2
時が経つのはあっという間だった。
彼女は少しずつ成長し、ポニーテールを結ぶようになり、ランドセルを背負って学校へ通い始めた。
家に帰ると、机に向かって宿題をしていた。
時にはイライラして筆を投げ出し、ベッドに倒れ込むこともあった。
そんなとき、チャチャはそっと彼女のそばに寄り添い、黙って一緒にいた。
そして、ふわりと尾を動かし、彼女の手の甲を優しくなでる。
――大丈夫。ずっとそばにいるよ。
やがて、彼女は少し大人になった。
スマホの画面をじっと見つめ、夜中にこっそり涙を流すことも増えた。
チャチャには、彼女がなぜ泣いているのかわからなかった。
けれど、そっと近づいて、額を彼女の手のひらにすり寄せる。
――私はここにいるよ、大丈夫。
昔と同じように、そう伝えたかった。
そしてさらに時が経ち、彼女は大人になった。
毎日忙しそうに出かけ、帰るのも遅くなった。
それでも、家のドアを開けるたびに、変わらずしゃがみ込んで、優しく頭を撫でてくれた。
「チャチャ、ただいま。」
――幸せだったよ。君が帰ってくるたびに。
チャチャは思い出をひとつひとつ抱きしめながら、口元をほのかに緩めた。
目を閉じ、午後の陽だまりに身を委ねる。
少し眠くなってきたけれど、まだ眠りたくない。
もう一度、彼女の顔を見たい。
もう一度、「チャチャ、ただいま」と言ってほしい。
「……チャチャ?」
耳元で、少し震えた声が聞こえた。
チャチャは力を振り絞って目を開けた。
そこには、よく知っている、大好きな彼女の顔があった。
心配そうな瞳が、自分をじっと見つめている。
手を伸ばして、彼女を安心させてあげたい。
でも、体はもう動かなかった。
「チャチャ……きみは幸せでしたか?」
彼女の声が震えていた。
まるで、何かを必死にこらえているように。
幸せ……?
チャチャは心の中で、その言葉をゆっくりと反芻する。
――うん、幸せだったよ。
だって、ずっと君のそばにいられた。
いつも君の声を聞いて、君の手のぬくもりを感じていた。
だからね――
最後の最後も、こうして君の腕の中でいられて、
こんなに幸せなこと、ほかにある?
チャチャは最後の力を振り絞り、かすかに尾を動かした。
それが、彼女への最後の答え。
暖かな陽ざしに包まれながら、彼女の腕の中で、チャチャはそっと目を閉じた。
静かに、穏やかに、深い眠りへと落ちていく。
──それは、とても穏やかで、深い、深い眠りだった。
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