エイリアン・イニシエーション

Kokowriting

第1話

観客はみんな総立ちで、踊ったり歌ったりしていた。俺と親友は信じられない思いで叫びながら、お気に入りのバンドのコンサートに来ていることに興奮していた。この瞬間を永遠に感じるほど待ち望み、これからアンコールで一番好きな曲が演奏されると思うと胸が高鳴った。音楽に夢中になっていると、突然、何か奇妙な感覚が体を包み込んでくる。ふと気づくと、バンドのメンバーが人間のようなマスクを外し、そこにはまるでエイリアンのような生命体が現れていた。



緑色のヌルリとした皮膚、浮かび上がるオレンジと紫の血管、耳元まで裂けた口に、ビッチリと奥まで並ぶ多すぎる歯、赤黒く光る大きな目。




こいつ…オレの飲み物になんか混ぜたな。


隣のマイクと、手に持っている瓶ビールを交互に眺める。


運転したお礼のつもりか?


しかしこれはヤバイ。


完全にバンドメンバー全員エイリアンにしか見えない。


いや、こういう効き方じゃなくて、なんかこう…もっとハイになるやつとかあるだろ!


なんだよ、エイリアンって。どういう効き方してんだこれ。






この日のために、オレは18歳になってすぐ免許を取った。


親友のマイクとは同じ年だが、奴はオレより半年遅れの誕生日で、まだ免許は取れない。…いや実際は取れなくもないが、余計な書類と費用が掛かるから、取りたくない、のが正確だ。


だがオレは、この日のために取った。




オレ達の州にバンドが来ると知った時は、泣くほど嬉しく、家中の金を集めて口座に突っ込み、ソッコーでチケットを取った。


ずっと、LAやNYなどのデカい都市でしかやらなかったバンドが、こんな「生産物はイモ」でしか知られてないような州に来てくれる。


やった!マジで最高だ!!




だが問題は、州で一番デカい“都市”でやる事だ。


オレ達のクソみたいな町から、車で4時間かかる。


コンサートのチケットを取ると同時に、免許証試験を申し込んだ。


車は従兄弟に頼み込んで借りた。


もちろん、ケチなジェイクがタダで貸すわけ無いので、なけなしの$200を払わされた。おまけに、ガスタンクを満タンにして返す約束もさせられた。


だがいい、コンサートに行けるなら何でもする。




それがどうだ。


マイクのバカのせいで、今じゃバンドメンバー全員が気色悪いエイリアンにしか見えない。ふざけんな。しかも一番盛り上がる最後のアンコールじゃないか!!




「オマエ、何混ぜたんだよ!!」とマイクの肩を掴んで耳元で怒鳴る。


「は〜?何だって〜?!」


「だから!何を混ぜたんだオレの飲み物に!!」


「何も!!まぜてねぇよ!!」


マイクは掴んだ肩を振りほどいて、他の観衆と一緒にジャンプしている。




オレだって、さっきまでそれくらい楽しんでた。


だけど!!


音は同じなんだけどなぁー!


見た目がなー!!


なんでよりによってエイリアンなんだよ!!!




この日のために、どんだけオレが頑張ったと思ってるんだ。


したくもない近所のクソみたいに小さいグローサリー兼何でも屋でバイトして、夜は町で2個しかないガスステーションのコンビニの1つで、ナイトシフトをこなした。夜にしか商品が入荷されないから、実質重労働の搬入係りだ。


そうやって免許証代と車代と今日のチケット代、この日のための旅行代、アルコールを買うための偽造ID代まで捻出してきたんだ。




それがなんで!なんでよりによってキモい緑のエイリアンなんだよ!!




オレの両目に生暖かい液体が溢れる。


悔しい。悔しすぎる。




初めての長時間運転、初めての都会、慣れない大型ライブ会場、やっと聞けたライブの音、町の人間全員合わせたより多い大量の人。


どれもこれも初めての経験で、神経が高ぶっていたせいかもしれない。




それか、お袋がシングルマザーで、オヤジは失踪中だからか。


それか、オレの家はトレーラーハウスでクソ貧乏だからか。


それか、大学に行けとか抜かしてきたくせに、金がないと話したらあっさり見放したクソティーチャーのせいか。


それか、オレがジェイクの従兄弟だと知って言い寄ってきたシンディーが、全然やらせてくれないせいかもしれない。


クソビッチ!!




オレは泣いた。


周りが一団となってリズムと共に飛び跳ねている中、持ち服の中で唯一マシだったフーディーの袖に顔を埋めて泣いた。この日のために服も新調したかったが、ジェイクのせいで金が足りなくなり買えなかった。


クソッ!


何もかもクソだ!!




曲が終わり、歓声があがる。




舞台に目をやる。




やっぱりエイリアンじゃねーか!!!!!




オレは堰を切ったように泣いた。


自分の不運に泣いた。




バンドメンバーが舞台袖に、手を振りながら消えて行くのも薄目で見たが、やはりエイリアンだった。

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