたんは盾を構える。
だが私は、彼女に残酷な宣告をしなければならない。
「えっと、ですね。申し上げにくいのですが、あなたはここで死にます」
正確には、三ターン後に。
彼女はプレイヤーのオトリになって、死ぬのである。
「ダテさま、あなたが殺すのですか?」
『いいえ。シナリオ……狂った神の運命によって』
序盤のボスですら、この状態だ。
『正確には、三ターン……コホン。三〇分後にあなたは死にます』
シナリオ上で、仕方ないらしい。
実はこのマージョリー嬢、悪役令嬢どころか序盤で死ぬキャラクターなのだ。
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