第18話
「教えてあげる」
コラレは夢を見た。
もうずっと見ていなかった、久しぶりの夢。だけどそれはあまりいいものではなかった。
夢とは言っても、それは過去の映像の再生だった。
コラレが泡の魔女と契約を結び、陸地に上がろうと沈んでいた体が上へと登っていく瞬間。
泡の魔女が、コラレに【死に方】を教えている場面だった。
「簡単なことよ。貴女が誰かに愛されればいいの」
(……それは、無理なことじゃない)
「えぇそうね。私の契約で貴女は誰かを愛せない。だから一方的な愛情を貴女は受けるの」
登る体を後ろから抱き寄せ、魔女はコラレの耳元で不敵な笑みを浮かべながら囁いた。
「人間の姿でも、人魚の姿でも、貴女を狂おしいほどに愛してくれる とまぐわう事で、貴女は死ぬことを許されるの」
(……そんなの無理よ)
「さぁ、どうかしら。人間は色々なものがいるから、もしかしたらいるかもしれないわよ」
楽しそうに笑いながら、魔女はコラレの背を押して地上への後押しをした。
魔女の告げた死に方。そんな相手が現れるまで、コラレはずっと死ねずに生き続けることになる。
死ぬには人と関わりを持たないといけない。でも、人間としても人魚としても自分を受け入れ、その上コラレ自身から愛されなくてもただ一方的に愛情を注いでくれる相手。そんな人間が都合良く現れるはずもない。
コラレは自分は死ねずに永遠を生きることを覚悟した。覚悟を決めて、長い間生き続けた。生き続けて、生き続けて、そして……
「…………」
そこで、コラレは目を覚ました。目の前には気持ち良さそうに眠っているシュテルンの姿があった。
昨晩のことを思い出す。全てを知ってもなお、彼女はコラレを愛し、そして愛されないことをわかった上で、コラレからの愛情を必死に求めていた。
そっと、隣で眠る彼女の頬に触れた。コラレにとってシュテルンは特別だった。だけど、愛することができない彼女にとって、きっとその特別は愛ではない。別の何かだった。
「んっ、コラ、レ……」
起きてしまったか、と思ったがすぐにシュテルンはまた寝息を立てて眠った。
コラレはまた彼女の寝顔を見つめた。
昨夜とは別人のようで、思わず笑みがこぼれてしまう。
パクパクと口を動かし、眠っているシュテルンにコラレは聞こえない言葉を届ける。
ーー 貴女でなければよかったのに
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