フィクションinノンフィクション

山岡洸平

フィクションinノンフィクション

 午前3時からのそのにわか雨は僕を笑わせた。

普段、一人称は俺をよく使っているが、ここはフィクションなので上品に「僕」とでも洒落込もうじゃないか。

 僕は午前2時40分に家を出て、45分にコンビニに着いた。色々物色して、ポテチとかコーラとか、平和ボケしたカゴの中に缶ビールとかいう昭和の頑固親父を解き放つ。どうだ怖いか? へへっ。レジにはいつものヤンキー金髪アニキの姿はなく、黒髪ボブのお姉さんが立ってた。こう聞くと、まぁなんて素敵な清楚な人なんだろうとか変な想像をしてしまう奴がいるだろうことを鑑み、僕は今から彼女についての詳細を、見たままのことを、書く。まず、ピアスが多い。十字架とか、わけわからん丸いやつとか、とにかく多い。そういうわけわからんピアスが悪いと言っているわけではない。多い。多すぎることが問題だ。なんでこんな多いんだよ。両耳に20個はついてんじゃないか? 鼻にもついて、口にもついて、ピアスいっぱい星人かよ、こいつ。次に、化粧が濃い。いわゆる地雷系ってやつ。コンビニに規則的なものはないのかね、まったく。それはそうと、可愛い。めっちゃタイプ。可愛い。


「……お客さん? お客さん?」


 え?


「5点で、1320円です」


 声も可愛かった。


「あ、あぁ。じゃあこれで」


「2000円お預かりします」


 意外と接客ちゃんとするタイプなんだ。


「280円のお返しです」


「あ、あのぅ」


 彼女は一瞬ギクっとして口を開く。


「なんでしょう?」


「生きるってなんだと思いますか?」

 

 わけのわからんことを口走ってないで連絡先聞け。ボケ。


「……は?」

 

 ほら、困惑してるよ彼女。どうすんだよ。


「いや、だから。生きるってどういうことだと思いますか?」


 小説のこと考えすぎだ。知らん人にそんなこと聞いてどうすんだ。お前ひとりの問題だろ、それは。


「やっぱり、いるんだ。本当に」


「え?」


 やっぱり?いる?意味がわからない。どういうことだ?彼女が確かに今言ったんだよな?


「どういうことですか?」


「いや、この時間になったらいつも来るって。小柳さんが」


 小柳。小柳ってのはいつもレジに立ってるヤンキー金髪兄貴の名前だ。いつも暇そうにレジに立ってるから、小説の内容の足しに少しでもなればいいなぁとたまに「女に振られた気持ち」とか「葬式の時に笑っちゃうとこある?」とか聞いてやっている。仲がいいってわけではない。


「ああ、小柳さん」


「そうです。小柳さんが、この時間帯にソクラテスにぃやんが来るけどビビらないでねって」


僕のことソクラテスにぃやんって呼んでんのかあいつ。


「ソクラテス?」


「そう、なんでもソクラテスって昔の人がいて、その人が道端で若者捕まえて、深い質問するっていうのをやってたみたいで。あ、小柳さん大学出てるんですよ」


「へぇ……」


僕は、ソクラテスについてより小柳が大学を出ていることに驚愕している。

 お姉さんは笠原って名前らしかった。笠原さんは生きる意味について考えたことないからわからないと言って、今から考えるから、わかったら連絡するからと内緒でインスタを交換した。僕の顔がちょっとだけいいことが功を奏したのかもしれない。とにかくアツい。

 コンビニを出たら雨が降っていた。スマホをズボンのポケットから出して時間と天気予報を見る。今は午前3時。雨が降り止むのは10分後。まぁにわか雨っていうやつだ。僕は笑った。気味悪いくらい笑った。というか笑って誤魔化したかった。寒い。12月10日に雨は寒い。帰りたい。帰れない。笠原さんに絡みにいこうかな。気持ち悪いよなきっと。

  

 何もしないでいると雨はすぐに止んだ。思ったより早かった。寒い。帰ろう。僕はボロいアパートに住んでいる。24歳、小説家。そう、僕は小説家をしている。自称だけど。いろんな賞に自筆小説を応募しては落ちまくっている自称小説家フリーターである。ドアの鍵を開けて中に入る。暖房をつけて、机のスタンドに灯りを灯す。さぁ、今日は書くぞ。張り切ったのはいいものの、ここのところスランプ気味だ。書いては捨てて書いては捨てて。書く意味なんてどこにあるのだろう。捨てられた幻想とか理想を拾っていくことになんの大義があるのだろう。机に伏せてあるカロリーメイトを齧る。ペンを持つ。思考が止まる。カロリーメイトを齧る。齧る。齧る。

 何の為に生きてんだよ。

頭の中によぎる。「何の為に生きてるか」なんて人生の中で誰もが一度は考える瑣末なことだろう。

大きなことみたいに考えるけど、きっとそれは間違えてると思う。生きてることほど当たり前で、ありきたりで、わくわくしないものはない。生きてる意味なんてありはしない。自分で作らなきゃそんなものありはしない。だから何の為に生きるかなんて問いは瑣末だ。愚問だ。怠惰だ。ああ、死にたい。

 生きてることに価値なんてあるだろうか。生きる為にお金を稼ぐのか、お金を稼ぐ為に生きてんのかもわからなくなってはしないだろうか。何やってんだろうか。

 とにかく書こう。題名は……


    「フィクションinノンフィクション」


 と、ここまで書いて俺はペンを置いた。時計の針は午前2時30分を貫いている。1時間は経ったろうと思っていたのに、まだ20分しか経っていないことに絶望する。長い夜になりそうだ。とりあえず、コンビニ行こう。あつあつの肉まん、まだ残ってたらいいな。

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フィクションinノンフィクション 山岡洸平 @kouhei0630

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