第14.5話 弱点
ダンジョンの前に着くと、マリルが待っていた。
俺に気づいた彼女は、小走りで駆け寄ってくる。
「カテンさん、アイテムどうでしたか?」
「試してみないとわからないが、役立ちそうな感じはしたぞ」
今日の探索の目的は、新しく手に入れたアイテムの実験と魔物の弱点の確認だ。
「それじゃあ、早速試しに行きましょう!」
張り切るマリルと共に、俺たちはダンジョンへと足を踏み込んだ。
◇
まずは《カネガネ》の粘着剤のテストから始めることにした。
しばらく進むと、ラットモンスターが現れる。
俺は試しに適当な量を床にまいた。
「さて、どのくらい効くか……」
ラットモンスターが勢いよく駆けてくる。しかし——
「キィッ!?!?」
足を踏み入れた瞬間、その場にぴたりと貼りつき、ほとんど動けなくなった。
「……まるで強力な接着剤だ。これはかなり役に立ちそうだな」
「これは大きな魔物でも足止めとかに使えそうですね」
マリルが驚きの声を上げる。
まずは、粘着液が罠や足止めに有効であることが確認できた。
「次は……強化薬を試すか」
俺は強化薬を取り出すと、マリルにちらりと目を向けた。
「実は前にこれを使った時、効果が切れた瞬間あまりの疲労感に気絶したんだ。だから、もしもの時は頼む」
「えっ!? そんな危険なものを今飲もうとしてるんですか!? ちょっと待って——」
マリルが慌てて止めようとするが、その前に俺は一気に飲み干した。
「……っ!」
体が熱を持ち、筋肉が膨張する感覚が走る。
「おぉ……!」
体が軽い、力がみなぎる。だが——
ん? ……なんか、前ほどの力じゃない?
俺は動きを試しているとマリルは驚いていた。
「えっ、すごい……! さっきより動きがずっと速いです!」
だがやはり、以前のような爆発的なパワーは感じられない。
しかも——
「……ん? これ、効果が切れたのか?……」
ものの2、3分で力が抜ける感覚を感じ始めた。そして、次第に力はまるで感じられなくなった。
それを聞いて心配そうにするマリルが口を開く。
「カテンさん、なんともありませんか?」
「ああ、身体は特になんともないし、疲労感もほとんど感じない」
「じゃあ成功ですね!」
「そうなんだが……前ほどの力も感じられかったんだよ。全体的に効果が薄れている感じがしたな」
「そうなんですか……なんだか、使い所が難しいアイテムですね」
俺はマリルに軽く頷き、一息ついて口を開く。
「ひとまずアイテムを試すのはここまでにして、次はモンスターの魔石を直接鑑定できるか試しにいくか」
そう言って、俺たちたちは魔物を探しに向かった。
◇
しばらくしてラットモンスターが現れる。
俺はすかさず体内の魔石のある位置に【鑑定】を発動した。
――――――――――
《魔石》
氷属性:41%
闇属性:27%
風属性:18%
炎属性:14%
――――――――――
「……見えた!」
俺は思わず声を上げた。
「カテンさん、うまくいったんですね!」
魔物の体内でも部分鑑定は有効だった。
これで、戦闘中に魔石の属性が分かるということだ。
ここまではうまくいった。
あとは属性の偏りで敵の弱点を見抜けるのかということだ。
もしそれができれば——マリルの魔法を攻撃に使用できる!
「次は、この情報を活かして魔法を試してみるぞ」
俺は、マリルに魔石の属性を伝えた、やつは氷属性が多い。予想通りなら炎属性が効くはずだ。
「わかりました、試してみます!」
マリルが炎魔法を放つと——
「ギャギィィィッ!!」
魔物が叫び声を上げる。
マリルの魔法が直撃し、その体を包み込むように炎が燃え広がった。
しばらくのたうち回っていたが、やがて力尽き、崩れるように倒れる。
そして——
シュウウ……と音を立てながら、魔物の体は消滅した。
魔法が、確かに通じたのだ。
「……すごい! 今まで魔法を当ててもろくにダメージが通らなかったのに……」
マリルが息を弾ませながら俺を見る。
「カテンさん! わたし、魔物を……倒せました!」
彼女の目は驚きと喜びが混じっていたが、すぐに不安げに俺を見上げた。
「……私、今本当に1人で魔物を倒せたんですよね……!?」
マリルは嬉しさからか少し震えながら質問する。
その問いかけに、俺は一瞬だけ言葉を探す。
しかし、すぐに笑いながら答えた。
「おう、これからも頼りにしてるからな!」
ぽかんと口を開けた後、マリルはパッと顔を輝かせた。
「……はいっ!」
俺も嬉しくなり、彼女の肩を軽く叩いた。
このまま他の魔物にも試してみよう。
◇
その後、俺たちが十分な採取を終えた頃、
アルミラージにも粘着剤が有効だったことを確認し、さらに他の魔物にも鑑定を使い、属性の割合から弱点を割り出せることを証明した。
「これなら確実にボスに挑める」
俺たちはそう確信し、ダンジョンの出口へと向かった。
道中、俺はふとアルミラージの角のことを思い出した。
「そういえば、マリルいつもより魔法を使って疲れたりしてなか?」
「そうですね、魔法で戦ったことなかったので……魔力も減って少し疲れました」
俺はその言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべる。
「そんな君にこんなものがあるんだが……」
そう言ってアルミラージの角からとれたゼリーを取り出す。
「カテンさん、まさかそれ……」
マリルはそれを見て俺から少し距離を取った。
「さぁ、マリルさんこれを食べてみてください」
「カテンさん、ちょっと待って、まだ心の準備が———」
不気味な笑みを浮かべたカテンは嫌がるマリルに無理やりゼリーを食べさせたのだった……
◇
ギルドに戻ると、受付にラフィーナがいた。
「あっ、カテンさん、おかえりなさい! 今日はどうでしたか? マリルさんなんでそんな不機嫌そうな顔してるんですか?」
「おう、まぁ色々あってな、今日はまず新アイテムを試してみてな——」
俺は魔石の属性鑑定のことを含め、新アイテムの効果や戦闘での手応えを簡単に説明した。
「……え、すごくないですか、それ!?」
ラフィーナが目を丸くして驚いていた。
「2人で相談もして、明日ボスに挑もうと思うんだ。そこでボスについて教えてもらおうと思ってな」
少し前まで、ボス戦はまだ早いと心配していたラフィーナだったが、その様子はもうなかった。
むしろ、今は自信を持って頷いていた。
「十階層のボスはですね……三つ首の魔物、《ケルベロス》です」
「ケルベロス……」
「大きさは全長が約二メートル、高さも大体同じぐらいです。素早い動きに鋭い爪、そして三つの頭による攻撃をしてきます」
「ラットやアルミラージとは比べ物にならない強さってだな……」
「はい。でも、今の2人なら絶対倒せます!」
◇
ギルドを出た後、俺たちは並んで歩きながら静かに拳を握りしめた。
「ケルベロス……。三つの頭を持つ魔獣。これまでの敵とは桁違いの強さ……」
マリルが力強く頷く。
「……頑張りましょう、カテンさん! 私たちなら絶対倒せます!」
彼女の目は、不安よりも期待に満ちていた。
俺はそれを見て、静かに微笑む。
「明日は、全力で行くぞ」
不安は俺にもある。だが、それ以上に——
ワクワクしていた。
俺は、決戦の準備をするため宿に向かった。
「そいつを倒して俺たちは次の段階に行くぞ!」
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