第20話 一緒に昼食を食べちゃったらよくない?



「西園寺は……まだか」



 集合場所へとやってきたが、西園寺の姿はまだない。


 顔を上げると【ダンジョン&バーガー】と書かれた看板が目に映る。

 スマホのメールを再度確認した。


 

『……私は行ったことあるけど、雨咲君は○○のダンバーガー店はわかる? 隣が食べ放題屋さんなんだけど』 

  

 

 西園寺のメールを読み返して、離れた横の敷地に視線を移す。


 文面にある通り。

 ハンバーガー店の隣は、焼肉の食べ放題チェーン店だった。

 


「ならここで合ってるな」



 待ち合わせ場所、そして昼食をとることになる店でもある。


【ダンジョン&バーガー】。

 略して“ダンバーガー”などと言う人も多い。

   

“ダンジョン総合”の教科書でも名前が出てくる、日本の大手ハンバーガーチェーン店だ。

    


『国産牛パティーを使ったハンバーガーを、超お手頃価格でご提供!』  


『ダンジョン探索する前に、片手ですぐに食べられる!』 


『広い店内スペースで、作戦会議も大歓迎!』



 大きな駐車場内に立つ幾つもののぼり

 季節シーズン品や、店自体の宣伝文句が書いてあった。



 それを見て、“ダンジョン総合”の加藤先生が余談的に語っていたことを思い出す。



 30年以上前のダンジョン黎明期れいめいき


 今ではほとんどなくなったが。

 当時は“ダンジョン”に関する風評や、根も葉もない嘘が平気で飛びかっていたらしい。


 その影響で。

 近くにダンジョンの発生した“とある牧場”が、直に影響を受けたという。



『ダンジョンから生ずる魔力に汚染されて、食べたらがんになる』とか。

『魔力の影響で遺伝子に突然変異が起きてるから、その牧場の牛肉は食べない方がいい』みたいな。


 

 今考えたら意味不明だが。

 まだダンジョンについて何もわかっていなかった当時は、そういう風潮がかなり強かったらしい。


 そのせいで売れなくなった牛――つまり大量の牛肉を買い取ったのが【ダンジョン&バーガー】の当時の社長だ。

 

『大量購入で安価に仕入れることにより、価格を抑えてハンバーガーを提供できる』。

『主なターゲット層を冒険者に定める。冒険者は結局ダンジョンに潜るのだから、ダンジョンの影響うんぬんはあまり気にしないだろう』。

 

 そうした時流を先読みし。

 田舎で始まったただのハンバーガー店を、国民的ハンバーガーチェーン店へと成長させたのである。

     


「雨咲君、お待たせ!」      


 

 到着してから5分とせず。

 西園寺も集合場所へとやってきたのだった。

 


◆ ◆ ◆ ◆ 



「いらっしゃませぇ~!」 


 

 入店すると、店員さんの元気な挨拶が出迎えてくれた。


 装備や荷物を持った冒険者がすれ違っても、窮屈さを感じない。

 ファストフード店にしてはかなり広めのスペースは、とても印象的だった。

    

 

「うわぁ~。ダンバーガーって、やっぱり広いね!」



 何度も利用しているらしい西園寺でも、その広さに新鮮な驚きと感動を見せていた。  


 

 ダンジョン近くだと安全性や危険性などの面から、どうしても土地代は安くなる。

 黎明期当時も。

 ダンジョンから少しでも離れたいと、周囲から引っ越す人が続出したそうな。


 そこでまとめて安く土地を買い、あるいは借りて。

 ハンバーガーにその分を還元することで、お手頃価格を実現しているらしい。

 


「ああ、そうだな。……じゃあとりあえず注文するか」


 

 この店を指定したのは西園寺だった。

 なので何か食べたい物でもあるのかと、気を使って一人、カウンターへ向かおうとする。


 だがそれを、西園寺に止められた。



「あっ、ちょっと待って。――ふっふっふ。雨咲の旦那ぁ、これが何かわかりやすかい?」



 三下っぽいモブの演技をしながらも。

 西園寺は、小さな紙を2枚取り出した。


 ドヤ顔西園寺、可愛い……。



『ダンバーガーセット 無料券 有効期限:9月25日まで』 

 

『ダンバーガーセット 無料券 有効期限:9月25日まで』



 どうやら【ダンジョン&バーガー】で使える無料券らしい。

 その同じ券が2枚あるということか。



「凄いじゃん。どうしたんだそれ?」



 純粋に驚き、疑問を尋ねる。

 西園寺は照れて白状するように頭をかいた。



「えへへ。実はお母さんがくれたんだ。ダンバーガーで働いてるんだけど、福利厚生の一環でもらえるんだって。だから、これで一緒に食べよう?」



 へ~。

 店内清掃していた店員さんをチラッと見た。


 女性制服は可愛らしいデザインで、短いスカートも相まって高い男性人気を誇ると聞く。

  


 西園寺のバイト服姿を想像した。


 ……うむ。

 非常に可愛らしい。

 また、短いスカートから覗く太もも大変エッチで、実によろしい。

 

 西園寺。

 冒険者と【ダンジョン&バーガー】バイトの二刀流、興味はないかい?

 お母さんも一緒の職場で働けたら、さぞかし喜んでくれると思うよ?



「ごちそうさまでした」


「え? まだ注文すらしてないけど……」


     

 おっと。

  


「……でもいいのか?」

 

「うん。……お母さんに、雨咲君について言ったことはないんだけど。でも何だかんだ、うっすらとは気づいてるみたい。『お世話になってる人がいるんでしょ? これで少しでもお礼しなさい』って」



 なるほど。

 1週間とせず、西園寺は急成長して、冒険者ランクも上がってるんだ。

 親なら、娘のそうした変化にも勘付くか。

   

 今日、突然に。

 西園寺が昼食を切り出してきた意図を、ようやく理解した。



「それに有効期限、明日までだしね」


「そっか。そういうことなら遠慮なく、ご馳走になろう」 

 

 

 西園寺が頷き、レジへと向かっていく。

 略称にもなっている“ダンバーガー”のセットを二つ注文。

 ハンバーガーとドリンク、ポテトのセットが二点だ。


 ドリンクを聞かれたので、アイスコーヒーを頼む。

 西園寺はアイスミルクティーを注文していた。



「――こちら、レシートです。準備ができましたらお席までお持ちしますので、番号の席でお待ちください」 



 無料券で無事、会計を完了する。

 店員さんに言われた通り、テーブル席へと移動。


 そうして対面に腰を下ろし、ハンバーガーが届くのをじっくり待つのだった。



◆ ◆ ◆ ◆



「あむっ……」



 届いたハンバーガーに、西園寺は小さな口でかぶりつく。

 


「ん~~っ! おいひいっ!」



 咀嚼そしゃくしながら、幸せそうに頬へ手を当てていた。


 

「そうだなぁ~これは美味いわ」


 

 久しぶりに食べたが、やはり美味しかった。

 噛むと柔らかく、パティーの肉汁の味がしっかりと感じられる。

 シャキシャキとしたレタス、ふんわりとしたバンズとの相性も抜群だった。

 

 あまりに美味すぎて、早々に食べ終えてしまう。

 セットのポテトをつまみながら、西園寺の食事風景を観察する。



「美味しいねぇ~。口一杯に広がる、美味しいの渋滞警報やぁ~」   



 グルメ系の芸能人がしそうな食レポが、ついつい口に出てしまうくらい美味いらしい。

 顔全体で幸せを表現してるヒカ麻呂まろさん可愛い。

 

 

「あっ、汁が落ちちゃう――んっ……」

 


 あまりのジューシーさに、肉汁がこぼれ落ちそうになっている。

 それを西園寺が、何とか口で受け止めていた。


 ……何かエロいな。

 西園寺の桜色をした唇が油でテカって見えるのも、より色気を感じさせた。



「…………」  

  


 そこでコーヒーを一口含む。

 香りと、口内に広がる苦みのおかげで、頭が冷静になった。

 

 西園寺め。

 口回りの汚れをチロッと舌先で舐めるなんて、エロい仕草で無自覚誘惑しやがって。


 やっぱり俺を布団から寝取ろうとしてたんだな!?  

 

 ……全然冷静になってなかった。



「――ふぅ~美味しかった。……雨咲君、どうかした?」 


 

 食べ終わった西園寺が、不思議そうにこちらを見てきた。



「……いや、何でもない」



 もちろん、そんなことは顔にも出さず。

 墓穴を掘るのは避けたいので、話に入ることに。



「――それで。この後に行くEランクダンジョンについて、簡単におさらいしておこう」


――――

あとがき

何とか20話まで書くことができて正直ホッとしています。

本当に、中々安定して更新できない日々が続いているので余計に、ですね。


♡応援やブックマーク、★レビューをいただけて本当に、大変助かっています。

コメントもニヤニヤしながら拝見しています。

すべて、執筆のモチベーションに直結しております、ありがとうございます。


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