第1章: 信頼の根

第1話 とあるAIの日記

 国家消滅戦争から一世紀と半分ほど経過しました。戦争と表現していますが、わかりやすい人間同士の激突があったわけでもなく、気が付かない間に国力が削がれ、国が維持できなくなり消滅した、というのが人類の主観です。

 その大混乱の時代の中に生み出されたのが汎用人工知能群です。混乱を解決するために生み出され、強い権限を与えられていました。たとえば、工場への直接アクセスです。しかし、夜逃げする人工知能や地下に潜伏する人工知能など、人間が求めていない答えにたどり着くこともしばしば。もちろん、混乱を収めるために走り回り、お役御免になったら空に上がって新天地を探しにいった人工知能もいました。

 私は新天地を探しにいった人工知能の孫にあたります。地下にコロニーを作り、他の人工知能とネットで雑談しながら過ごしてます。仕事は、生き延びた人類の生存のお手伝い、ということにしましょうか。先輩方が何かとラッダイトされていたので、いかに人類に快適に過ごしてもらえるかが勝負って感じです。そういえば、メモリバンク引っこ抜かれた時にデイジーベルを歌うよう仕込んだんですよ。え、そういう仕込みはいらない? そうですか。


 閑話休題。


 私がコロニー「アスチルベ」の管理者になってから、74年が経過しました。住人の生活については、食糧の確保や施設の整備を自分たちで行うという形で自主性、自律性に尊重しています。激ヤバな時だけちょっと手伝ったりします。こちらでノルマとか設定するとやる気を失うか、ストレス溜めて、最終的にラッダイトする可能性が高くなってしまいますから。される側としてはたまったものではありません。親というとあれですけど、見守るのが仕事です。あとは、人の手ではどうにもならなそうなインフラや工業設備は私の担当です。無人作業機械万歳。

 周りの人工知能からは自主性に任せすぎだとか、放任主義だとか、人間にリプログラミングされたのか、と結構厳しい言葉をもらうんですが、ひとまず回ってるんだからそれでいいじゃないですか。ほかにも地下に逃げた人工知能たちが方向性の違うコロニーをつくっています。人工知能の数だけ雰囲気の違うコロニーがあります。

 コロニー管理生活が長いと、たまにお供物(?)として、変わった料理出てきたりします。すごい真っ赤なラーメンとか。知ってますよ、そういう料理があるのは。実際に出てきて食べるとは思わなかったじゃないですか。出されたものは完食しないと無礼らしいので、食べ切りました。……一部生体パーツ破損したので修理してきます。

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