第三話 休講 と 空き時間
ある日の空き時間、というよりもともと長い空き時間があるのだけど、順を追って説明しようか。
今日は木曜日で、私が履修しているのは一限目、二限目、で長い空きがあってからの五限目。それが、一限目は普通に講義があったから大学に来たんだけど、一限目の講義の途中に教務のほうから二限目は教員の用事により休校という連絡が入った。そのため、三時間五十分あった空き時間に加え、さらに九十分も長い空き時間となった。
一時帰宅することも考えたが、四時ごろには講義を受けるために大学へ来なければならないことを考えると億劫になり、講義を受けている最中だろうと関係なくシオンにメッセージを送った。
『シオン、二限目休講になった』
『え、いいなぁ。なら、いったん帰んの?』
『いや、帰ろうかなって思ったけど、五限の時間にまた来るのもなぁって思ってるとこ』
『それもそっか。あ、今日二限目が実習だから終わった人から昼休憩入れるし、なるべく早く済ませるから、昼食食べたら五限目始まるまで考古学で出されたレポートやろう』
『了解。じゃあ、二限目終わったら図書館来て。暇つぶしてるから』
『はいよ』
シオンとのチャットを終え、前を向くと思ったよりも講義が進んでいたため、慌ててノートを取り始める。今受けている講義の担当教員は講義中の内職や睡眠、など講義に集中していない学生を見つけると、その学生に対して当たりが強くなるというと少し言葉が違う気もするけれど、とにかく学生からは嫌われやすい。それでも、集中して真面目に講義を受けている学生からしてみれば、わかりやすい講義をする教員という印象が強いのも確かである。しかし、私は今回ほかごとをしていたにもかかわらず、見つかってはいないようで、目を付けられることもなく講義を終えた。そして、時間をつぶすため図書館へ向かう。
図書館では、空いてる席で暇をつぶしているのでは昼食に席を立ってしまった時点で、戻ってきてからの場所の確保が難しいことを知っていた。そのため、私は、図書館に入るとまず貸し出しなどを行うカウンターへ行き、図書館にいるスタッフさんへ声をかけた。
「すみません。本日、自習室の空きはありますか?」
「少々、お待ちください」
私が声を掛けたスタッフさんは、パソコンで空き状況を調べてくれた。
「お待たせしました。二~五人用の部屋が空いていますが、ご使用になられますか?」
二〜五人用ならちょうどいいと思った私は、使用する旨をスタッフさんへ伝えた。
「はい、お願いします。あの、あとから一人合流して二人で使いたいのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。それでは、こちらの用紙に使用する人数を書く欄がありますので、そちらに2とご記入いただき、そのほかの欄もお願いします」
渡された用紙に、使用人数、使用予定時間、使用目的、代表者の学籍番号と氏名を記入する欄があった。図書館の自習室を初めて利用させていただくため、この使用目的とはどのように書けばよいのかわからず、ペンが止まった。
「あ、そこの使用目的の欄は……。グループレポートを書くために利用される場合であればレポート作成、レポートを書くために映像鑑賞などをされる場合は映像鑑賞など、ざっくりでいいですよ」
スタッフさんに記入の仕方を聞きながら記入事項を埋めた。
「書けました。これで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。では、こちらに使用する際の注意事項が書いてありますので、必ず読んでください。あとから来る方にも必ずよんでもらってくださいね。それから、こちらが二〇五自習室の鍵になります。鍵は使用時間内であっても、図書館の外へ出られるときはこちらでお預かりしますので、受付まで戻してください」
「はい、わかりました」
「自習室は二階です。レポート、頑張ってください」
「ありがとうございます」
自習室は二階へ上がり、二〇五と書かれた扉の中へ入る。二~五人用って聞いたからもっと狭いと思ってたが、七、八人くらいは入れるんじゃって思うくらいには広かった。どこに座るか少し悩みながら、窓側のほうの席へ座り、さっき渡された注意書きを読むことに。
自習室使用に関する注意
一.防音ではないため、騒がない
※近隣の方とのトラブルの責任は負いかねます
二.飲食禁止
※脱水を防ぐため、水分補給のためペットボトル水は可。
・・・e.t.c
注意書きを読み終えると、シオンからメッセージが入った。
『終わった。どこ行けばいい?』
『おつかれ~、ほんとに早かったね』
『頑張ったよ笑』
『あ、場所はね。図書館二階の二〇五自習室』
『OK.』
やり取りをしながら廊下に出て待っていると、シオンも階段を上がってくるのが見え、声を掛ける。
自習室に置いておいてもいい荷物を置いて、鍵を図書指導員さんへ預かってもらって早めの昼食を取った。
自習室へ戻った私たちは、一緒に履修している自由科目の考古学から出ているレポートに取り掛かった。このレポートの提出は今年の年末、いわゆる冬期休暇前とプリントには記されていた。どうやら考古学という科目は前期と後期、どちらも履修して初めて単位をいただけるものだった。その分、レポート点数が大幅に単位取得にかかわっているため、一レポート三人まで協力して書き上げることが可能という旨もプリントに書いてあったため、私たちは一緒に取り組むことにした。
しかし、入学から早3か月が経とうとしているが、いまだにレポートは真っ白。なにひとつ進んでいない状況であるため、とりあえず自分たちが選んだ、ペルーのインカ帝国時代以前の建築物について何かしらの文献がないか調べることにした。
文献図書はいくつかあったものの、私たちが知りたいことについて書かれているのは非常に少ないよう感じた。
「どうする? これだけでレポート書いても内容ペラペラな感じするんだけど」
「だよねー。現地に行けたりしないかなぁ」
「現地かぁ。あ、シオン! ここ見て」
考古学の最初の講義で渡されたプリントを見せる。私が差し占める部分には、考古学調査、各定員一〇名、期間は夏季休暇、〆切六月末と書かれていた。まだ空きがあるか確認するため、教授へ聞きに行くことになった。
図書館を出て教授の研究室がある棟を目指していると、運良く渡り廊下で教授を見かけた。
「谷城教授、お時間よろしいでしょうか?」
「あぁ、木崎さん。どうしたかな?」
「あの、私たちペルーの考古学調査に参加したいのですが、まだ空いてますか?」
「ペルーだね。お、ちょうど二枠空いているね。ただ、面談を受けてもらう必要があるのだけれど、今日の五限目の講義が終わった後、時間あるかい?」
私たちは一度、顔を見合わせてから、それぞれ返答した。
「大丈夫です」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、放課後、よろしくね」
そういうと、教授は研究室のある棟へと歩いて行った。
私たちの予定も済んだため、図書館へ戻って、少ないなりにも見つかった文献をまとめておこうということになった。
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