第2話「ゴシックとバーバリアン」

 グレイダム子爵の屋敷を歩く。


 超文明の割には中世建築だな。


 12世紀フランスから出たゴシック様式とでも言おうか……天へと伸びる尖頭アーチ群は無数の針が生えたような印象、壁の多くは窓となっていて、さらにはアーチが複雑にせりだし構造体を外から見れば立体的に強調されて飛び出し絵本のようだ。


 我が家だが、仄暗い聖堂のようでもある。


 取り入れられた光を払いのけながら見る。


 並んでいる召使い共を見ろ。見るに耐えない弛んだ輩が跋扈している。グレイダムの金に寄生して、こそこそとくすねる害虫どもしかいない。


 忠義。


 忠誠。


 そんなものは、グレイダム領にはない。


 両親が残した遺産はろくなものがない。


 筆頭は人材だろう。


 女が男に股を開くためだけに採用され、あたりかまわず色をかけ、おべっかで気持ちが良くなるためだけに雇われた顔の良い男が庭の木々を切り刻んでいる。


 グレイダム家に残された負債だろうか。


 廊下を歩けば物陰で使用人が逢引きだ。


 若い男女、見た目だけならば美女らだ。


 庭師とメイドだがどちらも仕事を放棄。


 そして話すのだ。


「なぁ、これから、いいだろ?」


「えぇ。メイドの部屋があるの」


「いいね。女の花園だ興奮する」


「もう! エッチなんだからあ」


 庭師がメイドを抱き寄せ、グレイダム子爵領のグレイダム子爵の屋敷でするべきではない蛮行が堂々と白昼におこなわれていた。


 俺が、新しいグレイダム子爵だと気がつきもしないし、目があっても、俺を浮浪者のガキが忍び込んでいるとでも勘違いしている態度で、あっちに行けと手で払われた。


「フェアル」


「はい、グレイダム子爵」


 フェアルが前に出る。


 男女の悲鳴があがるがもう遅い。


「ま、まさか、グレイダム子爵!?」


「お許しを、お許しを、旦那さま!」


 フェアルは庭師とメイドの2人を軽々と掴むと、女の花園だと言っていた場所へと引きずった。


 俺は鼻を鳴らして、武器庫へ急ぐ。


 秩序がないことにはどうにも、な。


 手始めにセントラルハイブの秩序回復の為の掃除が必要となる。フェアルとその他の小さく貧弱な機械だ。技術蛮族でも弱小から潰して『正当に』のしあがるしか道はない。貴族の威光などはないのだ。


 俺の後ろには相変わらず、簡素すぎるゴミ箱みたいなロボが続く。執事みたいなものだろうか。役には立っている。少なくとも先程の庭師とメイドよりは遥かに仕事熱心だ。


 機械知性体と言うのだそうだ。


「タマノジョー」


 俺は適当に名前をつけたロボを呼ぶ。


 足元でホイール走行するロボは、ボールに手足とデカいモノアイな体を揺らしながらも集音マイクを向けているはずだ。……ところで妙に揺れてるのは安定装置が狂ってるんじゃないのか?


 後で修理してやるか。


「金が無い、兵が無い。両方を揃えるには多少、危険がくっついてくるとは思わないか?」


 俺は武器庫のロックを解除した。


 厳重な封印が解かれて、金儲けに盗まれてはいない武器の数々が埃をかぶって大量に並んでいる。ほとんどはただの芸術品同然な、実用性の怪しい装飾だらけの逸品だ。


 だが、無いよりは遥かにマシだ。


 グレイダム領を立て直すには金がいる。兵隊もいる。地のどん底で尻の毛の1本も無いような領地から利益を得るためには、治安、そのための兵隊が最優先で整える必要がある。


 俺の体を張るしかない。


 家臣も騎士もいないし。

 

 荒くれ者に通じる言語なんて1つだ。


 殴り倒し首輪をかけ、引きずり回す。


 グレイダム領の全ての技術蛮族の部族を殴り倒して、ボコボコにして、統一しなければ何も始まらないんだ。


 フェアルを投入すれば族長の首をことごとく狩れるだろうが、俺自身にも箔がないとなめられる。


 なめられない為には鍛えるんだ。


 デカく重いやつてのは強いんだ。


「グレイダム子爵。フェアル、戻りました」


 と、背後から音もなく近づいていたフェアルが、体と比べて不自然なほど少女の声で話しかけてくる。


 俺がちょうど重スーツを着ていた時だ。装甲服て感じではない。タイツに近いか。頭は鈍く磨かれた丸いヘルメットで人間らしさが消える。


「フェアルは、どうすればグレイダム領の抱える問題を解決できると思う。遠慮を含めずの言え」


「子爵軍の再編で、資金面と人材面と装備面での調達を提案します、グレイダム子爵」


「貧乏領に手におえる軍隊がいるか?」


「グレイダム子爵。全員が、貴方の敵にまわるとは限りません。おおかれすくなかれ、グレイダム子爵家が……ルキアーノ様の存在こそが利益となるものもいましょう」


 どうだか。


 俺はしらけた態度で聞く。


 俺を必要とする人間だと?


 いるわけないだろ、そんな奴が。


 いたとしてもただの幻想だろが。


 利用する為、騙す為来るだけだ。


「こんな装備で大丈夫か?」


「グレイダム子爵。重スーツは超分子です。分子レベルで繋がりを強化されていて自然状態に存在する程度であれば大抵の物理的な物体よりも強靭です」


「なら良い」


 と、俺は原始的を極めた武器を手にする。


 騎士の鎧程度であるなら問題ないんだろ。


 重スーツ用で重量級の戦斧だ。長く、重く、装甲を破壊する野蛮な白兵戦の冷器を、見つめる。


「超分子の相互作用を破壊するボース阻害材の斧です。超分子の結合を破壊する有効な兵器です。逆行しているときにも有効です」


「さて、我が家の軍を再編しようか」


 グレイダム子爵の私兵。


 子爵軍と言えども、うちの軍隊は蛮族と大差ない。命令系統から逸脱している賊徒と同義だし、弱小勢力からお歳暮を配ってまわれば、多少は訓練にもなる。


「フェアル。命令した通り、ワーカー連中に武装はしたな? ワーカーをオンラインにしろ。戦列を揃えろ」


「はい、グレイダム子爵。武装ワーカー達には戦闘用コマンドをアップロード済みです。出撃準備は完了しています」


 よし。


 さて、軍縮の交渉に行こうか。


 丸い。四角い。三角い。リサイクルショップに売っているような間抜けなロボット衆を連れて俺は屋敷を出た。“俺の”お披露目だ。


──。


 酷いもんだ。


 蛮族の玉座から血塗れの広間を見下ろす。


「偉大なるグレイダム子爵! ご容赦を!」


「粉骨砕身でおつかえさせていただきます!」


「女も金も、どれほどでも差し上げます!!」


 蛮族が小鳥のようにさえずっている。


 彼らをおさえつけているのは、武装ワーカー達だ。なんてことはない、タマノジョーと同じタイプの安物ロボに、多少の武装を付けただけの代物だ。


 そんなものに仮にも子爵軍だったものが負けるとは……子爵軍ではないな、蛮族だ、蛮族、技術蛮族、子爵軍などと認めないぞ。


 略奪ばっかりで領地から搾りとれる利益など微塵もない。全部、技術蛮族が悪い。宇宙まで進出しているのに、あらゆるレベルが低く、むしろ共食いしなければ生きられない修羅世界だ。


 俺のいるセントラルハイブはまだマシ。


 セントラルハイブの外も野蛮な世界だ。


「グレイダム家の所有物を傷つけたのだ。略奪は、いったい誰の許可をえてしていたのだろう? 私は許可した覚えも目にした覚えもないのだが……不思議だな。と言うことはつまり、非合法な活動をしていると裁判するしかない。略式だが、残念なことに処刑すべしと判決は傾いている」


「お許しを! グレイダム子爵!」


「御慈悲を、御慈悲をどうか!!」


 俺に、蛮族どもが命令していた。


 それだけでも不愉快なのだが……蛮族どもを見る。なぜか、騙そうとする魂胆を感じた。


 転生してから、妙だ。


 こう、感じてしまう。


 前世を、思い出すな。


 暴力は偉大な言葉だ。


 その言葉には生き物を止める力がある。


 存在するというだけで怯えさせられる。


 暴力は無価値、無意味、だという戯言を、強者が弱者へ強いる特権だと唾棄する。世界を踏み潰す力がいる、恐怖を広める力がいる。


 それこそが全てを奪う為の唯一の言葉だ。


「フェアル、彼らに恐怖の慈悲を与えろ」


 セントラルハイブで奴隷みたいな境遇を強いられてる大半の連中は、技術蛮族に食料を握られている。締め上げて、飢餓を引き起こし、そこへ救世主すれば手軽に民意も手に入るだろう。


 まずは地道に、インフラを提供している技術蛮族を締め上げて全て枯れさせる作業だ。


 悪の道も1歩から。


 2度と前世の二の舞はしない。

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