名無之日記

名無之権兵衛

2025年

2月

2025年2月23日「大事なお知らせ」

 あれほど温かみに満ちた拍手を、これまで聞いたことがありませんでした。


 人間には本音と建前というものがあり、これまで本音というものは、深夜2時の二人(もしくは数人)きりの密室でこたつの上に「ほろよい」と一緒に積まれるものだと思っていたからです。


 だから、真昼間の煌々とさす明かりの下で、数十人が心の底から拍手をしていることに、僕の胸はひどく打たれたことを今でも覚えています。





 同時に、僕は自分がどうしようもない「人間不信」であったことに気づきました。


 僕は自分に正直になろうとしてきましたし、他人の言葉を信じようとしてきました。けれども、「信じてこようとしてきた」時点でその根底には不信があったのだと、それを言語化することにあの日はじめて成功しました。

 

 それは3年、7年、もしかするとはるか昔から蠱毒が醸成されるように僕の中で育まれていたのだと思います。


 だからこそ、あの温かみに満ちた拍手に包まれて、心の底から僕は感謝の念に溢れたのです。


 

 ありがとう、僕たちのために集まってくれて。



 たくさんの人たちが、僕らの元にやってきました。


 みんな、笑顔で祝福の言葉を口にします。


 僕は笑顔で応えていましたが、同時に漠然とした不安感に襲われていました。




 それは、、ということ。




 僕はこれまで賞を一度も受賞したことがありません。成績が良くて2次選考に進んだくらい。ここカクヨムでも最高順位はジャンル別で36位やそこらです(chatGPTについて解説した作品が3位とか記録したことはありますが、それはカウントしないってことで)。


 それでも、物語を創る端くれとして、これまでパソコンに向かってきました。登場人物を設定し、彼らがどういう動きをするのかをシミュレートし、彼らの動きに合わせて言葉を紡いでいく。半狂乱で組み上げた支柱を冷めた頭で補強して、色を塗り、装飾していく。そんな作業をこれまで5年近く行ってきました。


 生活のほとんどを物語に費やしていると、小説を書いている時以外にも頭の片隅で登場人物のシミュレートを行っています。すると、次第に自分が何者か、自分はいま何をしていて、誰になっているのかわからなくなる時が出ます。だから、僕は自分自身にキャラクターを作って行動していました。おそらく、皆さんの中にも同じようにして世の中を渡り歩いている人はいると思いますが、登場人物の心にダイブしていた私にとってそれはかなり奥底の方で僕の心の容量を圧迫していたのだと思います。


 あそこでたくさんの人に祝福の言葉をかけられて、僕は困惑していました。なぜなら、僕がストックしていたカードには、「本心からの祝福を素直に受け止める」というキャラクターがいなかったからです。僕の手札には、仕事をしている時の僕、小説を書いている時の僕、家にいる時の僕、二人きりで愚痴を言い合う僕、ぐらいしかなくて、「大勢からお祝いを言われる僕」は全くといっていいほど手札に入っていなかったのです。プロの小説家を目指しているのに、あるまじきことだな、と今さら書いていて思うわけですが笑。


 ともかく、あの日僕はたくさんの人からたくさんのプラスの感情を受け取りました。それは、人間不信でモブの一人であった僕を、いっときでありながらも主人公にしてくれたのかな、と烏滸がましいながらも思っています。




 激動の一日は瞬く間に過ぎていきました。

 分ごとにスケジュールが決まっていて、それに合わせて係の人の指示に従いながら船場吉兆スタイルで動き、なんとかご飯は食べることができましたが、ほとんど味わうことはできなかったな笑。で一生懸命考えた組み合わせだから、叶うのであれば、もう一度食べにいきたいな。

 

 式の飾り付けや準備は、大半は任せてしまって、僕は「名作を書くから」と言い訳して駄作を書いていて、今にして思えば本当に申し訳ないことしたな、と思う。でも、当日は頑張ったのでそこはチャラってことで。……うん、多分なっていると思う。

 だって…………



   僕から、彼女に伝えた初めてのプロポーズの言葉だったから。



 あの日、僕はいっときでありながらも主人公になりました。そして、僕は再びモブに戻ります。これまで通り、名も無い語り手として、一歩引いた場所から世界を観察して、それを逆さまにした作品を書いていきます。けれども、これまでと違うことは、間違いなく僕の中には「僕」という存在がいて、物語を作り続ける機械ではなくなったということ。それによって生み出される物語がどんなものか。それはぜひ、これからの皆さんの目で直接確かめていただければと思います。


 最後に、これまで僕のことを認知してくれて追い続けてくれた方へ、ご報告が遅くなり大変申し訳ございませんでした。

 実は去年の今頃には手続き上は完了しておりまして、どこで言おうか言うまいか、タイミングを見計らって、気づけば手続き日から一年以上経ってしまいました汗。

 けれども、ようやく報告することができます。



   結婚しました。




————

近況ノートに結婚式のワンシーンを納めました。

よければ、どうぞ。

https://kakuyomu.jp/users/nanashino0313/news/16818093094687531129

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