第19話 歴代最高速度

 ――ラスト、あなたはどうしてそんなこともできないの? お姉ちゃんたちを見習いなさい。


 はい。お母さん。


 ――ラスト、何でも一人で出来るようになりなさい。わかりましたか?


 はい。わかりました。


 ――ラスト、あなたはいらない子なの。これからは一人で生きなさい。


 ごめんなさい。お母さん。



 幼いころから、私だけはなぜかお母さんの目の仇だった。

 出来損ないと言われ続け、何でも一人でやりなさいと怒られ続けた。

 

 その理由がわかったのは、少し大人になってからだ。


 どうやら私だけは妾の子だったらしい。

 私だけ姉たちと見た目が違うと思っていたが、そういうことなのだ。


 誰も私を見てくれない。


 どうやったら私を見てくれるの?


 ねえ、私は、どうしたらいいの。


 私は必死で努力した。勉強も魔法も頑張った。

 でも、どれだけ頑張っても無意味だった。


 もういい。私は、誰にも期待しない。


 どうやら私は綺麗らしい。

 男たちだけは、私の姿を見て喜ぶ。

 そうか。綺麗になればいいんだ。可愛くなれば、美人になれば、誰も私を下に見たりしない。

 私を、無視できない。


 男は私を見て喜ぶ。女は私を見て羨ましいと口ずさむ。


 何も知らないくせに。私がどれだけ努力しているのか。

 

 私は誰にも頼らない。誰の力も借りない。

 男も女も、みんな私にひれ伏させる。


 私を、私の存在を認めてもらう。


 セラスティ学園を卒業すれば大勢から敬意を持たれる。

 絶対に合格して、母親を見返してやりたい。


「よろしく」


 ダンジョン試験。ペアの相手は、怠惰で有名なスロース・エンヴィルドだった。

 噂と違ってぶくぶく太っていなかった。ちょうどいい。私がすべてやる。


 そう、思っていた。


 彼は、私を助けてくれた。

 危険を顧みず、身体を張って前に出てくれた。


 背中を合わせて、私を一人の人間として見てくれる。

 見下すこともなく、過度に持ち上げることもしない。


 唯一無二の男性。


「行くぞ」


 私は常に一歩前に出ることを意識していた。

 いつも姉たちの後ろについていた自分が嫌だったからだ。


 でも、この人の後ろなら歩きたい。


 魂が共鳴している。


 

 私のご主人様はこの人だと。


  ◇


 ダンジョンの扉を開くと、突然視界が切り替わった。

 ここは、外か。


 試験官が立っていて、何やら驚いている。


 周りは誰もいない。まさか俺たちが一番乗りか?


「あなた達……どういうことですか」


 驚いた様子で声を漏らし、俺と色欲を交互に見る。


「何がですか? これでクリアですよね?」

「……まだ、開始してから一時間しかたっていませんよ」


 そんなにかかっていたのか。でも仕方ないな。

 とはいえ、何がおかしいんだ?


「これは、ダンジョンの歴代最高記録です」


 ……え?


 そのとき、後ろから声がした。


「スロース様! お待たせしました!」

「遅くなりましたわ」


 駆けつけてきたのはキャロルとエヴィだ。

 一体何の試験だったのかと思い尋ねようとすると、怪訝そうな顔をして、二人は足を止める。


「……ど、どういうことですか」

「ありえません。こんなのありえませんわ」


 顔面蒼白とはこのことを言うのだろう。

 まるで恐怖映像や幽霊を見たような目で俺を見ている。

 エヴィに至っては口を手でおさえて、悲鳴を上げないように押し殺しているみたいだ。


 なんだろうと近づこうとすると、身体が動かなかった。

 金縛りにあっているみたいだ。


 いや、違う。


 後ろから誰かに掴まれている?


「ご主人さまあ……ちゅき」


 ……え?

 誰この恍惚顔で足をがくがくさせながら悶えてる人? いや、色欲だ。

 え、なに? なんで俺の服引っ張ってるの?


「ど、どうしたの?」

「ずっとついていきます。これから、ずっとです」


 なんかキャラ変わってない?

 さっきまで後ろに下がっていてくださいとか言ってたよね?


 めちゃくちゃ俺の後ろいるよ? いやむしろ、ピタって感じ。


 いや、それより――。


「キャロル、エヴィ、落ち着いてくれ」

「さすがスロース様です。試験をクリアするだけでは飽き足らず、ついでに女性も、ということですか」

「認めません。私は認めませんわ。どきなさいそこの長身女、私のスロース様の服を掴むだなんて、百億万年早いですわよ」


 怒りを露わにする二人。

 エヴィは念動力を使いはじめたらしく、近くの小岩がふわっと湧き上がる。


 試験官に助けを求めようと思ったが、後ろからクリア者や失敗した生徒たちが戻ってきたらしく、対応に追われている。


「ちょっとどいてくれ、ラスト」

「……いい匂いですわ。これが、男の匂いなのですね」


 だめだこいつ早くなんとかしないと。



 次の瞬間、俺の身体がふわっと浮く。

 もちろん色欲もだ。


 それでも、俺の服は掴んでいる。


「どんなことが起きても、私は後ろにいます」

「お前は何を言っているんだ」


 色欲ってこんなキャラだったっけ……?


「空に浮いてもなお離れないなんて、今後未来永劫、何があっても私たちは一緒、という意味なのですか!?」


 エヴィも何を言っているのかわからない。ちなみにキャロルは涙を流している。


 情緒不安定すぎるだろこの人たち。


 最終的には四人で浮くことになり、周りから無重力ハーレム野郎と言うあだ名がついたのだった。


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