第7話 一人目、嫉妬

ベリル兵士長の後継者(仮)になってから数か月が経過した。


命の刻印カウントダウン

「――付与ができたとしても、ゼロにできなければ意味はありませんよ!」


 木剣で攻撃を何度も仕掛け、ほんの少し剣先が触れた瞬間、魔法を付与した。

 これは、手合わせの最中に気づいたことだ。


 案内人こっくりさんに聞いたら、そんなの当たり前じゃないですかと言われて、ちょっとむかついた。


「――ハァッ!」

「ふふふ、いい! いい! 凄くいい!!!!! 最高の太刀筋です!!!」


 俺が攻撃を仕掛けると、ベリル兵士長が嬉しそうに笑う。

 まさかおじさんの恍惚顔をこんなにも見ることになるとは思ってみなかった。


 でも、俺を気に入ってくれているらしく、朝、昼、夜と稽古をつけてくれる。

 

 ……ちょっと多いな?


 しかし気づいたことがある。


 それは――。


「いいっ! その一撃、ただの冒険者ならば死んでしまったでしょう!!!!」

「ハッ、よく言いますよ!」


 本気の戦いは、すこぶる楽しいってことだ。


 元の世界で剣なんて振ったことはなかったが、今では楽しさがよくわかる。

 できなかったことができていく。研鑽を重ねることで、より強い自分になっていってるのがわかる。


「スロース様、ファイトです!」


 後ろでは、ミニスカ警察ポリス風のコスプレをしたキャロルが応援してくれている。

 相変わらず時代に合わない服ばかり着ているが、誰もそれに対して不思議に思っていない。多分、ゲーム世界だからだ。

 後、どこで買ってるのか教えてほしい。


「余計なことを考えている暇はありませんよ」


 鋭いベリルの一撃。問答無用で俺の心臓を狙う突き。

 半身になって回避。


 カウンターで、ベリル兵士長の右肩を狙う。

 

 完全にヒットはしなかったが、ほんの少しだけかすって、6500から6300に減った。


 この数値は俺にしかわからないが、ゼロになると相手は魔力が使えなくなる。


 色々と調べた結果、大体半日程度は使えなくなるみたいだ。


 この世界で魔力は強さの動力源だ。


 攻撃力はもちろんのこと、防御力にも関係している。

 ゼロになるということは、戦場で一人だけ裸になり、おもちゃの剣を持つようなもの。


 開発陣からすれば怠惰で何もしないスロースなのだから、適当にチート能力を付与していたのだろう。

 しかし今は違う。こうやって体を動かし、努力することができる。


 何度か攻撃し、カウントがゼロになるまで手合わせをしてくれた。


「――魔力が使えなくなりましたね。続きは、明日の朝にしましょうか」

「……ふう」


 原作のベリル兵士長はスロースの悪事をばらし、主人公と主に壊滅に追いやる敵だった。

 でもそれは、もう起こらないような気がする。


 魔力がゼロにもなったにもかかわらず、ベリルは疲れてもなさそうだった。

 反対に俺は後ろに倒れるようにしゃがみ込んだ。


「スロース様、汗をお拭きいたします!」

「ありがとうキャロル」

「とんでもございません。これがコスプレメイドのお役目ですから!」


 そう言いながら、キャロルはタオルで俺の顔面をゴシゴシした。

 力が強い。一回で汗が取れるので! といつも気合十分だ。


 しかし絶妙な匙加減で口が切れたことはない。

 ちょっと痛いが。


 ベリル兵士長は、魔力がゼロになったので訓練所に戻って座学をすると言って、離れていった。

 文武両道ッ。

 聞けば屋敷の経理も担当しているという。


 ……何でもできる超人だな。


「スロース様、落ち着いたところでこちらを」

「ん、手紙? ――ぶ、舞踏会!?」


 拝啓スロースへ。

 父と母よりと書かれている。


 俺がスロースになってからというもの、実は一度も会った事がない。

 他国での赴任仕事があり、二人ともずっといない。


 剣に必死で忘れていた俺もどうかと思うが、手紙には舞踏会を楽しみにしていると書かれていた。


 ……え、踊ったことなんてないぞ。太鼓の●人で何とかなるか? いや、それは無理だろうな。


「これ、ヤダヤダ行かないっていったら、どうなる?」

「今年は学園の入学もあります。スロース様と同学年の方も多く来られると思いますし、ご両親様からのご紹介も決まっているでしょうから、それは……大変なことに」


 キャロルの言う通りか。貴族は面子が大事だ。後々面倒な事になるのは避けたい。

 何とかダンスの時間だけはこっそり離れたり、最悪の場合足をくじいたことにしよう。


 ……ん、何か忘れていたような。


 そうだ。


「キャロル、もしかしてだけど……カロライナ・・・・・家も来るかな?」

「来ると思います」


 その言葉に、俺は絶句した。

 最近すっかり忘れていたが、このゲームは【七つの大罪】をモチーフにしたゲームだ。

 その中の一人、嫉妬ヤンデレのエヴィ・カロライナ。

 彼女は気が強く、それでいて誰の事も信用していない。

 一方で、好意を抱いた瞬間、猟奇的なほど相手を心酔するという女性でもある。

 原作では、主人公が嫉妬ヤンデレを倒すルートと、惚れられてしまう二つのルートがある。

 味方になると頼もしさはあるのだが、色々と厄介な相手だ。

 確か家が近かったはずなので尋ねてみたが、まさかのビンゴ。


 俺はこのゲームの主人公じゃない。

 彼女にとって目の敵になる可能性が高いだろう。


 絶対に近づかないようにして、目も合わせないようにしよう。


 絶対、絶対に。


『こっくり的には会う気がします』


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