第二話 日常 と 違和感

 不思議な出会いの翌日。時刻は七時ちょうど。今日はアラームよりも早く目が覚めたらしい。


 昨日の出来事を思い返しながらも、遅刻を免れるギリギリではないことに安堵したが、アラームより早くといっても三十分のこと。あまりのんびりしている時間はない。


 キッチンへ移動すると、朝食用にと買ってあるクロワッサンを行儀は悪いが食べカスの処理が面倒だからという理由でキッチンシンクを受け皿にして立ったままの状態で一口かじる。母さんがいたらすごく怒られるだろうな、なんて思いながら食べ終えると、シンクの上で手を払った。


 朝、起きるよりも早い時間に終わるようにタイマーセットをしていた洗濯機から洗い終わっている洗濯物を取り出してベランダへ干す。そしてテレビから流れる天気を確認する。


 部屋に戻ると、昨日は疎かにした身だしなみを含む身支度を終え、家を出る。

 大学へ向かう電車内で学友のシオンを見かけたが、満員で移動が困難であったため降りてから声を掛ける。


「シオン、おはよ」


「あ、アキおはよ。昨日見かけなかったけど、なんかあった?」


 そうだろうね、その問いかけはされると思ってた。


 いつもはお互いの最寄が一緒で、私のほうが先に駅のホームにいるのに、昨日はその時間まだ家だった。


「寝坊した」


「寝坊とかめずらしい。でも、今日は寝坊しなかったんだ」


「昨日はたまたまだっただけ、寝坊とか久々」


 なんて、話しながら大学の正門を通り、私は建築学科、シオンは情報デザイン学科のため「じゃあ、お昼に」とそれぞれの学科棟へ向かった。


 学科棟へ入ると講師に呼び止められ、レポート課題について少し話をして講義室に入る。


 講義開始十分前に着席をし、昨日の出来事を思うと普段通りの日常へ戻った感覚に浸っていると教員が教壇に立っていた。


 一限目の講義科目を担当する教員は、講義開始時に履修登録学生一人ひとりへ出欠用紙を配る。そこに学籍番号と名前を書かせて、講義終了時に提出する形式をとっている。今日は私の座った列だけ出欠用紙をはじめ、講義に使用するプリントが一枚足りないということが多かった。用紙の数え間違えなんてのは誰にでもよくあることで、しいて言うならば、私よりも後ろに座っている学生が教員に対して「一枚足りません」という声が上がるだけだ。講義が止まるのはほんのわずかの時間。そのため、気にするの学生はいないが教員は少し不思議そうにしていた。しかし、それ以外に何かが起きるわけでもなく講義は終わった。


 二限目の講義科目を担当する教授は、講義終了時に出欠確認を口頭で行う形式をとっている。いわゆる名前を呼ばれたら返事ってやつ。なんとなく感じていた、呼ばれないような雰囲気、見事的中……。私の名前は、呼ばれることはなかった。これも私に限らずよくあることだと、講義後に教壇へ行き呼ばれなかったが出席していた旨を伝え、講義室を後にした。


 それからは、今期は週十三講義を受けているが、約1か月のうち、半分くらいの講義(口頭による出欠確認形式)で出席しているにも関わらず欠席扱いを受けそうになることが多いように感じていた。


 学科は違うがいつも昼食を一緒に取るシオンへ相談というか、話してみたところで、笑いながら返されるだけだった。


「はは、気のせいだって? 本当にそうだったとしても履修名簿のアキの位置が先生にとっては見落としやすいだけなんじゃないの? (笑)」


 だから、それ以降の講義では、また飛ばしたよこの講師っと気楽に思うことにした。

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