第2話 地中海育ちの大胆美少女
私立である
元々は女子だけの高校だったが、共学になったのを機に学園高等学校になった。名残と言えば女子の方がやや多いくらいだが、芸術表現科のせいもある。
最初芸能系かと思って気楽に選んでみたものの、普通教科はきちんと組み込まれている。それ以外で面白そうなのは、言葉の学びとか身体の表現力とか、映像や舞台など芸能に近そうな専門的なことを学べる科目が含まれていたり。
そんな俺は成績もルックスも中の中。可もなく不可もなくといった感じで、卒業まで誰からも気にされない奴――になる予定だった。
だが、女性担任の
「よぉし、次の日直当番を
日直当番は基本的に男女二人一組で週番。女子の方が多いので女子同士になったり男子同士になることもあるが、御木先生は公平に決めたいらしい。
「いや、厳しいっす。そこまで自主的になれないので諦めてください!」
「何だつまらん。あっさり決めてくれたら先生の手料理を一食分味わわせてやろうと思ったのに……誰か気になる女子はいないのか?」
「いたらいたで問題でしょ」
「町浜と組ませる女子、ほぼ嫁の洲崎でよくないですか~?」
「それな」
「賛成!」
……などと、一年から同じクラスだった奴らが茶化すのだが、それは同じクラスに幼馴染の
あやとは先々週に一緒になっているだけに全力でお断りさせてもらう。
一応あいつの意思も尊重させようと気にして見てみるが、向こうもお断りの舌出しをしているので今回は気が向かないといったところだろう。
「あっ! そ、そういえば……!!」
若干騒がしくなってきたところで、突然御木先生が思い出したかのような声を上げ、慌てて教室の扉を開けて廊下に顔だけ出している。
「な、なんだ?」
「御木先生のご乱心か?」
(ユニークな担任には違いないが発狂はしてないだろ……)
一年時と同じ担任だからか男子は若干失礼な奴が多い。
顔だけ出している御木先生の様子を見る限りどうやら廊下に待たせていた誰かと話をしているっぽいが、その話の内容までは聞こえてこない。
この隙に教室内はざわざわと話をしだしたり、スマホいじりをする奴が続出している。
「蓮。聞いた?」
「お前に彼女が出来た話か?」
「悲しいけど彼女なんて出来っこないよ……」
いったい何を聞いたんだ?
「えっと、実は……」
「実は?」
「ええと、言っていいのかちょっと判断が難しい……」
言いづらそうにしているなら聞かなきゃいいのに。まごまごしているこいつは、幼馴染ではないが、ガキの頃によく遊んでいた陸という男子だ。
「ご、ごめん、また後で」
「何だよ、全く……って、ん?」
無駄話をしていると、いつの間にか教室が静まり返っていた。
どうやら戻ってきた御木先生の隣に立つ女子に皆が注目をしているらしい。
――って、昨日の謎多き美少女!?
「あ~先生の手違いで彼女を待たせてしまっていたが、今から編入生を紹介する!」
編入生だったのか。
昨日の今日で再会するなんて、奇遇で片付くとは思えないな。
気を遣う御木先生に微笑む彼女が俺たちに向かっても笑顔を向けている。その笑顔に早くも男子たちが色めきだっているが、俺は冷静に彼女の発言に注目をしていた。
昨日のあの話し方だとイメージがまるで変わるはずだからだ。
「……わたくしは地中海のシチリアで育ったのち、再びここに戻ってきた! わたくしの名は
彼女の自己紹介はまるで舞台を見ているかのようだった。
俺の時とは口調が少しだけ違ったが、気品溢れる迫力に加えハスキーボイスなせいか教室中が一気に緊張した空間となってしまった。
昨日と違って瞳の色は黒く、長い髪も七色ではなく黒に見えるが戻してきたんだろうか。
それにしてもヴェスタ以外に名前があったんだな。というより、普通に日本の名前じゃないか。
紹介だけでこんなにも全員が一斉に呼吸を忘れずに息を呑むことなんて、今まであっただろうか?
いや、ないよな。
「……というわけで、早速で悪いが町浜!」
「へ?」
「編入生と組んで週番を頼む! 色々教えながら慣れさせてくれ!」
「えっ、何で俺!?」
俺の意思とは関係なく、御木先生は編入生であるヴェスタに俺がいるところを指差しをして俺の元に来させようとしている。
「そういうわけだから、あとよろしく!!」
そう言って御木先生は慌てて教室から出て行ってしまった。
……冗談だろ?
ここは急いで寝たふりを決行だ。
だが、分からないように机に突っ伏して顔を隠していた俺の前に、彼女がたどり着いてしまった。
「君! 君がわたくしを導いてくれる男子だな? 顔を上げてくれないか?」
「…………」
「むぅ……誰か彼を起こしてくれないか?」
意地でも顔を見せずに過ごそうとしたが、周りの奴らが手助けをしているのか無理やり顔を上げさせられた。
諦めて俺の目の前に立つ彼女を見上げるが。
「レン!! レンじゃないか! そうか、ここでわたくしとの再会を待っていたのだな! 嬉しいぞ、レン!」
「――っ!?」
何が起こったのか分からないまま、俺は謎の美少女に抱擁されていた。
「ストップだ、ヴェスタ! まずは落ち着け」
まずは離れてもらおう。そうじゃないと仲が良かった奴らがみんな敵になる。
「ふふ、すまないな。わたくしとしたことがこんなにも興奮するとは思わなんだ」
スッと俺から離れたかと思えば、彼女は屈託のない笑顔で堂々とした態度を俺に向け――
「――此度、シチリアの地より故郷である日本に舞い戻ってきた。どうか、先入観なくわたくしとの勝負に付き合って欲しい!」
……と、足を広げ腰に手を当てた力強い立ち姿で俺に告白のようなものを言ってきた。
地中海育ちのヴェスタか。こんな威風堂々とした彼女に俺は何の勝負を預けてしまったんだろうか。
あまりの展開の速さに唖然としていると、彼女は周りの皆に向けて――
「――ここにいるレンは、わたくしの良き
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