第4話 作中最強?

屋敷から少し離れた場所に、私兵の宿舎がある。

 彼らの仕事は、領地に侵入した魔物を退治したり、危機を未然に防ぐことだ。


 そこで俺は命の刻印カウントダウンを試そうと思っている。

 実践を積んだ彼らならば、能力を試すことも理解してくれるだろう。


 ただ――。


「キャロル、兵士長は……いないんだよな?」

「確認致しましたが、ベリル兵士長は王都に職務でお出かけしております」

「そうか。なら大丈夫か」

「ご心配されていますね。今のスロース様なら認めてくださいますよ!」


 ダイエットを成功させた俺の姿は、確かに以前とはほど遠い見た目をしている。

 普通なら凄いと思うだろう。

 しかしそれでも、ベリル兵士長が認めてくれることはない。

 

 なぜなら彼は、原作で凄まじいほどの正義感を持つ男なのだ。

 ゲームというものは、様々なキャラクターで成り立っている。

 

 主人公、ヒロイン、ライバル、それを支える沢山の登場人物。

 

 その中でも、ベリルは原作でも重要なキャラクターだ。

 

 なぜなら主人公と共に、スロースの悪行を暴き、すべてぶっ潰すからだ。


 しかし当然、プレイヤーたちには大人気なキャラクターでもある。

 強面で言葉数が少なく、厳しい男だが、真面目な部分が凄くカッコイイ。


 だからこそ、今の俺にとっては危険極まりない。


 突然ダイエットに目覚めた怠惰な俺が、普段は訪れない訓練所で「能力試させて―」なんていったら、ボッコボコにされるだろう。

 過去の記憶が正しければ「ベリル、お前は俺の部下だ。黙って仕事をしろ」なんて言った気もする。


 なので、絶対会わないようにしよう。


 そんなこんなで、訓練所に到着した。

 兵士たちが俺の姿に気づく。


「……誰だあの人?」

「さあ、見たことあるような……顔だな」

「……もしかして、スロース……様じゃないか?」

「「「えええっ!?」」」


 そうか、そんな変わったのか。

 嬉しい反面、注目されすぎて少し不安だったが、キャロルが大丈夫ですよと言ってくれた。


 兵士の一人に声をかけ、魔法を試したいと伝えた。

 しかし、彼らは怯えて震える。


「か、勘弁してもらえませんか」

「ぼ、ぼっちゃんに怪我なんてさせられないっスよ……」


 俺……マジでやりすぎだろ。

 屈強な男たちでもやっぱり嫌なのか。

 キャロルがお手伝いしますよと言ってくれたとき、後ろから俺の名を呼ぶ声が聞こえた。


「どうしてスロース様がここに?」


 振り返り、言葉を失った。

 

 顔に斜めの傷、身長が高く。ガタイのしっかりした男性が立っている。

 若くはないが、それを感じさせないほどの威圧感。


 ――ベリル兵士長だ。


「……スロース様が訓練を行いたいと」

「そうか。なら私とどうでしょうか」


 なにこの考えうる最悪なパターン。

 そもそも今日いないって話だよね!? ねえ、キャロル!?


「今日は王都へ行っていたのではないですか? ベリルさん」

「用事が済んだので早々に帰ってきたんだ」


 丁寧な答え合わせ。

 しかしそれは、俺の死亡をも意味していた。

 もしかしてこれ強制的な運命で、何をしてもバットエンドみたいな感じになるの……?


 木剣を手渡されて、思わず受け取る。


「さて、やりましょうか?」


 ベリル兵士長が眉も動かさず冷静に言う。

 しかしキャロルが前に出てくれた。


「スロース様、すみません急用があったのを忘れていましたね!?」


 俺を庇ってくれているのか。でも……。


「キャロル、ありがとう。でも、どうせなら試してみるよ」

「……良いのですか?」

「任せてくれ」


 この世界で生き残るには強くならなきゃいけない。

 後回しにしたって一緒だ。


 俺はこのゲームを死ぬほどやった。

 実際に身体を動かすのとは違うだろうが、自分がプレイヤーだと思えばワクワクもしてくる。


「いつでもいいですよ」


 しかし実際のベリル兵士長を前にすると、怖すぎるが。


「――ハァッァツ!」


 それでも、俺は勇気を振り絞って駆けた。

 驚いたのは身体が軽かったことだ。当たり前だが、ぶくぶく太っていた今とは違う。


 しかし当然というべきか、戦い方も知らない剣が当たるわけもない。

 無様に回避されて、地面に倒れこんでしまう。


「くう……」

「これで終わりですか。スロース様」


 ベリル兵士長は剣を叩きこむことなく、なんと手を差し伸べてくれた。

 いや、ある意味ではバカにされているともいえる。

 本当は正攻法で魔法を付与したかったが、なりふり構まってはいられない。


 ――『命の刻印カウントダウン


 静かに魔法を詠唱すると、ベリル兵士長の頭部に6500と表示された。

 驚いたのは、キャロルとそう変わらなかったことだ。

 もしかして……そんな強くないのか?


「まだ、これからだ」

「良い心がけです」


 それから俺は攻撃を何度も振った。

 周りから少し苦笑の声が聞こえても、それでも一生懸命に。


 理由は、たった一つ。


 ――楽しかったのだ。


 大好きなゲームで、あのベリルと剣を交えている。

 その事実が俺を興奮させた。


「……良い太刀筋ですね」


 そのとき、ベリルがボソリと言った。

 驚きのあまり、身体が少しだけ軽く動いた。そしてなんと、右肩にヒットしたのだ。


 直後、数値が変化していく。


 ――6500⇒6000。


 なるほど、こういう事だったのか。

 これは、とんでもない能力だ。


『アルゼンチンバックブリーカーなら、おそらく3000は堅いです』


 こっくりさんの補足にも耳を傾けず、俺は何度も攻撃を振り、驚いたことに何度もヒットした。

 ベリル兵士長の攻撃も受け流すことができるようになり、残り500のところで、兵士の一人が声を上げた。


「そろそろ時間です。あまり遅くなっては……ベリル兵士長」

「……だな。――スロース様、いつのまにか随分と腕を磨かれたようで」


 思わぬ誉め言葉に、裏をすぐ感じ取る。

 指導してくれていたのだろう。でなければ、こんなに戦えたわけがない。


「ありがとうベリル兵士長。それでは」


 最後に攻撃決まっていたらどうなっていたのか……気になるな。


「スロース様、凄まじい動きでした! いつのまに訓練してたんですか!?」

「ありがとうキャロル、褒めても何も出ないよ」


 ◇


 スロースとキャロルが訓練所を離れた後、は先ほどの戦いを思い出す。


 ……こんな逸材を見逃していたとは。


 凄まじい剣技だった。荒削りでまだまだ隙だらけとはいえ、スロース様には類まれな才能がある。

 おそらく天性のものだ。天才とは、まさにあのことを言うのか。


 鍛えたい、鍛えたい、鍛えたい、鍛えたい。


 ――あの天才を鍛えたい。


 ああ、涎が出そうだ。


 初めて会ったときのスロース様は、ただの怠惰な子供だった。


 なのになんだ、あの原石は。


 ――勃起しそうだ。


 ……しかし、最後は驚いたな。

 油断していて、肋骨にヒビが入った。

 ズシっとした痛み。その瞬間、突然体から魔力が消えた。


 ……どういうことだ>


 何かボソリと言っていたが、まさか魔力を使えなくするなんて――ハッ、最高だ!!!!

  

 スロースは、私のものだ!!!!!


 ――――――――――――――――

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