第2話 旧友との再会と前触れ
長く薄暗い道を数分歩いて学園内に入れば、懐かしい景色が視界に飛び込んできた。首都の駅並に広く巨大な校舎が出迎えてくれている。茶色を基調としたなんとも古風な校舎ではあるが、その奥に複数の高層ビルが何棟もあるのを知っていると、この学園内の建築物に統一感が無いのがこの学園にいる生徒たちを表しているようで、一周回って安心する。
見えている生徒たちは、灰色を基調とした制服に身を包みながらも、色とりどりの髪色と個性豊かな髪型で自分を表現していた。
「何も変わってないね、ここは」
「外はそうですね」
「どういうことですか?」
「これから分かってきますよ、きっと」
色井さんは意味深な笑みをこちらに向けて、校舎へ進んでいく。おそらく行っても分からないような変化が、内側で起きているということなのだろうけど、少しは教えてくれても良い気がする。
この人はちょっとカッコつけたがる癖があるが、甲斐甲斐しく学園の美化などに貢献してくれているので、こういう時は乗ってあげるのが吉だ。
「楽しみです」
「……おい、待て」
校舎内には入ろうというタイミングで、西側から大声で呼び止められた。しかし、この声は何度も聞いたことのある声だ。声の方へ顔を向けると、同じ年代とは思えない巨体が立っている。黒髪のコーンロウに日焼けした肌、そしてでかい口を目一杯広げた笑顔が特徴の男だ。
「久しぶり、坂平」
「帰ってくるって聞いて嘘だと思ったけどよ、まさか本当だとは思わなかったぜ」
周りにいた生徒たちの視線が僕らの方へ一斉に注がれるのがわかる。無理もない。
一人は色井さんに荷物を持たせて悠々と歩いている変なやつ、もう一人は同年代にしては異常な巨体を持つ学園内上位層。
「何しにきた、自分のやったこと忘れたか?」
「いや、覚えてるよ」
「……忘れられるわけねえよな、左腕落としてまで夢見た『外』へ出たんだから」
スコア内では学園を『内』、僕が前までいた世界を『外』とよんでいる。僕は親父に戦士としてではなく、家族として迎え入れたいという言葉を聞き、また自らも家族に飢えていたので、外へと飛び出した。
「当時の第零を倒した代わりに左腕を犠牲にしたのに、即座に特別権限で自分を退学にして学園を去った。今でも覚えてるわ、あのバカみたいな行動は」
「いや、恥ずかしいな」
「そんなお前が何しに帰ってきたんだよ。外が嫌になったか?」
彼の表情には明らかな怒りが見える。何に対してどう怒っているのかは不明だが、僕は僕でやることがあってここに来た。覚悟を持ってこの場に帰ってきたんだ。坂平ぐらい納得させなければ、この先間違いなく心がもつはずがない。
「やらなきゃいけないことができたんだ。だから、帰ってきた」
「叢雨とでも戦いに来たのか?」
「……知ってるんだね。彼と戦いに来たわけじゃないけど、僕は奪われたものを取り返すためにここでまた戦うことを選んだ」
「……まあ、いいや。そのあたりはまた今度話そう。あ、それと叢雨は女だ」
「え、そうなの?」
「スコア史上初の女子生徒で第零、だから学園内がなんか色々面白くなってる。お前の知ってる感じじゃないのは確かだ」
そう言って坂平はどこかへと消えてしまった。しかし、また今度話そう、そう言ってくれたことを聞き逃さないのが、僕の良いところだ。やっぱり彼は僕の友人だ。この学園を去る時も、最後の最後まで僕の身を案じてくれていた。戻ってこないつもりだったが、僕はまたここへ戻ってきたのだ。どんな扱いでも受ける覚悟だ。
「懐かしのお部屋はそのままです」
気がつくと寮の自室前に立っていた。色井さんがそう言って扉を開けると、校舎を見た時とはまた違う、より濃い懐かしさが色々な感情と共に流れ込んでくる。
クリーム色の壁に木製のベッドフレームとマットレス、キッチンは食堂が寮内にあるためないが、風呂とトイレが部屋に備え付けなのは嬉しい。木製の窓枠に片側しか開かないスライド式の窓、小学生が使っていそうな安っぽい学習机、申し訳程度の小さい冷蔵庫。全てがあの頃のままだった。
「僕以外に誰も住んでなかったの?」
「いえ、昨年に入られた方で一名、ほんの数週間だけ住んだ方がおられましたよ」
「すぐに辞めちゃったとか?」
「いえ、今も在籍していますよ。現学園の第零として」
耳を疑った。色井さんはちょっと怪しい冗談をいう時はあれど、嘘を言ったことはない。今まで彼から聞いてきたことは、だいたい遅くても数日くらいで事実になっている。
叢雨はこの部屋に住んでいた。そして、たった数週間でこの部屋を抜けていった。もしかしたら、彼女は僕の想像する何倍も化け物なのかもしれない。そう思っただけで身震いがした。
「では、私の案内はここまでとなっておりますので。樺咲様、今後ともよろしくお願いいたします」
「……よろしくお願いします」
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