十九、秋桜


 我らの生活もようやく慣れ、修氏とともにデイサービスの仕事もこなしている。


 もちろん小夜とともにである。


 女房が小夜の取り分について協議してくれた結果、小夜は一日カリカリ一袋の報酬で落ち着いた。

 これで我らは自ら稼ぐ猫になった。

 

 今日はおしんさんが来る予定だ。

 小夜もそのことを知ってか、うれしそうだ。


 しかし小夜にとってはわが身の振り方を決める大事な日である。


「おしんさん、どうですか体調は。

 すっかり元気になりましたか?」


「はい、おかげさまで。

 あの日は本当にお世話になりました。

 まさかあのようなことになるとは、つゆほども思いませんでした。

 あの日は夢うつつの中で、お釈迦様の姿を拝見しましたよ。」


 冗談交じりに言うおしんさんに寄り添うように、小夜が隣に座っていた。


「それでは小夜ちゃんは、今日から家に返しますか?」

 

 おしんさんは小夜を膝に抱いて、


「いえ、小夜は誰かに引き取ってもらうつもりでした。

 私もこの年ですので小夜の寿命を考えると、最期まであの子の面倒をみられませんので、もう一緒には暮らせません。

 お互いにつらい思いをしますから。」


 と、小夜の背中を撫でながら、ため息をついた。


「デイサービスでこの仔たちに会えるのなら、それで充分です。

 どうか猫君様、あの子をもらってやってください。」


 我にはわかっていたが、修氏には初めて我と会話するおしんさんを見て、とても驚いていた。


 周りとかかわりを持たず距離を開け、独り言を言い、どのようにかかわってよいかわからずにいたこの人と、猫が普通に会話をしているように見えた。


「おしんさん、猫君様にも飼い主がいますので、その方とも相談が必要ですし、今日のところは私が連れて帰りますけど、今後のことを考えておいてください。」


「あ~、どうしようか。

 さおちゃんとお義母様には了解は取れているけど、僕は飼い猫付きでお婿に行くのか。大丈夫かなぁ。」



 夕方、いつものようにさおちゃんを迎えに行く。

 猫君様と小夜は、とても仲が良くて、いつも何をするにも一緒にいて同じことをしている。

 本当に、この仔たちを見ていると羨ましくなってしまう。


「さおちゃん、お帰り」


「あら、今日もこの仔たち、一緒なのね。」


「キミ、小夜ちゃん、ただいま!」


 と、明るく挨拶をしている。


「実はさ、小夜ちゃんのことで相談があって。

 小夜ちゃんの飼い主のおばあさんが退院して、今日からデイサービスに来られるようになったのだけど。」


「うん、よかったじゃない、それで?」


「小夜ちゃんをうちで面倒見てもらえないかって。」


「まぁ、私もそうなったほうがいいかなって思っていたけど、母さんにも話をしてみようか。」


「そうだね、一緒に話をしよう。」


「さて猫のキミは、どうしたいのかな?」


 とキミのほうを見て、


「あ、聞かなくてもわかるか。」


 といい、にっこりと笑った。


 もう、修君てばすごく真剣な顔をして言うから、何事かと思ったじゃない。

 でもそうよね、猫付きでお婿なんて、気にしちゃうよね。


「ただいま、母さん。少し相談があるのだけど。」


「お帰り、ついに結婚の相談かしら?」


 私は小さく首を振り、


「修君も一緒に話がしたいの。

 キミと小夜ちゃんも。」


「あら、一家そろって何事かしら。」


 母さんにはだいたいの事情はわかっているのだろうな。


「あのね、小夜ちゃんのおばあちゃんが……。」


 と言いかけると、


「そういうことは出しゃばっちゃダメなのよ、修ちゃんから話を聞きたいわ。」


「そうね、婿殿からどうぞ。」


 そう言って修君に話をするように促した。


「今日から小夜のおばあちゃんが、デイサービスに通えるようになって、久しぶりにこの仔たちも再会できたんです。

 それで……おしんさんから、小夜をうちで飼ってもらえないかって相談がありました。」


「それで、修ちゃんはどうしたいの?」


「僕はこのままみんなで暮らしていきたいと思っています。

 だから、小夜をうちで面倒をみようかと思っています。」


「修ちゃん、この仔たちは自分でご飯を稼いでいるでしょ、それなら問題はないのよ。

 この家に猫の仔が増えようが、お婿さんが一人増えようが……まったく問題ないのよ。」

 

 私も修君もほっとして胸をなでおろした。


「ここで一緒に暮らす家族なのよ、私たちは。

 自分がどうしたいか遠慮して言えないのは、家族とは言えないわね。

 まだその覚悟がないのかしら。」


「いえ、そんなことはありません。

 僕はこのままお義母様も一緒に楽しく暮らしたいと願っています。」


「ねぇキミ、小夜ちゃんはあなたのお嫁さんになるのだから、しっかり面倒を見るのよ。」

 

 母さんはキミにも一言申したかったみたいだね。

 でも、キミにはもうその覚悟ができていたみたいだよ。

 すごく立派に見える。


「高齢者とペットの問題は、ずっと言われてきているんだ。

 おしんさんも最初からそのつもりだったんだよね。」


「自分の寿命とペットの余生を考えると、引き取り手がいないのは、とても心配なことなのね。

 命と向き合うのは、それなりの覚悟がいるのよね。」

 

 私はしみじみと思った。

 仔猫のころからキミとは付き合っているけど、もしも私と別れたら、君はどうするのだろうか。

 ここで母さんと修君と一緒に暮らし続けているのだろうか。


 修君が無邪気に言った。


「やっぱり、家族って……いいものだね。」



 修氏よ、わかっているであろうか。

 今や家人の誰もが修氏が好きなのだ。

 

 愛とは広がりを見せるのである。

 親愛の情は守るべき家族にこそ、向けられるのである。

 

 我にも家人はいたが、それは血縁を超えた信頼によって支えられていたのだなと、しみじみ思った。

  

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