第18話 シナリオ崩壊

ダンジョンに入場してから数十分ほど経過しただろう。

 今は二層だ。幸いなことに死神骸骨デスサイズアンデットはあれから出現していない。


 しかしあの言葉が色欲の逆鱗に触れてしまったらしく、明らかに態度が違っていた。

 壁から現れた魚魔物フィッシュを倒しながら、振り返って俺を睨む。


「私がすべて倒します。あなたは後ろに下がっていてください」

「……今はそれでも大丈夫でも、もっと強い敵がきたら――」

「一度も負けたことなんてありません。安心してもらえますか? 後ろにいてください。それだけで合格できますから」


 絶対的な自信を持つのは原作と同じか。

 とはいえ、確かに間違っていない。実際に魔物の攻撃が掠る気配もないし、すべて一撃で倒している。

 死神骸骨デスサイズアンデットの攻撃も軽々と回避していた。


 ベリル兵士長と何度も訓練しているからこそわかる。彼女は、おそろしく強い。

 ただそれでも不安はぬぐえない。油断したときに牙を剥きだしにしてくるのが、【セブン・デットリー・シンズ】だからだ。

 

 とはいえ、ここで喧嘩するのは得策ではない。試験に合格した場合も学園では一緒になる。

 機嫌を損なうことによってシナリオが変な方向へ行くのは勘弁だ。


「わかった」

「分かればいいんです。わかれば」


 それから色欲と言葉を交わすことはなかった。

 二層、三層。沢山の魔物が現れたが、そのすべてを色欲が一撃で倒していく。


 強さの理由は『眼』だ。

 瞬間的に赤くなるのは見せかけではなく、敵を魅了する力を持つ。

 魔法にかかった対象は体が硬直し、ほんの少しだけ動けなくなる。


 その隙を見逃さず、一撃を与える。

 金縛りのような魔法だ。とはいえ、チートすぎるというわけじゃない。


 横で見ていて、素直に凄いと思っていた。

 原作では、ただ強いキャラクターで、我が強いとしか思っていなかった。

 でも気づいてしまった。

 洗練された動き。努力なしでは成し遂げられない強さを。


「私のおっぱいにそんな興味があるのですか?」


 ただ、性格があまりよろしくない。


 四層への階段を上がっている最中で、空気が変わった。


 通路ではなく、大きな扉が目の前にあったからだ。


 これにはさすがの色欲も一呼吸置く。

 次が最後、つまりダンジョンボスだとわかったのだろう。


「さて、行きましょう。先にお伝えしておきますが、くれぐれも邪魔はしないでください。私に任せてくれれば、すべてが終わりますから」


 それでもスタンスは変えないらしい。

 沈黙で答えて、扉に手を触れると、ゴゴゴと左右に開いていく。

 深呼吸して、足を踏み入れる。

 中はなにもなかった。まるで何かの実験室のような室内だ。

 

 奥には扉がある。あれが出口だ。

 しかしそこへ行くには、ボスを倒さなければならない。


 このあたりはいかにもゲームという感じだな。


 本来は巨大な魔物と戦うのだが、なぜか様子がおかしい。

 いつまでたっても魔物が現れないのだ。


 そのとき、突然、部屋の壁が黒くなっていく。

 そして壁から死神の鎌が視え始める。現れたのは死神骸骨デスサイズアンデットだ。

 一体、二体、三体と増え続けていく。


 さらに恐ろしかったのは、一層で見たときよりも鎌が大きかったことだ。

 つまり攻撃範囲が広いということ。

 掠ってしまえば、それで死亡おしまい


 それに気づいたのは色欲もだった。

 俺が伝えた言葉をちゃんと信用していたらしく、不安げな表情を浮かべている。

 

色欲ラスト、ここは力を合わせよう」

「……うるさい」

「見てわかるだろ。これじゃあ――」

「私一人で、何とかなるのよ!」


 吐き捨てるかのように叫んだ後、色欲が一人で突っ込んでいく。

 追いかけようとするも、数体の死神骸骨デスサイズアンデットが立ちふさがる。


「――私は、私は一人でやれる。誰の力も借りない。借りたくない」


 自分を鼓舞するかのように叫び、敵の中心に突っ込んで、敵をなぎ倒していく。

 見るのもおそろしいが、今は目の前に敵に集中しろ。


 ――命の刻印カウントダウンを付与。


 鎌の攻撃を回避して、魔法を付与した。

 数値は3000。耐久力はそんなにないみたいだ。

 

 一撃で真っ二つにすると、ゼロになり朽ち果てた。


 死神骸骨デスサイズアンデットの厄介なところは浮遊していることだ。

 飛行タイプの場合、前後左右だけでなく、上も見なければいけない。

 一人では限界があるだろう。


 色欲の元に駆けていると、まさに視覚外の空から鎌が迫ってきていた。

 彼女は、目の前の敵に精一杯で気づいていない。


「――色欲!」


 次の瞬間、俺は体を挟み込んで死神の鎌を受けた。

 しかし俺を攻撃した死神骸骨デスサイズアンデットは、笑みを浮かべながら朽ちていく。


 命の刻印カウントダウンを剣で付与し、そのまま魔核を心一突きしたのだ。

 ほんの少しでも遅かったなら俺が死んでいただろう。


 ギリギリだったが、なんとか助かった。


 そのまま色欲と背中を合わせて死角を減らす。


「なぜ……私を助けたのですか」

「合格のためだ。それ以上の理由はない」


 これは嘘じゃない。

 試験に落ちてしまうと学園に入学できない。

 シナリオが大きく変わるのは今後の未来予測ができなくなってしまう。

 できるだけ寄り添いつつ、安全策を取っていきたいからだ。


「……そうですか」


 そのまま50体ほど倒していると、次の魔物が出現していないことに気づく。

 暗闇から光が差し込み、扉が開く音がした。


 なんとかクリアしたのか。


 ベリル兵士長と訓練してなければ間違いなく死んでいた。


 帰ったら感謝しよう。お土産も買って帰ろう。


 さすがの色欲も体力の限界だったのか、言葉を発しない。


「行こう」


 強めに言葉を放ち、前を進む。


 すると色欲は俺の一方後ろで、初めて聞く声を上げた。


「はい。ご主人様、後ろからついていきます」


 

 ……今、なんて言った?


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