第6話 修行開始

 翌朝、目を覚ますと全身が筋肉痛だった。

 ダイエットでバキバキになったりしたが、随分と慣れてきていたのに。


 戦闘で普段は使わない筋肉を使ったのか。

 もしアルゼンチンバックブレーカーをしていたらと思うと恐ろしい。


 ……おっと、いつのまにかこっくりさんの影響を受けていたな。気を付けよう。


「スャスヤァニャア……スャスヤァニャア」

「…………」


 隣で、猫のような声が聞こえた。ちょっとめずらしい鳴き方だな。

 ふと横を見ると、猫耳をつけたキャロルがスヤスヤと眠っていた。


 ……え、いつのまに?


「起きなさい」


 声をかけても、キャロルは起きず。

 頬をぺちぺち。


「起きるんだ。キャロル」

「ふぇっ!? す、すみません!? スロース様より遅く起きてしまいました!?」

「論点はそこじゃない」


 なんでこんなコスプレ好きになったのか、いや俺のせいか。

 聞けば、起こしにきてくれたらしい。

 そこで俺がスヤスヤ眠っていたので、気づけば隣で寝てしまっていたという。


 ……全然繋がってないな。


「それで、どうしたんだ?」

「簡易訓練所のご用意が終わりましたので、そのご報告に来たんです」


 簡易訓練所とは、俺が身体を本格的に鍛えるために、中庭にスペースを作ってもらったのだ。

 これで、誰にも邪魔されずに剣や筋トレができる。


 昨日はまさかベリル兵士長と手合わせするとは思ってもみなかった。

 カウントもゼロにしてみたかったが、要領は掴めた。


 それに、思ってたよりも楽しかったな。



 着替えを済ませ、さっそく中庭に移動した。

 開けた場所が視界に入り、ふたたび気を引き締めたところで、奥に誰かが立っていた。


 ……ん、あれは……え? 気のせいだよな?


 近づいていくと、それは気のせいではなかった。


 顔に斜めの傷、身長も高く、ガタイのしっかりした男性が、仁王立ちで立っていた。


 明らかに俺を見ているし、何だったら嬉しそうに微笑んでいる。


 おかしいな。訓練所にいるはずじゃないのか。

 なぜ、なんでここにいるんだ。


 頼む、幻覚であってくれ。


 何だっけ、そうあの蜃気楼であってほしい。


 砂漠の途中で見つけたオアシス。近づくと消えるみたいな。

 そんな感じで頼む!


「遅かったですね。スロース様」


 はい残念。

 蜃気楼が喋る可能性もある? いやないな。


「ええと、なぜ……ここに」

「なぜ私が、ここにいるか、ということですか」


 会話が成立している。

 これはもう認めざるを得ない。ベリル兵士長は蜃気楼ではない。


「あなたを私の後継者として認めます」

「……え? 後継者?」


 鬼のベリル兵士長は、なぜか不敵な笑みを浮かべた。


「あの剣技、あの動き、そして魔法、私は勘違いしていました。虎視眈々と牙を磨かれていたんですね」

「こしたんたん?」

「安心してください。これからは私が! あなたを! 鍛えてあげますから!」


 何やらとんでもない勘違いをしているらしい。

 興奮気味で挙動がおかしい。強面おじさんが悶えている。


「キャ、キャロル、どういうことだ」

「わ、わかりません!? 一体何があったんでしょうか」


 そこでベリル兵士長が更に声を上げる。


「強くなりたい、そう思ってらっしゃるのでしょう」


 それは事実だった。

 何を誤解されているのかはわからないが、強くなるために身体を鍛えている。


 破滅回避のため。そしてこのゲームを楽しむためだ。


 ……これは、好都合かもしれないな。


「鍛えてくれる、ということですか?」

「左様です。私が、あなたを、この世界で最も強い男にしてあげますよ」


 いやそこまでは思ってない。

 ほどほどには強くしてほしいが。


 とはいえ、頑張ってみようか。


「でしたら、お願いします」

「ではまず10時間の実践模擬戦からです! さあ、私と一緒に未来を掴みましょう!」


 やっぱり辞める。


 ◇


 初めてスロースを見たときは、とんでもない怠惰で、傲慢で、憎たらしい子供ガキだった。


 治安を守るからとエンヴィルドに頼まれ、昔馴染みだったこともあって了承した。

 もし俺が屋敷での勤務なら、とっくのとうに辞めていただろう。


 そんなある日、スロースが努力し始めたと聞いた。

 何の冗談かと思い屋敷へ足を運ぶと、だらしない身体のまま、人目もはばからず汗を流していた。


 使用人たちから笑われるかもれないのに。


 人は変われない。それが俺の持論だ。



 でも違う。スロースは、変わろうとしていた。


 手合わせで正直度肝を抜かれた。

 類まれな才能ってのは、このことをいうんだと高揚した。


 こいつは原石だ。まだまだ磨かなきゃいけない。

 でも、いずれは俺をも超える素質を持っている。


 その上で、なんと俺の魔力を使えなくする魔法を付与していた。


 ハッ、とんでもねえ。


 キャロルは、スロースが変わろうとしていることに気づいたらしい。

 

 まるで母親みたいな目で、スロースを支えている。


 周りの奴らはまだ気づいていないみたいだ。以前の、怠惰な、酒池肉林ソングが好きな子供だと思っている。


「ベリル兵士長」

「もう終わりでしょうか?」

「いえ、まだやれます。もう少し、詳しく教えてもらえませんか?」


 さらには敬語まで使うようになりやがった。俺が、師匠だからだと。


 ハッ、いい根性だ。


 いいだろう。

 俺の残りの人生を、スロースに賭けてやる。


 こいつを、最凶・・に育てあげてやろう。


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