第14.5話 弱点


 ダンジョンの前に着くと、マリルが待っていた。



 俺に気づいた彼女は、小走りで駆け寄ってくる。



「カテンさん、アイテムどうでしたか?」



「試してみないとわからないが、役立ちそうな感じはしたぞ」



 今日の探索の目的は、新しく手に入れたアイテムの実験と魔物の弱点の確認だ。



「それじゃあ、早速試しに行きましょう!」



 張り切るマリルと共に、俺たちはダンジョンへと足を踏み込んだ。





 まずは《カネガネ》の粘着剤のテストから始めることにした。



 しばらく進むと、ラットモンスターが現れる。



 俺は試しに適当な量を床にまいた。



「さて、どのくらい効くか……」



 ラットモンスターが勢いよく駆けてくる。しかし——



「キィッ!?!?」



 足を踏み入れた瞬間、その場にぴたりと貼りつき、ほとんど動けなくなった。



「……まるで強力な接着剤だ。これはかなり役に立ちそうだな」



「これは大きな魔物でも足止めとかに使えそうですね」



 マリルが驚きの声を上げる。



 まずは、粘着液が罠や足止めに有効であることが確認できた。



「次は……強化薬を試すか」



 俺は強化薬を取り出すと、マリルにちらりと目を向けた。



「実は前にこれを使った時、効果が切れた瞬間あまりの疲労感に気絶したんだ。だから、もしもの時は頼む」



「えっ!? そんな危険なものを今飲もうとしてるんですか!? ちょっと待って——」



 マリルが慌てて止めようとするが、その前に俺は一気に飲み干した。



「……っ!」



 体が熱を持ち、筋肉が膨張する感覚が走る。



「おぉ……!」



 体が軽い、力がみなぎる。だが——



 ん? ……なんか、前ほどの力じゃない?



 俺は動きを試しているとマリルは驚いていた。



「えっ、すごい……! さっきより動きがずっと速いです!」



 だがやはり、以前のような爆発的なパワーは感じられない。



 しかも——



「……ん? これ、効果が切れたのか?……」



 ものの2、3分で力が抜ける感覚を感じ始めた。そして、次第に力はまるで感じられなくなった。



 それを聞いて心配そうにするマリルが口を開く。



「カテンさん、なんともありませんか?」



「ああ、身体は特になんともないし、疲労感もほとんど感じない」



「じゃあ成功ですね!」



「そうなんだが……前ほどの力も感じられかったんだよ。全体的に効果が薄れている感じがしたな」



「そうなんですか……なんだか、使い所が難しいアイテムですね」



 俺はマリルに軽く頷き、一息ついて口を開く。



「ひとまずアイテムを試すのはここまでにして、次はモンスターの魔石を直接鑑定できるか試しにいくか」



 そう言って、俺たちたちは魔物を探しに向かった。


 



 しばらくしてラットモンスターが現れる。



 俺はすかさず体内の魔石のある位置に【鑑定】を発動した。



――――――――――

《魔石》

氷属性:41%

闇属性:27%

風属性:18%

炎属性:14%

――――――――――



「……見えた!」



 俺は思わず声を上げた。



「カテンさん、うまくいったんですね!」



 魔物の体内でも部分鑑定は有効だった。



 これで、戦闘中に魔石の属性が分かるということだ。



 ここまではうまくいった。



 あとは属性の偏りで敵の弱点を見抜けるのかということだ。



 もしそれができれば——マリルの魔法を攻撃に使用できる!



「次は、この情報を活かして魔法を試してみるぞ」



 俺は、マリルに魔石の属性を伝えた、やつは氷属性が多い。予想通りなら炎属性が効くはずだ。



「わかりました、試してみます!」



 マリルが炎魔法を放つと——



「ギャギィィィッ!!」



 魔物が叫び声を上げる。



 マリルの魔法が直撃し、その体を包み込むように炎が燃え広がった。



 しばらくのたうち回っていたが、やがて力尽き、崩れるように倒れる。



 そして——



 シュウウ……と音を立てながら、魔物の体は消滅した。



 魔法が、確かに通じたのだ。



「……すごい! 今まで魔法を当ててもろくにダメージが通らなかったのに……」  



 マリルが息を弾ませながら俺を見る。



「カテンさん! わたし、魔物を……倒せました!」



 彼女の目は驚きと喜びが混じっていたが、すぐに不安げに俺を見上げた。



「……私、今本当に1人で魔物を倒せたんですよね……!?」



 マリルは嬉しさからか少し震えながら質問する。



 その問いかけに、俺は一瞬だけ言葉を探す。



 しかし、すぐに笑いながら答えた。



「おう、これからも頼りにしてるからな!」



 ぽかんと口を開けた後、マリルはパッと顔を輝かせた。



「……はいっ!」



 俺も嬉しくなり、彼女の肩を軽く叩いた。



 このまま他の魔物にも試してみよう。


 



 その後、俺たちが十分な採取を終えた頃、



 アルミラージにも粘着剤が有効だったことを確認し、さらに他の魔物にも鑑定を使い、属性の割合から弱点を割り出せることを証明した。 



「これなら確実にボスに挑める」



 俺たちはそう確信し、ダンジョンの出口へと向かった。



 道中、俺はふとアルミラージの角のことを思い出した。



「そういえば、マリルいつもより魔法を使って疲れたりしてなか?」



「そうですね、魔法で戦ったことなかったので……魔力も減って少し疲れました」



 俺はその言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべる。



「そんな君にこんなものがあるんだが……」



 そう言ってアルミラージの角からとれたゼリーを取り出す。



「カテンさん、まさかそれ……」



 マリルはそれを見て俺から少し距離を取った。



「さぁ、マリルさんこれを食べてみてください」



「カテンさん、ちょっと待って、まだ心の準備が———」



 不気味な笑みを浮かべたカテンは嫌がるマリルに無理やりゼリーを食べさせたのだった……





 ギルドに戻ると、受付にラフィーナがいた。



「あっ、カテンさん、おかえりなさい! 今日はどうでしたか? マリルさんなんでそんな不機嫌そうな顔してるんですか?」



「おう、まぁ色々あってな、今日はまず新アイテムを試してみてな——」



 俺は魔石の属性鑑定のことを含め、新アイテムの効果や戦闘での手応えを簡単に説明した。



「……え、すごくないですか、それ!?」



 ラフィーナが目を丸くして驚いていた。



「2人で相談もして、明日ボスに挑もうと思うんだ。そこでボスについて教えてもらおうと思ってな」

 


 少し前まで、ボス戦はまだ早いと心配していたラフィーナだったが、その様子はもうなかった。 



 むしろ、今は自信を持って頷いていた。



「十階層のボスはですね……三つ首の魔物、《ケルベロス》です」



「ケルベロス……」



「大きさは全長が約二メートル、高さも大体同じぐらいです。素早い動きに鋭い爪、そして三つの頭による攻撃をしてきます」



「ラットやアルミラージとは比べ物にならない強さってだな……」

 


「はい。でも、今の2人なら絶対倒せます!」





 ギルドを出た後、俺たちは並んで歩きながら静かに拳を握りしめた。



「ケルベロス……。三つの頭を持つ魔獣。これまでの敵とは桁違いの強さ……」



 マリルが力強く頷く。



「……頑張りましょう、カテンさん! 私たちなら絶対倒せます!」



 彼女の目は、不安よりも期待に満ちていた。



 俺はそれを見て、静かに微笑む。 



「明日は、全力で行くぞ」



 不安は俺にもある。だが、それ以上に——



 ワクワクしていた。  



 俺は、決戦の準備をするため宿に向かった。



「そいつを倒して俺たちは次の段階に行くぞ!」

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