第2話 妹と自分を大事に
「はぁ、はぁっ……!!」
普段運動してないからか、通学路を走るだけで息があがる。
理央の身体と前世の身体能力に殆ど差はないらしい。
転生したんだから少しはオマケしてくれよ。
「これは……友梨奈の靴?」
走ること数十分。
道の隅の方に友梨奈の靴らしきものが落ちていた。
何でこんな所に?
ハンカチとか落としやすい物ならまだしも、靴なんて常に履いているものを落とすなんて。
「まさか……」
最悪の未来が見えてしまった。
俺は心を落ち着かせながら周りを見渡す。
友梨奈がいそうな場所。
友梨奈が連れ去られたであろう場所。
車を使われていたら最悪だが、近くにいる可能性だってある。
絶対に違和感があるはずだ。
そう信じながら探し続ける。
「ーーーっーーーぁーーー」
「っ!! 今の声は!!」
微かに聞こえた女性の声。
俺はその声を辿って再び走り出す。
そして、
「いやっ……いやぁ……!!」
「やっぱいい身体してんなぁ……へへへ」
「っ!!」
向かった細い路地裏で目にしたのは、太ったオッサンに襲われている友梨奈の姿だった。
「てめぇっ!!」
「ガハッ!?」
考えるよりも先に俺はオッサンを蹴り飛ばす。
嫌な予感が当たってしまった。
友梨奈の様子を見るに多少服を脱がされただけでまだ事には及んでいない。
無理やり犯されるという最悪のトラウマは回避できたか……?
「お……兄様……」
「友梨奈!! 大丈夫か、お兄ちゃんが来たぞ!!」
すぐさま友梨奈の方へ駆け寄り、自分の方へ抱き寄せる。
かなり震えている。
立つのは少し時間がかかるか。
ここは友梨奈を抱えながら少しずつ移動を、
「何しやがんだオォイ!!」
「がっ!?」
しようと考えていた時、突然頭に強い衝撃を受けた。
「せっかく美人相手に気持ちよくなろうとしてたのによぉ!! ふざけんじゃねぇぞ!!」
「ぐはっ……ごほっ……!!」
勢いのままにオッサンから殴りと蹴りを繰り返される。
格闘技などは習っていなさそうだが、流石に素人の高校生が大人を相手にできるわけがない。
(いってぇ……)
顔に、腹に、足に、
一方的に痛め続けられ、全身が重い痛みと血に包まれていく。
俺は何も抵抗できずにそのまま壁へ叩きつけられた後、もたれかかるように動けなくなった。
「がぁっ……!!」
「お兄様!!」
「さぁて、続きをやろうねかわい子ちゃーん♡」
「ひいっ……!!」
視界はぼやけているが声は聞こえる。
友梨奈が泣いている。
友梨奈が助けを求めている。
友梨奈はもう一度仲良くなりたいと願う俺にチャンスをくれた。
過去の理央がやらかした事を受け止め、自ら甘えたいとお願いをしてくれた。
優しくて、
美人で、
誰よりも大切な妹を俺は……
(う……ごけ……)
絶対に守りたいんだ。
「まだ……動けるな……」
「ちっ!! さっさとくたばりやがれ!!」
痛みに耐えながら無理やり立ち上がる。
その姿に対してオッサンは再びボコボコにしてやろうと近づいてきた。
(くたばるのはお前だ……)
その余裕な態度がアダになるとは知らずに。
ブンッッッ!!
「がっ!?」
近づいてきた瞬間、俺はポケットにいれていたスマホをオッサンに向けて思いっきりぶん投げた。
平たくて固い金属に覆われた小さな端末。
そんな物が当たれば痛いし、少しくらい怯むに決まっている。
「おおおおおおおおおおおお!!」
「こ、こいつ!! どこにそんな力が!?」
俺は怯んだ隙を付いてオッサンに飛びかかる。
そして、
「この変態野郎がぁああああああ!!」
「はうっ!?」
倒れた所を逃さず、俺は魂を込めた蹴りをオッサンの股間へ全力で放った。
「あっ……が……」
「はぁ……はぁ……」
流石に潰れたか?
今のところ気絶してるみたいだし、潰れたら一生襲う気にならないだろう。
ざまぁみやがれ。
「ゆ……りな……」
激痛の走る身体を押さえ込みながら、必死で友梨奈の方へ近づく。
一番辛くて不安なのは友梨奈なんだ。
せめて安心できるよう俺が近くに……
「っ!?」
「お兄様!?」
行きたかったのだが身体が持たない。
全身の力が抜けて、意識が遠のいていく。
クソッ、助けに来たのに情けない。
せめて辛そうな友梨奈の話相手になりたかったのに。
頼れるお兄ちゃんになれるのは、まだまだ先みたいだな……
◇◇◇
『……ぐすん』
両親は忙しい。
俺はいつも自室の電気だけつけて、一人で遊んでいた。
寂しくて泣くこともあったな……
ただ、両親は俺の為に頑張っている事を知っていたから、ワガママを言う事はなかった。
『新刊……』
俺の寂しさを埋めてくれるのはいつだって二次元だ。
二次元はいい。
空想の世界はどんな事を考えたって自由だ。
こんな世界、あんな世界。
人だって物だって何だって自由に考えた。
その中でも俺が一番求めていたものは……
『楽しそうだ……』
主人公とヒロインが仲良く会話している場面。
ありきたりで変化もほとんどないが、俺はこういうシーンが気に入っていた。
だって温もりに飢えていたから。
ヒロインが友達から恋人になり、やがて家族となっていく過程。
こんな子がいれば、俺も寂しい思いをしないといつも考えていた。
だからこの世界に来た時、嬉しかったんだ。
もう寂しい思いをする事はないんだって……
『……様……い様……』
俺を呼ぶ声?
誰だ、誰が呼んでいる?
『お兄様……』
女性の声だ。
どこか温かみがあって安心する。
というか、俺を兄だと言っているのか?
……あぁ、そうか。
俺はこの世界で兄になったんだ。
だったら、妹を心配させたらダメだよな。
(友梨奈……)
俺はもう一人じゃない。
意地でも目覚めろ。
ようやく得た温もりの為に。
◇◇◇
「……あ」
目が覚めた。
視界はぼやけているが、薬品の匂いと白の多い部屋がここが病院だと伝えてくれる。
しかし身体が重い。
何日眠っていたんだ俺は……
「お兄様?」
声の方向へ振り向く。
視線の先では口をポカンと開けた友梨奈が椅子に座っていた。
「友梨奈か? 怪我とかはしてな……」
「っ……ぐすっ……」
心配して手を伸ばそうとした時、何故か友梨奈は涙を流し始める。
「っ!? ど、どうした!? どこか痛むのか!?」
「お兄様が起きないから……凄く心配して……」
「……不安にさせてすまない」
相当無茶をしたからな。
気絶して目が覚めない俺を心配するのは当然か。
そこまで思ってもらえるなんて俺は嬉しいよ。
「なぁ、俺は何日眠っていたんだ?」
「丸一日ですね。出血はありましたが骨折はしていませんし、脳に強い衝撃を受けて意識を失っていたとお医者様が」
「それでもかなり眠ってるな……」
一日中、友梨奈を心配させてしまったと考えると申し訳ない。
友梨奈を守る為に来たのに当の本人はボコボコにされている。
おかげで一日中不安な思いを抱えさせるという余計な手間までかけさせてしまった。
「卒業式は?」
「……お休みしちゃいました。先生方も事情を理解してくれたので」
「そうか」
布団の裾をギュッと握りしめる。
俺は怒っていた。
友梨奈にとって大事な卒業式を台無しにして、友梨奈の心に深い傷をつけた犯人に対して。
そしてその友梨奈を万全に守れなかった自分の未熟さについて。
(友梨奈を安心させたい……)
兄としてもっともっと強くなるんだ。
俺はそう決心した。
「……あの時の私は怖くて何もできませんでした」
「友梨奈?」
険しい顔をしていたからか、友梨奈が俺の手を優しく握る。
「でも、お兄様が来てくれて凄く安心しました。本当にありがとうございます」
その微笑みに負の感情が少しずつ消えていく。
(本当にいい子だな……)
優しすぎて天使だと錯覚してしまう。
というか生まれ変わりでは?
誰かのために頑張るなんて考えたこともなかったけど、友梨奈の為ならできる気がする。
だって、こんなに心強くて癒される人が近くにいるのだから。
「俺、頑張って強くなるよ。今度は友梨奈をちゃんと守れるくらいに」
「……」
友梨奈は静かに頷く。
あれ、少しかっこつけすぎたかな。
臭いセリフを吐くんだと妹に引かれたか……
と、思っていたのだが、
「私もお兄様を守れるくらい強くなりますよ」
「えっ」
友梨奈の声のトーンが低く冷たい。
その異質さに思わず動揺してしまう。
「お兄様は大切な人ですから……ふふっ」
笑っている。
だけど、その瞳に光はない。
原作では一度も見せた事のない”闇”を発する友梨奈の姿を、俺は呆然と眺めていた。
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